PLANNING

「居室・食堂フロア分離型」の介護付有料老人ホーム ~【2:1配置】~

特定施設入居者生活介護の指定基準【3:1配置】の1.5倍の手厚い介護体制をとる【2:1配置】の介護付有料老人ホームでも、「居室・食堂フロア分離型」のデメリットは大きい。「要介護高齢者を食事毎に高齢者を、一日三度食堂に降ろして食事をさせる」という発想自体が無理

高齢者住宅開設者向け 連載 『社会価値・市場価値の高い高齢者住宅をつくる』

「居室・食堂フロア分離型」で、どこまで介護できるのか・・・。
この命題には、介護システムが大きく関わってきます。
ひとつは、介護付有料老人ホームに適用される「特定施設入居者生活介護」を土台とした日額包括算定の介護システムで、どこまで対応できるのかです。
以下の表は、60名定員の介護付有料老人ホームの、指定基準配置【3:1配置】と手厚い介護配置【2:1配置】で、実際にどの程度の介護看護スタッフが勤務しているのかを一覧にしたものです。

前回、指定基準配置【3:1配置】の介護スタッフ配置では、業務シミュレーションで適切な生活環境、安全な労働環境を構築することは、まったく不可能だと言うことを述べました。今回は、その1.5倍の介護スタッフを擁する、手厚い介護体制をとる【2:1配置】の介護付有料老人ホームで、どこまで介護サービスが可能なのか…について考えてみます。

指定基準配置【2:1配置】の食事介助の人員配置をシミュレーションする

述べたように、高齢者は加齢や疾病によって、要介護状態が重くなっていくのが特徴です。
また、介護付有料老人ホームの介護報酬である特定施設入居者生活介護は、指定基準配置【2:1配置】と手厚い配置をとっているため、介護報酬単価の低い要介護1・2程度の軽度要介護高齢者が多くなると、収益が確保できなくなりますから、要介護3以上の中度~重度要介護高齢者が対象となります。
そのため、ここでは全体の半数の入居者(各フロア10人、全体で30人)が起床介助、移動介助、食事介助が必要な重度要介護高齢者とします。夜勤帯の介護スタッフ配置は3名、日勤介護スタッフは12.5名なので、これを食事時間に合わせて、早出介護(7時~16時)、日勤介護(9時~18時)、遅出介護(12時~21時)に分けて、それぞれ4名、4.5名、4名を配置します。

これで朝の起床介助~食事に必要な介護人員は、7名が確保できました。
2~4階の居室フロアに二人、一階の食堂フロアに一人ずつ介護スタッフを配置することになります。
6時半頃から、夜勤スタッフが少しずつ起床介助(起床・排泄・着替え・歯磨き整容等)をスタートさせます。7時には早出介護のスタッフが出勤しますから、各フロア二人体制で入居者を起こします。残りの一人は、食堂で食事の準備を始めます。
起床介助にめどがつけば、7時半頃からはエレベーターホールでの移動介助と起床介助に分かれて、一人が起床介助を続けながら、もう一取りは移動介助を行い、そのまま一階に降りて食事の準備、食事介助を始めます。一番最初に起こし始める人の起床時間はもう少し早める必要があるかもしれませんが、60名のうち、車いす使用や食事介助、起床介助が半数程度であれば、何とかできそうです。

ただ、このシミュレーションにも問題があります。
ひとつは起床介助、移動介助と食事介助が同時に発生する時間の問題です。
60名のうち、30名の車いす高齢者を居室からエレベーターホールまで移動させ、食堂にまで下ろしてくるには、8往復ですから、乗り降りの時間を含めると、少なくとも一時間は必要になります。エレベーターが二台あれば時間は短縮されますが、移動のためのスタッフも二倍必要になりますから、車いす専用(一台)と独歩専用(一台)に分けるしかなく、どちらにしても一時間程度はかかります。
食堂内に車いすが十分に移動できるスペースがない場合、先に入った車いす高齢者が奥に入ると食事が終わっても、後から来た高齢者科の食事が終わるまで待っていなければならないということになります。八時半から食事を始めた人の食事が終わるのが9時過ぎ、そこから移動介助を始めると、居室フロアに戻ってくるのは10時を超えるということになります。

