「囲い込み」は何が問題なのか

拡大する囲い込み不正 ~介護医療の貧困ビジネス詐欺~


この囲い込みビジネスモデルの背景にあるは、「介護保険制度・ケアマネジメントの基礎をしらない」という無知だけではい。共通するのは「企業としてのコンプライアンス・介護の倫理観が非常に低い事業者が多い」ということ。
今や、その不正は認定調査、不正請求、医療保険にまで拡大している

高齢者住宅の「囲い込み」とは何か、何が問題なのか 06 (全9回)


この囲い込みの背景にあるは、「介護保険制度の基礎をしらない」という無知だけではい。
厳しいようだが「企業のコンプライアンス・介護の倫理観が非常に低い事業者が多い」ということだ。そのため「どこでもやっている」「サ高住だけではない」という確信犯的な言い訳が増えることになる。
問題の根幹は、「ケアマネジメントに対する第三者の介入」にある。本来、それぞれの要介護高齢者の「生活向上」のために行われるべきケアマネジメント・介護サービスが、「どうすれば最も少ないコストで、多く介護報酬が得られるか」に変わっている。それは介護保険財政悪化要因だけでなく、要介護高齢者の生活の崩壊や死亡事故を発生させている。

今や、高齢者住宅の囲い込み不正は、より高い利益を求めて「認定調査の書き換え」「介護報酬の不正請求」へとつながり、更には医療保険へと拡大しているのだ。


要介護認定調査に対する不正

「囲い込み」は、入居者が負担すべき家賃や食費を大幅に下げて入居者を集め、同一・関連法人の訪問介護や通所介護を区分支給限度額全額まで利用させることで、利益を上げようというビジネスモデルだ。
そのためには、「たくさん介護サービスを使える人」、つまり、入居者としては重度要介護高齢者がありがたいということになる。
日経新聞社が、高齢者住宅 サ高住の異変」 ~安いほど増える要介護高齢者 で指摘しているように、低価格のところほど、重度要介護高齢者を増やす・・というということになる。
この不正はすでに次の段階に入っている。
その一つは、要介護度を決める「認定調査」の不正だ。

要介護度認定は、担当しているケアマネジャーから出される認定調査票と、かかりつけ医の意見書によって、各市町村の「介護認定審査会」が判定する。
しかし、高齢者住宅、関連法人のケアマネジャー、協力病院の医師が結託し、実際の要介護状態よりも重く認定されるように、調査票や意見書を不正に書き換えているところが増えているのだ。私は、以前、ある政令都市の介護認定審査会の委員をしていたが、その目で実際に高齢者住宅を見学すると、実態よりも明らかに要介護度が重く判定されているケースが数多く見つかる。

これは私の主観だけではない。
ある日、銀行時代の先輩から相談があり、「叔母がサ高住に入ったら、要介護2だと言われ(それまでは要支援1だった)、その半年後に要介護3にあげて良いか…」とケアマネジャーから聞かれたという。実際の状態はほとんど変わっておらず、かえって元気になったほどだという。
もちろん、要介護度を決めるのは認定調査会であり、ケアマネジャーが家族に対して、「要介護3にしたい…」と相談するものではない。医師が家族に対して、「胃がんの状態をステージⅢにしてよいか(本当はステージⅠだけど)?」と聞くようなものだ。

もう一つ、例を挙げる。
数年前にNHKの夕方の情報番組で紹介された、ある大手のサ高住の特集。
カメラが入ったのは、70代後半の上品な女性入居者。テレビに映るからなのかお化粧も、服装もきちんとしている。「自宅でキュウリの漬物を作っている」と言い、部屋の中のキッチンでそれを切ってスタッフに配る様子が映っている。「施設とは違い、自由なのです・・」というナレーション。
次は、買い物のシーン。女性は一人で買い物かごを下げてスーパーの中を歩きまわり、レポーターとヘルパーがその後ろを付いて歩く。「重くありませんか?」というヘルパーの言葉で、「そうね。じゃあ持ってもらおうかしら・・」と買い物かごをヘルパーに渡す。「お買い物など日常生活にはヘルパーさんがサポートしてくれるので安心」とナレーションが流れる。
彼女の要介護度は、「要介護2」だという。

(要介護2 の状態像)
◆ 軽度の介護を要する状態
◆ 立ち上がりや歩行が自力ではできない場合がある。
◆ 排泄や入浴などに一部または全介助が必要。問題行動や理解の低下が見られることがある。

間違いなく、彼女の要介護度は自立だ。
「サ高住に重度要介護の高齢者が増えている」という報道は多く、認定上はそうなのであろうが、実態は自立、要支援、要介護1程度の人も少なくない。
事業者は、「どのような書類を出せば要介護度が重くなるか」がわかっている。それは「実際の要介護状態」と全く違う調査報告に改竄されているということであり、テレビで報道されることに疑問を抱かないほど、半ば公然と行われているということだ。 併設や系列の介護サービスを使わせるために、実態とはまったく違う要介護認定が行われているのだ。


