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【ケース9】意見や希望を上手く伝えられずストレスに・・・

当初は気に入っていた介護付有料老人ホーム。しかし、別ホームの新規開設によるスタッフの入れ替えによってサービスが低下。「よくやっていただいている」という感謝の一方で、上手く意見や希望が伝えられずにストレスに・・

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 053


入居者・・・実母(80代後半)、車椅子利用、 要介護2

一人暮らしだった母は、自宅で転倒、大腿骨を骨折し、年齢が87歳と高齢だったため、常時、車いすが必要な要介護状態(要介護2)となりました。
その市では、特養ホームは要介護3以上で、また認知症の高齢者が優先されるため、対象外だと聞いていました。また、病院の相談員の方からは、病状の安定期も含めて、入院期間は3週間程度になるため、リハビリ病院や老健施設にいったん入院・入所するとしても、自宅で生活できないのであれば、できるだけ早くから情報収集など介護付の有料老人ホームを探し始めた方が良い…とアドバイスを受けていました。同居することは難しく、また本人も介護が必要になれば老人ホームに入ると言っているため、本人に代わって民間の高齢者住宅を探すことにしました。

いくつかの高齢者住宅を見学したのですが、同じ市内の私たちの自宅にも近い場所に、数年前にできた介護付有料老人ホームがあり、相談員さんも「(紹介はできないけれど)あまり悪い噂は聞かない」とのことで、そこに決めることになりました。大手がやっているところではなく、単独のところでした。
退院後、リハビリ回復期病棟に2ヶ月ほど入院し、その後一週間ほど、自宅に戻って私が介護しながら準備をして、それから介護付有料老人ホームに入居することになりました。
母はずっと専業主婦だったため、他の入居者の方と上手く溶け込めるかと、とても心配で、最初の頃はほぼ週に3~4回は通っていましたが、他の入居者の方とお話をしたり、思ったよりも溶け込んでいるようで、家庭的な雰囲気で介護スタッフの方にも優しくしていただき、私たちも安心していました。

しかし、その翌年の4月に、その運営会社が新しいホームを開設されたことから、職員さんの大幅に入れ替えがありました。その結果、新しい介護スタッフの方がたくさん入ってこられてから、以前と比較してサービスの質が変わってしまいました。洗濯物が畳まれないまま食堂のテーブルの上に出したまま放置されていたり、部屋が掃除されていないなど、目に見えてサービスレベルが低下してきたのです。

ホーム長さんは変わっていませんでしたし、信用していましたので、何度かお伝えしようとおもったのですが、介護スタッフへの告げ口になるような気がして、また「母が嫌な思いをするかもしれない」「介護してもらえなくなったらどうしよう」と悩み、なかなか言い出せませんでした。同じように週に何度か行っていたのですが、言葉遣いや服装の乱れなど小さなことが目に付き「言いたい・言えない」ことに、ストレスが溜まっていきました。

しばらく、どうすればよいかと悩んでいたのですが、ちょうどバス停で、以前から勤めておられる相談員の方にお会いし、サービス内容のことで相談したいことがあると伝えました。
それはすぐにホーム長さんに伝わり、面談する機会を設けていただき、胸に詰まっていたことを、じっくりとお話することができました。ホームとしても、新人スタッフが増えたこともあり、以前と比較してサービスが安定していないことは、感じておられたようです。サービス低下やなかなか言い出せない雰囲気だったこと、家族の意見を聞く機会が少ないことに対しても(私が勝手に悩んでいただけなのですが)、反省を述べられ、意見に対して感謝いただきました。

その後少しずつですが、サービスは以前の良い状態になっていきました。もちろん、母に対するいやがらせなども全くありませんでした。逆に、こちらも「言葉遣いが良くない」「洗濯物がだしっばなし」とできていないことを指摘ばかりするのではなく、「これもリハビリよね・・」と母とリビングで話をしながら、一緒に洗濯を畳んだり、整理したりすると「すいません、ありがとうございます、助かります」と感謝され、他の入居者やスタッフの方とも仲良くなることができました。
もちろん、良かれと思っても、安易に手を出してはいけないことはありますが、「こちらは入居者・家族」「そっちはスタッフ」と、壁を作ってしまうのも良くないと考えさせられました。

