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時間と心に余裕をもって ~失敗の原因は焦りと不安~


老親の介護問題は、ある日突然やってくる。不安と焦りを抱えたまま「百聞は一見に如かず」と見学から始めると高齢者住宅・老人ホーム選びは必ず失敗する。まず大切なことは、焦らず、慌てず、これからの生活をじっくり考えることのできる時間を確保すること。

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 002


転居というのは、新しい生活のスタートです。
「大学進学で、学生マンションを探している」
「結婚するので、二人で生活する賃貸マンションを探している」
「子供が生まれたので、分譲マンションを探している、家を建てたい・・」
ほとんどの人が希望を抱き、夢をもって、「どきどき、ワクワク」とした気持ちで新居を探しています。
高齢者住宅選びもそうあってほしいと願うのですが、残念ながら、有料老人ホームやサ高住を見学する家族、高齢者を見ていると、正反対に「不安・焦り」の表情で探している人が多く目につきます。


不安・焦りからスタートすると、素人事業者を掴んでしまう

それは、無理もありません。
介護問題は、準備できるものではなく、ほとんどの場合、突然やってくるからです。
田舎で、一人で元気に暮らしていた母が、脳梗塞で倒れたと近所の人から電話。
何とか一命を取り留め、ほっと安心したのもつかの間、病院からは早期退院を求められますが、右半身に麻痺が残り、車いす生活になるため自宅に戻ることはできません。特養ホームも一杯で、子供にもそれぞれ生活と事情があり同居は困難。八方ふさがりで、「これから、どうすればよいのだろう…」と途方に暮れることになります。
このような不安や焦りの中では、どうしても、「早く不安から解消されたい」「どこでも良いので早く探したい」という意識が強くなります。
それが、高齢者住宅・老人ホーム選びを失敗する最大の原因です。

不安と焦りの中でスタートする高齢者住宅選びの失敗ルートは決まっています。
一つは、「とりあえず見学すればわかる」と見学からスタートしてしまうこと。
実際に訪問し、高齢者住宅の雰囲気やサービスの質を確認することは、高齢者住宅選びに不可欠です。
しかし、基礎知識や事前準備もなくただ見学に行っても、一方的にセールストークを聞くだけになってしまいます。それでは、その場限りの質問しかできず、その説明を鵜呑みにして、「話をしてくれる人の感じが良い」「新しくて部屋がきれい」といった、見た目や雰囲気だけで決定することになります。

二つ目は、その場で即決してしまうこと。
高齢者住宅に見学に行くと、どこでも「介護になっても安心です・快適です」という話を聞きます。
「いまでしたら、すぐに入居いただけますよ…」
「車いすで大変でしょうから、病院の方に私たちが迎えに行きます…」
「まずはご入居いただいて落ち着かれてから、ゆっくりとお考えになれば…」
家族からすれば、「月曜日からは仕事にでなければならない」「ずっと休暇を取っているわけにもいかない」などの事情を抱えているため、その提案に「渡りに船」とばかりに乗ってしまうのです。

また、このように即決するということは、複数の高齢者住宅を比較しないということです。
高齢者住宅には、様々なタイプの商品があります。同じ介護付有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅といっても、それぞれ、一つ一つサービス内容や介護看護スタッフ配置、価格帯は違います。できるだけ多くの商品・サービスを比較、検討することが「高齢者・家族に最も合った高齢者住宅」を探すうえで不可欠なのですが、それをしないままに決めてしまうのです。


「それでも、たまたま良い高齢者住宅だったということもあるだろう・・」
「最初の出会い、インスピレーションは大切だと思う・・」
と反論する人がいますが、高齢者住宅事業に限って言えば、それはありません。なぜなら、このように「すぐに入居できますよ…」という高齢者住宅は、高齢者や家族の弱みにつけ込んだ、悪徳事業者・素人事業者だからです。

