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【ケース7】不正を訴えても「自己責任でしょ」と無関心の役所

「介護が必要になっても安心・快適」と聞いて入居したサ高住は、不透明な費用請求と劣悪なサービス。押し売りサービスや不正請求など、あまりにもひどい状況を訴えたが、役所は「選んだ家族の責任」「民間契約だから」と全く対応せず・・

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 060


入居者・・・実母(80代後半)、車椅子利用、要介護3

父が亡くなってから田舎で一人暮らしていた母が脳梗塞になり入院。一命はとりとめたものの、半身麻痺になり住み慣れた田舎の古い家で生活することは難しくなりました。本人は大丈夫だと言っていたものの、80歳を超えたころから足腰が弱くなってきたことから、夫とも相談し、将来的には私たちの近くに住んでもらおうと話していました。
とはいえ、急に要介護3となり、日中は仕事をしているため同居も介護もできないため、介護機能の整った高齢者住宅を慌てて探し始めました。 近くの地域包括支援センターに相談したり、夫婦で見学にいったりしていましたが、私たちの家から15分程度のところにあるサ高住に入居することにしました。
当初は、介護付有料老人ホームの方が良いのでは・・と考えていたのですが、近くにある介護付は25万円以上と高額だったことや、「訪問介護併設で安心」「要介護3、4の人も多く入居している」「お任せください」と説明を受け、「近くで、毎日会いに行けるのが一番良い・・・」と決めました。
しかし、実際に入居すると、その実態は、聞いていたサービス・生活とは全く違いました。

一つは、不透明な費用です。
パンフレットには15万円と書いてあったのですが、それには介護保険の一割負担は含まれていませんでした。また、半身麻痺はあるもののトイレに座ることのできる状態だったので、入居後すぐにポータブルトイレを購入するように言われたのですが、すぐに「転倒すると危ないから・・」とオムツをつけられてしまい、ポータブルトイレは全く使われなくなってしまいました。またその紙おむつも市価のものより1.5倍ほど高いため、同じ紙オムツを準備すると言ったのですが、なぜか「持ち込み禁止」となっており、どのように枚数を計算しているのか、本当に使われているのかどうかもわかりません。それ以外にも、食事時のエプロンや補助具のスプーンなども指定のものを買うように指示されました。
そのため、月額の費用は医療費を含めると30万円近くになる月も数回ありました。その支払いは、その高齢者住宅の取引銀行の支店に口座を作るように指示され、医療費や介護費用、その他費用も一方的に引き落としとなり、領収書が部屋の引き出しの中に入っているというだけです。

もう一つは、不透明で劣悪なサービスです。
母は血圧が高いため薬を飲んでいましたが、内科以外にも精神科や眼科、歯科、精神科などの診療が毎月行われており、なぜ受診させるのかという家族への事前説明や、どのような診察を行ったのという説明も一切ありません。介護スタッフの人に聞こうと思っても、ほとんどフロアに人はいませんし、聞いても「私はヘルパーなので、聞かれてもまったくわかりません」「ケアマネさんに聞いてください」というだけです。しかし、ケアマネジャーは最初に一度会ったきりで、「この書類にサインをしてください」と言われただけで、どこにいるのかもわかりません。また、入居時に説明を受けた方は、その高齢者住宅の人ではなかったということもわかりました。

ケアプランでは、毎日決まった時間通りにホームヘルパーが来ることになっていますが、その時間に来られたことは一度もなく、「30分介護」といっても、オムツを交換して5分もしないまま出ていかれます。食事介助を受けることになっていますが、母は一人で食べられるため介助は必要ありませんし、膳を上げ下げするだけで誰も介助していません。
また、母は3階にある自分の部屋ではなく、いつも食堂に連れ出されたままになっており、他の数人の車いすの方と同じように、そのテーブルにうつぶせにぐったりしていました。私が訪問した時は、部屋に連れ帰るのですが、ヘルパーさんから「勝手なことをしないで!!」「帰る時は食堂に戻してください!!」と叱られてしまいました。たまたま、他の家族の方と話をしたところ「介護の必要な人は毎朝3時半に起こされる」「ずっとそのまま食堂にいる」と聞いて、仰天しました。

