「囲い込み」は何が問題なのか

なぜ、低価格の高齢者住宅は「囲い込み」を行うのか

高齢者住宅の「囲い込み」とは何か、何が問題なのか   No 2

同じ民間の高齢者住宅事業で、同程度の住宅・介護看護・食事サービスであれば、必要なコストは同じであり、当然、自己負担も同程度になるはず。なぜサ高住は介護付有料老人ホームよりも格段に低価格の設定を行うことが可能なのか。そのカラクリは、介護報酬の算定方法の違いにある。



前回のコラム、「高齢者住宅の「囲い込み」とは何か🔗 で、その仕組みについて整理した。
制度を問わず、高齢者住宅という商品は、バリアフリーなどの「住宅サービス」と、食事・介護看護・生活相談などの「生活支援サービス」の複合サービスである。それほど難しいビジネスモデルではなく、パンフレットを見れば、どのような収益体制、事業計画になっているのか、予想することは容易だ。
「すべてのサ高住が囲い込みを行っているわけではない」という声は大きいが、「低価格化路線」のサ高住や無届施設は、事業計画の段階から「囲い込み」を前提としているといって良い。「低価格なものほど囲い込みの可能性が高い」というのは、日経新聞の記事が証明している通りだ。

なぜかと言えば、本来、介護保険制度を適切に運用すると、介護付有料老人ホームよりもサ高住の方が、自己負担が高額にならないとオカシイからだ。

サービス付き高齢者向け住宅が特養ホーム並みに低価格の不思議

サ高住が増加した2012~2015年頃、テレビやマスコミでサ高住の紹介や特集が盛んに行われた。
その中で、サ高住の紹介映像と共に、特徴を示す資料として使われた表が以下のものだ。


「特別養護老人ホームは、低価格ですが、全国で30万人の待機者、入所まで2~3年待ちです」
「民間の介護付有料老人ホームは、入居一時金が必要で、月額費用も高額です」
「そこで、最近増えているのが、低価格のサービス付き高齢者向け住宅です」

そのナレーションの通り、今でも、「有料老人ホームは高い」「サ高住は低価格」だと思っている人は多いだろうし、現実もその通りだ。

しかし、この説明は、どこかおかしいと思わないだろうか。
要介護高齢者の住まいに必要なサービスは、「住宅サービス」+「介護看護サービス」+「食事サービス」+「生活相談サービス、その他管理費」である。一人の要介護高齢者に最低限、必要なサービス、それにかかるコストは、特養ホームでも介護付でもサ高住でも変わらない。

特養ホームが、介護付有料老人ホームよりも格段に安い理由は、入所者一人当たり、年間180万円もの社会保障費が多く投入され、かつ非課税だからだ。ユニット型特養ホームの隣の敷地に、同じ建物設備基準・介護看護サービスの介護付有料老人ホームを整備すれば、月額利用料は30万円になる。
「サ高住にも建設補助が出ているから安いんだ」という人がいるが、建設補助金が一部屋100万円としても、20年で割れば月額数千円の差でしかなく、家賃設定に大きく影響を与えるような金額ではない。

介護の手厚さ、建物の広さ・豪華さによって価格が違うのであれば納得できる。
しかし、同じ民間の高齢者住宅事業で、同程度の住宅・介護看護・食事サービスであれば、必要なコストは同じであり、自己負担も同程度になるはずだ。有料老人ホームからサ高住と制度名称が変わるだけで、「5万円~10万円」も安くなるのはどう考えても変だろう。

それだけではない。介護保険制度と高齢者住宅の関係から見れば、同程度のサービス内容であれば、「特定施設入居者生活介護」の高齢者住宅と、「区分支給減額方式」の高齢者住宅では、後者の方が高額にならならいと本当はオカシイのだ。
それは、次の介護報酬に含まれる範囲を示した表を見るとわかる。

介護付有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)の場合、ホーム長などの全体のサービス管理者、生活相談員の人件費も介護報酬に含まれるが、一方の住宅型やサ高住(区分支給限度額方式)は含まれない。
また、介護看護サービスについても、通常の訪問介護の場合、介護報酬の対象となるのは、事前のケアプランに示された、排泄介助、入浴介助、食事介助の直接介助だけで、「見守り・声掛け・定期巡回」といった間接介助、「コール対応・事故発生時の初期対応」などの随時緊急対応は対象外となる。

これは当然のことで、区分支給限度額方式は、ふつうの自宅やアパートで生活する要介護高齢者の介護報酬である。一般のアパート・マンションには「管理者・相談員」も、24時間「見守り・声掛け」をしてくれる介護スタッフもいないだろう。そのため、住宅型有料老人ホームやサ高住で、管理者や相談員、また、見守りや声掛けなどの間接介助、緊急対応を行うスタッフの人件費は、全額自費となる。
そう考えると、同じ内容・種類のサービスを提供するのであれば、介護保険の対象とならないサービスが多い区分支給限度額方式の方が、入居者が支払う月額費用は高くなって当然なのだ。

