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重要事項説明書 ③ ~建物・権利を読み解く~

高齢者住宅。重要事項説明書の建物設備・権利関係から見えること。土地・建物の権利関係から見える経営の安定度。高齢者の生活、介護のしやすさに直結する建物設備からは、その高齢者住宅事業者の経験やノウハウが見えてくる

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 037


次は、建物設備、権利関係のチェックです。
中度重度要介護高齢者住宅の基本② ~建物設計~で述べたように、要介護高齢者住宅の基本となるのは、「建物設備」です。要介護高齢者の生活のしやすさ、介護スタッフの介護のしやすさを考えて作られた建物設備か否かは、そのままその事業者のノウハウを示すものです。
また、その権利関係からは、その経営の安定度も見えてきます。
この建物設備、権利関係は、たくさんのことが読み取れる重要チェックポイントです。

施設・設備等の権利関係をチェックする

まずは、敷地、建物の概要、権利関係のチェックです。
これは、重要事項説明書を読み解く ① ~類型・表示事項~で述べた入居者の居住の権利ではなく、その事業者が高齢者住宅事業を行うにあたって、その土地や建物を所有しているのか、賃借しているのか・・という事業者の権利関係です。入居者には一見無関係のように見えますが、有料老人ホームは不安定な「利用権」ですから、倒産すると入居者も出ていかなければなりません。そのため入居者の居住の安定だけでなく、経営の安定度を理解する上でも重要なポイントです。

まず一つは、敷地の権利です。
一般的には、その高齢者住宅がその事業者の所有地の上に立っている(所有)か、借りている土地の上に立っている(賃貸借)かです。
下例の場合、土地はその高齢者住宅を運営する法人の所有です。ただし、その購入において銀行からお金を借りていて、その担保として抵当権に入っているということを示しています。建物も同じ、所有ですが抵当権ありです。土地も建物も賃貸、または土地は賃貸・建物だけ所有という高齢者住宅もありますが、土地が所有で建物は賃貸というケースは、ほとんどありません。

通常これだけだとわかりやすいのですが、現在の有料老人ホームの中に、下記のように敷地の権利形態が【-】で、建物の権利形態が【賃貸借】となっているものが少なくありません。
これは、「サブリース」「一括借り上げ」と呼ばれるタイプの有料老人ホームです。
例えば、ある個人地主が所有している土地を、建築会社・住宅会社が借りてその上に有料老人ホームを建てます。建物所有者は建築会社・住宅会社です。それを有料老人ホームの運営法人が一括で借り上げて運営するといった形態です。有料老人ホームの運営会社が直接、その土地を地主から借りているわけではありませんので、土地の権利形態は【-】となります。

これらの権利関係を経営の視点から見た場合、最も安定しているのは、言うまでもなく「所有」です。
土地や建物を所有しており、加えて抵当権がないということになれば、資産状況はとても安定していると考えて良いでしょう。逆に「賃貸タイプ」は、建築時に土地や建物を購入しない分、初期費用を抑えられるという側面はありますが、入居率に関わらず、毎月、高額の賃借料を払い続けなければなりません。
ただ、これも実質的には親会社が所有している土地というケースもあります。経営の根幹に関わることですから、きちんと確認しましょう。

権利として最も不安定なのが、最後の「サブリース」のタイプです。
直接借りているわけではなく、途中に複数の会社が入りますから、土地・建物の権利関係が複雑ですし、それだけ賃借料も高くなります。また、下記のような権利形態が【-】で、抵当権【あり】というのは、その土地の所有者も、建物所有者も銀行からお金を借りているということです。どこかで資金がショートすれば連鎖的に倒産します。
「サブリースタイプはダメ」というわけではありませんが、一般の賃貸アパート経営などでも、この「サブリース」は様々な問題が発生しています。特に、有料老人ホームの居住者の権利は法的に定められた「借地権」ではなく「利用権」ですから、事業上の権利の不安定は入居者の居住の権利の不安定に直結します。そのため入居率や、その経営状態をしっかりと確認することが必要です。

もう一つ、この権利関係で重要なのが、契約期間を示す「賃貸借契約の概要」と呼ばれる部分です。
この有料老人ホームは、法的には個人住宅の借地ではなく、事業用の借地です(ややこしいのが割愛しますが、個人住宅用か事業用かは法的な権利形態が違います)。
ほとんどは事業用定期借地契約という特殊なもので、10年、20年というその事業期間を契約で設定して土地や建物を借り、その期間を超えれば返還しなければならないというのが基本です。それでも通常の場合、契約期間を超えても自動的に更新されるようになっているものが多いのですが、中には「自動更新なし」というものもあります。その場合、「契約期間が終われば有料老人ホーム事業は終了、更地にして返還」となります。これが20年以上先ということであれば問題ないという人もいますが、建物や設備が壊れても「あと、10年程度で壊すんだから・・・」ときちんと修繕が行われないリスクもあります。特に、10年未満であれば無理に選択しない方がよいでしょう。

ここには竣工日や構造も書かれています。
竣工日は、その建物が出来上がった日です。これも、重要事項説明書を読み解く ② ~事業主体・事業所概要~ の事業開始年月日、届け出年月日と照らし合わせる必要があります。
通常、竣工日は事業開始年月日の数か月前ということになりますが、中には事業開始年月日の10年、15年前というところもあります。それは、有料老人ホームとして建てられたのではなく、当初は社員寮や学生寮として建てられたものを、有料老人ホームとして改築した物件だということです。改装物件はダメというわけではありませんが、「社員寮・学生寮」と「要介護高齢者住宅」は建物設備の考え方は基本的に違います。見学などで、使いやすい建物になっているか、きちんと確認することが必要です。