最初の一ヶ月で「とんでもない高齢者住宅に入れてしまった」と、目の前が真っ暗になりました。
誰に相談すれば良いのかもわからないので、最初に話をきいた地域包括支援センターに行くと「行政に相談した方が良い」とアドバイスを受けました。
しかし、実際に役所に行くと、複数の担当課をたらいまわしにされた結果、「基本的に事業者とご家族との契約なので…」「3時半はひどいけど、何時に起こすという規定はない…」「明確な不正請求があれば指導しますが証拠が…」といった逃げの一手で、「高齢者住宅を選んだ家族の責任」「不必要なサービスは断ればよい」と、役所には関係ない、家族が悪いという対応でした。

もちろん、私たちの選び方が悪かった、選んだ責任があるということは認めます。自宅での介護であれば「そんな介護サービスや過剰な診療はいらない」と断ることができるでしょう。
しかし、「適切に介護サービスを提供してほしい」「不必要な医療はいらない」という以前に、それが必要かどうかという説明さえありません。また、入居後にその高齢者住宅のサービスが劣悪たからと言って、要介護3の母をすぐに退居させることはできませんし、頼みの特養ホームは一杯のため入所させることもできません。「まずは事業所とよく話し合ってください」と言われても、有料老人ホームとは違い、サ高住は単なる賃貸住宅でホーム長や責任者という人がおらず、そこで働いている誰に聞いても「それぞれサービスはバラバラの別契約なので、私に言われても困る」という状態なのです。

結局、私が仕事を辞めることになり、ほぼ毎日、10時頃から夕方までその高齢者住宅に通い、自分で介護することにしました。その間はホームヘルパーは入っていないはずですが、その間も変わらず訪問介護サービスが使われたことになっていました。
結局、それから一年もたたないうちに、そのホームで脳梗塞が再発し、病院でなくなりました。
今でも(母の死から2年)、そのサ高住は運営しており、我が家にも時折、入居者募集の折り込みチラシが入ります。キレイな写真とともに、「安心・快適」「プロの介護のお任せください」「万全の医療体制でいざというときも安心」と言った美辞麗句が溢れています。結局、「指導を考える・・」といった行政も何もしていないということです。補助金をだして、たくさん数をつくっておいて、「役所は関係ない」というのはあまりにも無責任で、事業者だけでなく、役所に対しても怒りが収まりません。
本当にひどい高齢者住宅に入れてしまったと、母に申し訳なく、今でも思い出すと涙がでます。

【失敗の原因は何か・・どうすればよかったのか・・】

「とんでもなく酷い高齢者住宅だ!!」「そんなひどいところがあるのか!!」と驚くかもしれませんが、残念ながら「全体の一部」というほど少ないものではありません。またこれは「囲い込み」という医療や介護などの社会保障の不正利用でもあります。ただ、一方でこのような高齢者住宅が「介護できないから、高齢者住宅にお任せ…」と放置している家族の受け皿となっているということも事実です。

高齢者住宅に入ると、24時間家族が付き添うことはできませんから、どのようなサービスが提供されているのか把握することはできません。
「高齢者住宅は自宅と同じ」という人がいますが同じではありません。自宅と同じであれば、住み慣れた自宅で生活する方が良いでしょう。また「そんな医療など必要ないのに」「訪問介護ではなくデイサービスがいいな」「ヘルパーさんを代えてほしい」と思っても、本人・家族は「お世話になっているから」「本人が嫌な思いをするのではないか」と、嫌な言い方をすれば親が人質になっているため、反対しずらいからです。

また、有料老人ホーム、サ高住に関わらず、このような不正利用や劣悪なサービスが横行していても、行政の指導監査体制は有名無実化しているため、役所に訴えても全く役に立ちません。残念ながら、相談するところもなければ、改善される見込みもないというのが現実です。立場の弱い入居者や家族をクイモノにしてやりたい放題となっているのです。

しかし、このような高齢者住宅を事前に見わけることは、そう難しいことはではありません。
まず、常時介護が必要となる要介護高齢者や、将来の介護目的のために高齢者住宅に入居する場合、区分支給限度額方式の住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は対象外です。また、介護付であっても、居室フロアと食堂フロアが分離しているタイプのものは、車いす高齢者が増えてくれば、実質的に介護できなくなります。