低価格「囲い込み高齢者住宅」のビジネスモデル

しかし、述べたように実際は正反対で、「介護付は高く、サ高住は安い」というのが現状だ。
それは何故か・・ そのからくりは、ふたつの介護報酬の差にある。

述べたように、特定施設入居者生活介護に含まれる(義務付けられている)サービスの方が、区分支給限度額方式よりも多い。普通に考えれば、区分支給限度額よりも、特定施設入居者生活介護の方が介護報酬は高いと思うだろう。
しかし、実際の報酬額は、表のように区分支給限度額の方が高く、その差は重度要介護になるほど大きく、要介護3では8万円以上、要介護5では13万円以上となる。

もちろん、それには理由がある。
区分支給限度額は、高齢者住宅ではなく、一般の自宅に適用される介護報酬だ。ホームヘルパーが、一軒一軒、離れた自宅を訪れて排せつ介助や入浴介助を行うため、移動時間も待機時間も発生する。8時間労働の一人の常勤ホームヘルパーが、訪問できる人数は一日に6人~7人程度が限界、介護報酬を算定できる時間は4時間程度だろう。
また、あくまでも利用限度額であるため、すべての入居者が全額利用するわけではない。区分支給限度額の平均利用割合は要介護1~2の軽度要介護高齢者で50%程度、要介護3以上の重度要介護高齢者でも60%程度だ。

これに対して、特定施設入居者生活介護は、集合住宅を前提とした制度であるため、移動時間や待機時間が必要なく、臨機応変に介護や看護サービスの提供が可能となる。
また、介護報酬は定額であり、その特定施設入居者生活介護の報酬すべてが介護付有料老人ホームの収入になるが、区分支給限度額方式の場合、訪問介護、通所介護など、その入居者が利用した分だけ、それぞれの介護サービス事業者の収入になる。
このように、二つの報酬は、そもそも考え方もシステムも、基本的に違うのだ。

問題は、一般の自宅に適用されるのと同じ報酬単価の高い「区分支給限度額」を、集合住宅である高齢者住宅である住宅型有料老人ホームやサ高住に適用するのは適切なのか、ということだ。
ただ、大半の高齢者が自立で、数人の高齢者のみが要介護1、2と言った軽度、また一人だけが要介護3というケースもあるため、ただちに不適切だとは言えない。
この曖昧さを上手く突いているのが、「囲い込み」のビジネスモデルだと言える。

「サ高住の月額費用は何故、介護付よりも低価格なのか・・・」
「低価格の高齢者住宅は何故『囲い込み』を行うのか・・・」
 

そのカラクリがわかってきただろう。それを図に示したのが、次の図だ。

まずは、左の「介護付」と真ん中の「本来の住宅型・サ高住」の図を見ていただこう。
特別に広い建物、特別に豪華な食事でなければ、介護付でも、サ高住でも、住宅サービスにかかる費用、食事サービスにかかる費用は変わらない。
また、区分支給限度額方式では、生活相談・管理サービスや介護保険対象外の介護サービスが多いため、それらはすべて自費となる。介護サービスは外部の訪問介護や通所介護サービス事業者から受けるため、高齢者住宅事業者の収入とは関係ない。

一方の、右の囲い込み型サ高住は、価格競争力を上げるために、まず食費や家賃を強引に圧縮する。
「家賃 12万円」「食費 6万円」「相談・管理・その他 5万円」で、本来であれば23万円かかるところを、合わせて15万円程度にするということだ。そうして、低価格で入居者を集めておいて、訪問介護や通所介護を併設して、これを区分支給限度額一杯まで利用させる。
「高齢者住宅事業+介護サービス事業」を一体的に運営することで、「入居者の自己負担は介護付よりも安いが、事業者の総収入は介護付よりも高い」というビジネスモデルができあがるのだ。
最近では「重度要介護高齢者は、家賃を更に値引きします」といったところまででてきている。

「低価格なので暴利をむさぼっているわけではない」という声もあるが、問題は利益の多寡ではない。
日経新聞の調査で明らかになったように、低価格のサ高住ほど重度要介護高齢者が多いのは、結果的に重度要介護高齢者が多いわけではなく、始めから重度要介護高齢者をターゲットにして、介護サービスを使ってもらわないと利益が出ないビジネスモデルだということだ。
ただそれは、図を見ればわかるように、本来、入居者が自己負担すべき家賃や食費などの費用を、介護報酬に振り替えているビジネスモデルなのだ。



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