「やっていない介護」 介護報酬の不正請求

囲い込みをしている高齢者住宅は、異口同音に「不正はしていない」と言っているが、実際には介護報酬の不正請求も横行している。それは、「特定施設入居者生活介護」と「区分支給限度額方式」の介護システムの違いを考えればわかる。

「介護付有料老人ホーム」と「訪問介護併設 サ高住」の違いを例に挙げてみよう。
介護付有料老人ホームに適用される「特定施設入居者生活介護」は、日額の包括算定方式であり、Aさんの排泄介助が終わり、Bさんからコールがあれば、駆けつけることができる。これに対して、区分支給限度額の訪問介護の場合、「Aさんの排泄介助 1時30分~2時00分」とケアプランで決まっていれば、1時40分に排泄介助が終わっても、そのまま2時00分までは、Aさんとの契約時間のため、トイレを掃除したり、話相手をしたりして、Aさんのために時間を使わなければならない。

このように、同程度の要介護高齢者数、介護サービス量であっても、臨機応変に動くことができないため、また「見守り・声掛け」「緊急対応」など、対象外となる介助項目が多いため、区分支給限度額の訪問介護で対応するほうが、介護付よりも二倍~三倍の介護スタッフが必要になる。
しかし、要介護高齢者の多い、サ高住や住宅型有料老人ホームの夜勤帯や食事時間帯の訪問介護のホームヘルパーを見ると、介護付有料老人ホームのスタッフ配置と変わらない。また、働いている訪問介護のホームヘルパーの業務体系や働き方も特養ホームや介護付有料老人ホームの介護スタッフと全く同じだ。

それは、報酬請求の書類上は、それぞれの入居者と個別に契約し、時間通りに個別に介助したことになっているが、実際は、全く違う内容、時間で介助を行っているからだ。報酬算定上は「複数高齢者に対する訪問介護」と言っているが、実際には、それさえも行っていない。
実際、サ高住や住宅型で働いていたというケアマネジャーやホームヘルパーと話をすると「介護付と同じ臨機応変に介助している」「ケアプランなんて見たことない」という話がゴロゴロとでてくる。
なぜ、このようなことができるかと言えば、保険請求のシステムに欠陥があるからだ。


介護報酬請求は、一ヶ月単位で行われる。
図のように、居宅介護支援事業所(ケアマネジャー)は、ケアプランを元に作成した次月のサービス提供表(予定表)を、訪問介護サービス事業者に交付する。訪問介護サービス事業者は、この提供表に従って、利用者に訪問介護サービスを実施し、その月の終了後、実際に行ったサービス実績表をケアマネジャーに返送する。ここで、ケアマネジャーはケアプランに基づいて、適切にサービスが提供されているかを確認する(第一チェック)。

その後、ケアマネジャーは「給付管理表」を、訪問介護サービス事業者は「介護給付費請求」を、それぞれ別々に国保連(国民健康保険団体連合会)に提出する。国保連が双方のサービスが適切に行われているか、ケアプランと実際の介護サービスの内容に違いがないか突合し(第二チェック)、不備がなければ、訪問介護サービス事業者に介護報酬を支払う。

現在の囲い込みは、「通所介護」「訪問介護」を併設するだけでなく、ケアマネジメントを行う「居宅介護支援事業所」も、同一法人・関連法人でセットになっている。高齢者住宅事業者と、ケアマネジャー・訪問介護サービス事業者が同一法人、関連法人で結託すれば、それぞれの書類を整えることは容易だ。
更に、この介護保険のチェック、データ突合はコンピューターで行われるため、双方の書類が整っていればほぼフリーパスなのだ。 制度的には、ケアマネジャーと国保連とで、二回のチェックが行われることになっているが、あまりにもザルだということがわかるだろう。

囲い込みは介護保険制度の根幹に関わる重大な不正🔗 で述べた「ケアマネジメントの不正」と、ここで述べた「介護認定調査の不正」「介護報酬の不正請求」はつながっている。

① 食事や排せつが自立している人も、できていないように調査書類を書いて要介護状態を重くする。
② 食事や排せつの介助が必要だと、必要のない訪問介護や通所介護サービスをプラン化する。
③ 実際には食事や排せつのサービスを行っていないが、介護報酬だけは算定・請求する

表面上は、「入居者とサービス事業者との契約だ」と言いながら、実際には、高齢者住宅事業者と関連法人の「居宅支援事業所(ケアマネジャー)」「訪問介護事業所(ホームヘルパー)」「通所介護事業所(デイサービス)」が結託し、すべての入居者の区分支給限度額を一元管理し、自分たちの都合のいいように、最も少ない人員できるだけ多くの介護報酬が得られるように、書類を整えているにすぎないのだ。