私の体験は、ホーム全体の家族会で、ホーム長から要請で、他の入居者の家族の前でもお話させていただきました。 母は数年前に他界しましたが、スタッフの方に街で会うと、いまでも「〇〇さん、こんにちは・・」と声をかけていただきます。老人ホームで快適に生活するためには、家族の役割もとても重要だと感じています。

【失敗の原因は何か・・どうすればよかったのか・・】

どんなに細心の注意を払って高齢者住宅を選んでも、また、そのホームを信頼していても、生活を続けていく上で、必ず不満や疑問点はでてきます。100満点の老人ホームはありません。
また、多くの家族は、「一生懸命やってくれているのに文句を言えば悪い」「本人が後で嫌な思いをするのではないか」と躊躇され、胸にしまい込んでしまわれる方が大半です。言いたいことが言えない、上手くコミュニケーションをとれないことがストレスになるという人は多いようです。

ただ、高齢者住宅は、集団生活で決められたサービスを全入居者に一律に提供している訳ではありません。それぞれ希望や生活歴の違う個人の生活をサポートしているのですから、その中で疑問や不満は出てきて当然なのです。

例えば「居室の掃除が行き届いていないのでは?」と感じられたとしましょう。入居者によっては、キチンと隅々まで掃除してほしい人と、あまり細かいところまでふれて欲しくない人、勝手に触られるのを嫌う人もおられます。そこまで契約や入居時に決めることはできませんし、家族と本人でも違いがあり、その時の状況や気分によっても変わってきます。
好みや考え方は人によって違いますから、その入居者に最適のサービスを提供するには、小さなことでもご本人やご家族から意見を言ってもらえないとわからないのです。良いサービス、良い有料老人ホームを作っていくためには、ご家族の意見が大切なのです。

ポイントは、ため込みすぎて「感情的なクレームにしない」ということです。言いたいことが上手く伝えられないと、どうしても「あれができていない」「スタッフの態度が悪い」というところばかりに目が行き、どんどんそのホームやスタッフのことが嫌いになっていきます。その感情はスタッフにも必ず伝わりますし、介護スタッフも人間ですから、どんどん感情的な溝が深くなっていきます。そうなると、一番嫌な思いをするのは、入居者本人ということになります。
感情的なクレームになる前に、しっかりと丁寧に、やわらかく希望や意見を伝えましょう。中には、対応できないものもあるかもしれませんが、「プロなんだから…私たちはお客様なんだから…やってもらって当然」ではなく、家族とホームが連携して、より本人が暮らしやすい環境を一緒に作っていくという視点が必要なのです。

ただ、 これは、高齢者住宅選びの時に、チェックすべき事項でもあります。
気になることを伝えたいと思っても、ばたばたと忙しく働いている介護スタッフの手を止めて、「実は…」と話をすることなど実際にはできないからです。
そのため、きちんとした老人ホームでは、ケアカンファレスなどで、定期的に家族が意見を言える場を作っています。スタッフ全員の前で言いにくいということもありますので、定期的に管理者と家族面談を行っているところもあります。それは、優良なノウハウのある高齢者住宅は、安定して経営・サービスを提供するためには家族との関係や意見が大切だと言うことを知っているからです。

説明会などで、「入居後に意見や疑問に思ったこと、サービスへの希望はどうのようにお伝えすれば良いですか?」と聞いてみましょう。入居後2ケ月以内、その後は半年に一度と定期的な家族との面談を実施しているところあれば、「いつでも、だれでもよいので近くのスタッフに言ってください」というところもあります。
残念ながら、後者は「口先だけで話を聞く気はないな…」ということがわかるのです。


「こんなはずでは・・・」 高齢者住宅選びに失敗した家族の声を聴く

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高齢者住宅選びの基本は「素人事業者を選ばない」こと

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