視点を変えて、事業者の立場に立って考えてみましょう。
高齢者住宅ビジネスというものは、「入居契約が締結できればOK」という単純なものではありません。住宅事業ですから、入居後に、その高齢者の生活、サービス提供がスタートし、それは3年、5年、10年と続いていきます。
また、ほぼすべての高齢者は高齢者住宅で生活するのは初めてで、大半の家族も高齢者住宅選びは初めての経験です。そのため「どのような契約内容なのか」「どのようなサービスなのか」「月額費用はいくらか、それ以外にどのような費用がかかるのか」「事故やトラブルのリスク」などについて、しっかり理解してもらわなければなりません。
「感じがいい」「新しいからきれいだ」という程度で、サービス内容や契約内容が十分に伝わらないままに契約されると、「聞いたサービス内容と違う」「パンフレットに書いてある費用と違う」と、入居後に大きなトラブルになるのです。

また、適切な介護を行うためには、「要介護状態」「既往歴・疾病」「認知症の有無」などを把握することが必要です。これをアセスメントと言います。感染症やBPSD(暴言、暴力行為などの周辺症状)がある場合は、受け入れできないケースもあります。その判断には現場の介護スタッフ、看護スタッフ、ケアマネジャーなどとの調整も必要です。通常は「アセスメント」⇒「入居の可否を判定」⇒「ケアプラン(どのような介護サービスを提供するか)の内容検討」⇒「ケアカンファレンス(介護サービスの内容説明と承諾)」など何段階ものプロセスを経て、始めて入居契約が可能となるのです。

要介護状態や既往歴などを把握しないまま入居になると介護サービス現場は大混乱します。
そのためプロの事業者は、部屋が空いていても、入居相談、入居見学の段階で「すぐに入居できます」「いつでも入居できます」とは絶対に言いません。言い換えれば、すぐに入居できるのは、入居率が上がらずに困っている、かつ事故やトラブルなどのリスクを理解していない典型的な素人事業者なのです。
このような高齢者住宅に入居を決めると、「聞いた話と違う…」「もっとキチンと選べば良かった…」「親の申し訳ない…」と、その後悔は、親が高齢者住宅に入居したあとも、そして亡くなった後にも、ずっと続くことになるのです。
実際に、そんな後悔をしている人がたくさんいるのです。


まずは、じっくりと高齢者住宅・老人ホームを探す時間を確保する

親や親族の介護問題に直面した時、まず重要なことは、これからの生活をじっくりと考える時間的な余裕を確保することです。
もちろん、ほとんどの人は介護の専門家ではありませんから、自分だけで背負い込む必要はありません。
まずやるべきことは、「地域包括支援センター」に相談をすることです。そうすれば、介護が必要になったときに、どのような制度があるのか、どのようなサポート体制があるのか教えてくれますし、要介護状態であれば、担当のケアマネジャーがついてくれます。
その専門家と一緒に考えていけばよいのです。

介護が必要になれば、まず地域包括支援センターに連絡

知っておくべきことは、これだけです。

例えば、先ほどの「母親が急に、脳梗塞で倒れて右半身麻痺になった」というケース。
病院から退院を求められていても、最近では「リハビリ専門病院」が増えています。
認知症がなく、リハビリをすればトイレは自分で行ける、身の回りのことは自分でできるくらいに回復できるとなれば、住宅改修をすれば、訪問介護や通所介護を利用しながら、自宅で生活することができるかもしれません。
また、「やはり自宅で生活するのは難しい」となった場合でも、老人保健施設のミドルステイ(3ケ月程度)を使えば、リハビリをしながら要介護状態を安定させ、その間に本人・家族で相談し、ゆっくりと高齢者住宅を探すことができます。
どのような状況なのか、リハビリでどの程度回復するのか…、どんな方法があるのか…など、プロとゆっくり相談すれば良いのです。

中には、「親の介護問題がそろそろ…」と不安を持っている人もいるでしょうが、これも不要です。
どれだけ細かく想定しても、ほとんどの場合、その通りにはなりません。不安なのであれば、毎日電話して、声を聴いて、日々の状況を把握することです。
あとできることは、そのエリアの地域包括センターの電話番号を調べておくことくらいでしょうか…

介護問題に直面した時に、最も重要なことは、その時に慌てず精神的な余裕をもつことであり、じっくりとこれからの生活を考える時間を確保することなのです。


ポイントとコツを知れば高齢者住宅選びは難しくない

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