「囲い込み」が、介護保険から医療保険へ波及

今や、高齢者住宅の入居者に対する「囲い込み」が行われているのは、介護保険だけではない。
最近、急速に増えているのが、医療法人や診療所との連携による囲い込みだ。自宅にいるときは、「高血圧の薬を月二回 内科にもらいに行くだけ・・」だったのが、高齢者住宅に入ると、「あれも必要」「これも必要」と、「内科」「精神科」「歯科」「整形外科」などを受診させられるという。

高齢者住宅にテナントに入る診療所が増えている。それは入居者にとって安心ではあるが、「そこの医療機関しか使えない」「必ず利用しなければならない」となると本末転倒である。医療機関は高齢者住宅に、表立ってリベートを支払うことはできないが、テナント料を上げたり、看護師を派遣するなど、様々な手を使って連携している。
この結託した医師は、上記の「要介護認定調査に対する不正」にも協力し、「囲い込み高齢者住宅」の言いなりとなって「意見書」を改竄している。

最近は、医療法人が株式会社を作って高齢者住宅に参入するケースも増えている。
適切な運営をしているところもあるが、中には明らかに囲い込み、過剰診療だと思われるようなケースも少なくない。病院のベッドの平均在院日数の管理にサ高住の入居者を利用して、「不要な入退院」を繰り返しているところもある。
低価格で要介護高齢者を集め、高齢者住宅そのものの利益は低い(彼らの言う暴利をむさぼっているわけではない)が、「+介護報酬」だけでなく、「+診療報酬」「+病院経営」で高い利益を上げているのだ

これら低価格の無届施設やサ高住のニュースを見ると、「生活保護受給者」が多いことに気付く。
テレビには、「行き場のない生活保護受給者など人助け…」などというイメージで語る無届施設やサ高住の経営者がでてくるが、実際は「重度要介護の生活保護受給者」がもっとも良いお客さんだという。それは、どれだけ医療や介護の押し売りをしても、自己負担がないため、どこからも文句がでないからだ。中には、生活保護費の金額に合わせた「生活保護受給者専用価格」を作っているところもある。

低所得者対策は、企業の仕事ではなく国の仕事だ。私財を投げうった「篤志家」であればいざしらず、高額な銀行借り入れをしてサ高住を建てた営利目的の事業で、そんなことができるはずがない。
路上生活者に生活保護を受けさせ、住宅を斡旋し、その振り込み口座を取り上げるという「貧困ビジネス」が社会問題となったが、同じことを介護保険・医療保険でやっているのだ。しかし、その金額は通常の貧困ビジネスと違い、無駄に支出される社会保障費は、一人当たり年間数百万円~一千万円、全国に上る。

これらは過誤請求・不正請求というよりも、システム的な詐欺行為だといって良い。それでも「不正ではない‥」と抗弁する人は「何が不正なのか」ということさえ、わからなくなっているのだ。

滑稽なことだが、この囲い込みは、利益が上がるために「自分は敏腕経営者だ」と勘違いし、この不正の仕組みを、さも自分が見つけた高利益ビジネスモデルかのように吹聴している識者も多い。
素人事業者が、本人が自覚しないまま悪徳事業者に変貌、暴走しているのだ。





【特集 1】 「知っておきたい」 高齢者住宅の「囲い込み」の現状とリスク

  ⇒ 高齢者住宅・老人ホームの「囲い込み」とは何か     🔗
  ⇒ なぜ、低価格のサ高住は「囲い込み」を行うのか 🔗
  ⇒ 不正な「囲い込み高齢者住宅」を激増させた3つの原因 🔗
  ⇒ 「囲い込み」は介護保険法の根幹に関わる重大な不正 🔗
  ⇒ 要介護高齢者の命を奪った「囲い込み介護」の悲劇 🔗
  ⇒ 拡大する囲い込み不正 ~介護医療の貧困ビジネス詐欺~ 🔗
  ⇒ 加害者・犯罪者になるケアマネジャー、介護スタッフ 🔗
  ⇒ 超高齢社会の不良債権となる「囲い込み高齢者住宅」 🔗
  ⇒ 囲い込みを排除できなければ地域包括ケアは崩壊 🔗

【特集 2】 老人ホーム崩壊の引き金 入居一時金経営の課題とリスク 

  ⇒ 有料老人ホーム「利用権方式」の法的な特殊性 🔗
  ⇒ 脆弱な利用権を前払いさせる入居一時金方式 🔗
  ⇒ 「終身利用は本当に可能なのか」 ~脆弱な要介護対応~ 🔗
  ⇒ 前払い入居一時金を運転資金として流用する有料老人ホーム 🔗
  ⇒ 入居一時金経営 長期入居リスクが拡大している3つの理由 🔗
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