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要介護向け住宅の効率性を追求すると「ユニット型」に行きつくが・・・

要介護高齢者向け住宅の効率性を追求すると「ユニット型」に行きつくが、それは特養ホームのような少人数タイプの「ユニット型が正解」という話でもない。効率性だけではない対象者のニーズをくみ取った「プライベートエリアとパブリックエリア」の設定・検討が必要

高齢者住宅開設者向け 連載 『社会価値・市場価値の高い高齢者住宅をつくる』

ここまで「食堂設計×食事介護」の基本について述べてきました。
要介護高齢者向け住宅の食堂設計は、「居室・食堂フロア一体型」が絶対原則で、食事介助を適切に行うには日額包括算定の「特定施設入居者生活介護」を土台とした、移動・移乗介助、見守り介助、声掛け介助、安否確認などを包括した介護システムの構築が必要だと述べました。
ここまでの議論をもとに「居室・食堂フロア一体型」を土台として食堂設計のポイントを整理します。

「居室・食堂同一フロア」でも、生活動線・介護動線は重要

「居室・食堂フロア一体型」においても、居室と食堂の生活動線・介護動線は、設計上、重要なポイントです。これについては、廊下・階段の安全設計について徹底的に考える🔗 でも詳しく述べていますが、歩行が不安定な高齢者にとっては、長い廊下や見えにくい曲がり角は、生活上大きな障壁(バリア)になり、それ転倒やぶつかり事故の原因となります。

上の図のように、Aタイプの食堂が右端にある設計の場合、左端居室の人は食堂まで相当の距離があります。それは介護看護スタッフも同じで、スタッフコールや忘れ物があっても、走る距離が長くなることを意味しています。また、食堂までの生活動線・介護動線が一つしかありませんから、全入居者、スタッフ、家族が同一動線で交錯することになります。
対して、Bの食堂が真ん中に置かれている場合、左右ともに廊下(動線)は短くなりますし、動線が二つに分離するために、訪問する家族、入居者同士、介護看護スタッフがぶつかるリスクも半分になります。夜勤帯でスタッフルームにいる場合でも、走る距離は半分です。
もう一つのCタイプは、食堂までの廊下に曲がり角があるタイプです。これも、二つの動線が集まって一つになってしまうことや、曲がり角があるために、見えにくく車いすやスタッフとのぶつかり事故、転倒事故の原因となります。

最近、特養ホームや介護付有料老人ホームなどで増えているのが、ユニット型と呼ばれる居室・食堂配置です。高齢者住宅というシェアハウスの真ん中にあるリビングダイニングのようなイメージでしょうか。
これまでの設計では、入り口や出口のある「食堂」という部屋を作るイメージでしたが、そうではなく、どこからでも出入りのできるオーブンな食事スペースを確保するというものです。そうすると居室からでればすぐに食事スペースですから、移動に時間はかかりませんし、「入れ歯を部屋に忘れた」という場合でも、すぐに取りに行けます。
配膳もトレイを両手に持って狭いテーブルの間をすり抜ける必要はなく、食事が終われば、自分の生活リズムで介助の手間も時間も少なく、部屋にもどることができます。「見守り介助」「声掛け介助」と大仰に名付けなくても、誰が何をしているのか、どこにいるのかすぐにわかります。
要介護向け住宅の食堂アクセスの効率性を追求すると「ユニット型」に行きつくということです。

ただ、これは、ユニット型が要介護高齢者向けの住宅としてベストという話ではありません。
特養ホームにユニット型の居室・食堂配置が多いのは、要介護3以上の重度要介護・認知症高齢者のみを対象としているからです。朝起きてから、寝るまで、歯磨き、洗面、着替え、移動、移乗、排泄、食事まで、すべての生活行動に介助が必要ですし、認知症高齢者の場合、想定外の行動を起こすこともありますから、見守りや声掛けなどが必要です。この場合、「〇〇介助」というよりも、24時間365日継続的・包括的な介助になりますから、見守りのしやすさ、介助のしやすさ=事故リスクの少ない生活、生活のしやすさということになります。

しかし、同じ要介護高齢者といっても、要介護1~2程度の移動や移乗、排泄などの身の回りの生活が自立している高齢者の生活ニーズを考えると、その視点は少し変わります。
このようなユニットケアでは、プライベートエリアとパブリックスペースが一体的になり、かつすべての生活行動がその狭いユニット内ですべて完結することになります。軽度要介護高齢者は常に監視されているような窮屈な思いをして、食堂やリビングにでてくる機会が減り、「食事は部屋で食べたい」と部屋に閉じこもってしまう人もいます。
高齢者や家族は、「将来の介護が不安だから」という理由で、高齢者住宅を探すのですが、このユニット型で他の入居者が自分よりも要介護状態が重く、認知症高齢者もたくさんいることがわかると、「こんなところでは生活したくない」「介護の重い人立場からだから嫌だ」と拒否をする人は少なくありません。
ただ、そんな杖歩行だった人も数年後には車いすになり、自走式から介助式となっていくのです。

識者の中には、介護の現場のことをよく知らないまま「高齢者住宅は施設ではないから、プライベートとパブリックスペースは分離が原則」と安易に口にする人がいますが、「居室・食堂フロア分離型」では、要介護高齢者が増えてくると介護をすることはできません。だからといって、重度要介護・認知症高齢者を対象とした特養ホームのような、「プライベートエリアとパブリックエリア」が一体となったユニット型が正解だと言えるほど簡単なものでもないのです。

どのような建物が良いのか…に正解はありません。
どのような高齢者を対象とするのか、どのような介護システムにするのか、その介護システムはどの程度の手厚さにするのか、どの程度の価格設定にするのか、その需要はこの地域・エリアにあるのか・・・。また、居室と食堂だけでなく、浴室脱衣室、スタッフルーム、共同トイレ、その生活動線や介護動線にも関わってきます。
それは、敷地の広さにも関係してきますし、食堂や共用部の理想を追い求めた結果、確保できる居室が少なくなれば、それだけ一人当たりの入居費用は高額になります。建物設備設計は、指導指針や登録基準ではなく、ビジネスモデル設計・商品設計そのものだと言っても過言ではないのです。




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