また、防災の視点からの構造のチェックも重要です。
この構造は、「耐火建築物」「準耐火建築物」「一部耐火・一部準耐火」「その他」に分かれます。
高齢者は災害弱者ですし、特に要介護高齢者が集まって生活しているのですから、火事になると一人で逃げ出すことができず、大惨事に発展します。そのため、火災や災害対策は重要なチェックポイントです。有料老人ホーム、サ高住などの事業種別を問わず、耐火建築物、もしくは準耐火建築物であることが絶対条件だと言えます。

建物設備の概要をチェックする

もう一つは、建物設備の概要のチェックです。
介護保険制度が始まるまでの有料老人ホームは、どちらかと言えば自立~要支援程度の自立度の高い富裕層の高齢者を対象としたものが中心でした。元気な時は自分の部屋(居室)で生活するものの、介護が必要になれば一時介護居室に入ったり、特養ホームに転居するというのが一般的でした。そのため、介護保険前からある有料老人ホームは、「一般居室」の他に「介護居室」が設置されているところが多く、これを分離して記入するようになっています。重要事項説明書を読み解く ② ~事業主体・事業所概要~ の【事業開始年月日】を参照するとわかりますが、「一時介護室」があるところは、介護保険制度前から運営している有料老人ホームが多いということがわかるはずです。

これに対して、介護保険制度以降を対象とした介護付有料老人ホームは、基本的に要介護高齢者を対象としていたるために、一時介護室というものはありません。
繰り返しになりますが、介護保険制度以前に建てられた有料老人ホームと、介護保険制度以降に建てられた有料老人ホームは、基本的に建物設備の考え方が違います。そのため、要介護2以上の要介護高齢者が介護目的で高齢者住宅に入居するのであれば、介護保険制度以降に作られた介護付有料老人ホームが適していると言えるでしょう。

その他設備も確認しておきましょう。
基本的に、現在の有料老人ホームは、全室個室でトイレは居室内に設置されています。
ただ、食事中や入浴前に、急にトイレに行きたくなることはありますし、車いす生活になると走って部屋に戻るということもできません。そのため少なくとも、浴室や食堂などの近くには、共同トイレが設置されていなければなりません。
逆に、要介護高齢者を対象とした高齢者住宅の場合、基本的に浴室は居室内にありません。それは、車いす高齢者など重度要介護高齢者が安全に入浴、介助するためには、特殊な浴槽や非常に大きな浴室脱衣室スペースが必要になるからです。

ただ、この共用の浴室・脱衣室の考え方も大きく変わってきています。
これまでの有料老人ホームや特別養護老人ホームでは、大浴槽が中心で、介護が必要になれば、車いすや寝たまま入浴できる「特殊浴槽」で入浴するのが一般的でした。しかし、最近は、要介護状態なっても、シャワーキャリーや介助リフトなどを一体的に運用できる要介護高齢者向けの個別浴槽(個浴)が増えてきています。
この入浴設備も、高齢者住宅のノウハウや機能を図る重要なチェックポイントです。

また、中度・重度 要介護高齢者住宅選びの基本 ~建物・設備設計~ で述べたように、要介護高齢者の住宅は、食堂、浴室と居室は同一フロアというのが原則です。
ただ、残念ながら、この重要事項説明書の居室数や共用トイレ、共用浴室の表示だけでは、食堂や浴室が同一フロアにあるのか、どのような生活動線、介護動線になっているのか、どのような入浴設備なのかはわかりませんので、平面図が載っているパンフレットやホームページなども併せてチェックしましょう。居室と食堂・浴室が分離しており、かつエレベーターが一台しかない・・となれば、要介護高齢者住宅としては不適格です。

もう一つ重要になるのが、消防設備や緊急呼び出し装置(スタッフコール)です。
述べたように、高齢者は災害弱者ですし、特に要介護高齢者が集まって生活しているのですから、火事になると一人で逃げ出すことができず、大惨事に発展します。そのため、制度基準や定員数に関わらず、火災の早期発見、通期通報、初期消火の設備は不可欠なものです。
また、スタッフコールも各居室の他、急変にも対応できるよう共用トイレ、浴室脱衣室に設置されているのが原則です。
ですから、制度基準の有無に関わらず、すべて「あり」のところを選びましょう。


高齢者住宅選びの根幹 重要事項説明書を読み解く

  ⇒ 重要事項説明書を読めば、高齢者住宅のすべてわかる 🔗
  ⇒ 重要事項説明書 ① ~老人ホームの全体像を読み解く~ 🔗
  ⇒ 重要事項説明書 ② ~事業主体・事業所概要を読み解く~ 🔗
  ⇒ 重要事項説明書 ③ ~建物設備の権利関係を読み解く~ 🔗
  ⇒ 重要事項説明書 ④ ~スタッフ数・勤務体制を読み解く~ 🔗
  ⇒ 重要事項説明書 ⑤ ~介護サービスの専門性を読み解く~ 🔗
  ⇒ 重要事項説明書 ⑥ ~介護スタッフの働きやすさを読み解く~  🔗
  ⇒ 重要事項説明書 ⑦ ~提供されるサービス概要を読み解く~  🔗
  ⇒ 重要事項説明書 ⑧ ~協力病院など医療体制を読み解く~  🔗

高齢者住宅選びの基本は「素人事業者を選ばない」こと

  ☞ ポイントとコツを知れば高齢者住宅選びは難しくない (6コラム)
  ☞ 「どっちを選ぶ?」 高齢者住宅選びの基礎知識 (10コラム)
  ☞ 「ほんとに安心・快適?」リスク管理に表れる事業者の質 (11コラム)
  ☞ 「自立対象」と「要介護対象」はまったく違う商品 (6コラム)
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