表面的な低価格をアピールしている高齢者住宅も注意が必要です。「有料老人ホームよりも、サ高住の方が安い…」というイメージを持つ人が多いのですが、同じサービスであれば、同程度の価格になるのは当然です。「高齢者住宅制度が違うので、自己負担が変わる」などということがあるはずがありません。表示をわかりにくくしてごまかしているか、また不必要なサービスをたくさん使わせて、そこで儲けるのかのどちらかです。

【参 照】
「居室・食堂フロア分離型」の高齢者住宅はなぜダメか 
「介護サービス併設で安心」の高齢者住宅はなぜダメか 
表面的な低価格アピールの高齢者住宅はなぜダメか   

劣悪な素人事業者と優良なプロの事業者の違いが、表れるのが入居前・契約前の説明です。
プロの事業者は、契約する前に、実際の生活やサービス内容、生活費がどの程度になるのか、丁寧に説明してくれます。それは「入居者・家族のため」ではなく、サービス内容やリスクについて十分な理解のまま契約をされて、入居契約後に「聞いた話と違う…」とトラブルになると困るからです。

高齢者住宅は単なる賃貸住宅ではなく、食事や介護などの生活支援サービスが一体的に提供されます。医療サービスも日常的に必要となるサービスの一つです。それぞれのサービス内容やそれにかかる費用、禁止事項などの理解なしに入居契約をすることはできないのです。
契約前、入居前であれば、入居者も家族も疑問点は質問して、じっくり考えて判断することができます。そこに「押し売りサービス」や「こんなはずではなかった…」が発生する余地はありません。

逆に、素人事業者は、本人・家族の生活上の希望についての聞き取りや、ケアプランやサービス内容、価格内容の詳細などについて事前には詳細に説明しません。「安心・快適」などの美辞麗句や、「恐らく、多分」といった曖昧な説明で、「とりあえず入居してから決めましょう」というスタンスです。
そう考えると、「すぐに入居可能」「お任せください」といった高齢者住宅が、いかに危うい、劣悪な素人事業者なのかがわかるでしょう。

【参 照】
「すぐに入居できます」という高齢者住宅はなぜダメか  
プロの高齢者住宅は絶対口にしない3つの「NGワード」 


「こんなはずでは・・・」 高齢者住宅選びに失敗した家族の声を聴く

  ⇒ 【F053】 高齢者住宅選びに失敗している家族に共通するパターン 🔗
  ⇒ 【ケースⅠ】 病院から紹介された有料老人ホームに入居したが 🔗
  ⇒ 【ケースⅡ】 「介護が必要になっても安心・快適」はイメージと正反対  🔗
  ⇒ 【ケースⅢ】 生活保護受給者をクイモノにする悪徳高齢者住宅 🔗
  ⇒ 【ケースⅣ】 高額の入居一時金を支払ったのに ~要介護対応の不備~  🔗
  ⇒ 【ケースⅤ】 高額の入居一時金を支払ったのに ~トラブル退居~ 🔗
  ⇒ 【ケースⅥ】 「協力病院」の医師に無理やり寝たきりにされた父  🔗
  ⇒ 【ケースⅦ】 不正を訴えても「自己責任でしょ・・」と無関心の役所🔗
  ⇒ 【ケースⅧ】 家族が住む近くに高齢者住宅を探せばよかった  🔗
  ⇒ 【ケースⅨ】 意見や希望を上手く伝えられずにストレスに 🔗
  ⇒ 【ケースⅩ】 月額費用の説明に対する誤解がホームへの不信感に 🔗

高齢者住宅選びの基本は「素人事業者を選ばない」こと

  ☞ ポイントとコツを知れば高齢者住宅選びは難しくない (6コラム)
  ☞ 「どっちを選ぶ?」 高齢者住宅選びの基礎知識 (10コラム)
  ☞ 「ほんとに安心・快適?」リスク管理に表れる事業者の質 (11コラム)
  ☞ 「自立対象」と「要介護対象」はまったく違う商品 (6コラム)
  ☞ 高齢者住宅選びの根幹 重要事項説明書を読み解く (9コラム)
  ☞ ここがポイント 高齢者住宅素人事業者の特徴 (10コラム)
  ☞ 「こんなはずでは…」 失敗家族に共通するパターン (更新中)




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