もう一つは、介助の混乱による事故リスクの増加です。
七時半頃から順番に降ろし始めても、最後に降りてくる人は八時半になります。七時半までに食堂に入った高齢者は、食事を始めており、介助が必要なく先に食堂に入った自立度の高い高齢者は食事が終わっているでしょう。また、食事を食べるのが早い人、遅い人がいますが、移動介助が必要な高齢者のフロアが別々だと余計に時間と労力が必要になりますから、車いすはフロア単位で集まって移動させなければならないのが原則です。食堂の出入口が一か所しかない場合、すでに食事を終えて居室に戻る高齢者と、これから食事を始める高齢者が出入り口で混在することになり、転倒や骨折、ぶつかり事故、挟み込み事故のリスク要因となります。
また、述べたように、食事介助は隣に座ってスプーンで食事を口に運ぶという直接的な介助だけでなく、見守り、声掛けなどの間接介助も重要です。特に、死亡リスクの高い誤嚥や窒息事故は、直接介助の必要のない自立摂取の高齢者に多く発生します。起床介助、移動介助と食事介助が同時に発生し、食事中の人、これから食べる人、食べ終わった人が入り乱れて、バタバタと食事介助を行うと、適切な見守りができずに、誤嚥・窒息のリスクは格段に上がるのです。

このように業務シミュレーションを行うと、手厚い介護体制だと言われている【2:1配置】でも、「居住・食堂フロア分離型」の建物では、ゆったり介護できるわけではなく、介護も生活も相当タイトになるということがわかるでしよう。様々な介助が輻輳し、介護動線、生活動線も混乱するため、事故やトラブルのリスクが増えることになるのです。
また、同じ【2:1配置】で同程度の価格帯であれば、入居者にとっても、食事毎にバタバタと慌てて介助されて食堂まで降ろされるよりも、ゆったりと自分の生活リズムに合わせて食堂にでて、戻ってくると言う方が良いでしょう。それは要介護高齢者の生活環境だけでなく、介護スタッフの労働環境も同じです。

これは60名定員で20名ずつが3フロアに分かれているケースですが、15名×4フロアとなると、7人態勢では更に厳しくなりますし、車いす移動の高齢者がより増えていけば、実質的に介護は困難になります。要介護高齢者を対象とした高齢者住宅で、「朝・昼・夕と三度の食事ごとに、全入居者を食堂まで送迎して食事をさせる」という発想自体に無理があるのです。



画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: PLANNING-コラム.png

【Plan 67】 リスクマネジメントから見た食堂設計の重要性 🔗
【Plan 68】 「食堂設計」×「食事介助」の特性について考える 🔗
【Plan 69】 発生する事故・リスクから見た建物設備設計のポイント 🔗
【Plan 70】 自立・要支援向け住宅は、「居室・食堂フロア分離型」が原則 🔗 
【Plan 71】 要介護向け住宅は「居室・食堂フロア一体型」が原則 🔗
【Plan 72】 食堂設計から介護システム設計へ ~ビジネスモデル考~  🔗
【Plan 73】 「居室・食堂フロア分離型」の介護付有料老人ホーム ~指定基準~ 🔗
【Plan 74】 「居室・食堂フロア分離型」の介護付有料老人ホーム ~【2:1配置】🔗
【Plan 75】 区分支給限度額方式の訪問介護だけでは食事介助は不可 Ⅰ 🔗
【Plan 76】 区分支給限度額方式の訪問介護だけでは食事介助は不可 Ⅱ 🔗
【Plan 77】 要介護向け住宅の効率性を追求すると「ユニット型」に行きつくが… 🔗 
【Plan 78】 シミュレーションの一歩先 Ⅰ ~食事介助に見るユニットケアの課題~ 🔗
【Plan 79】 シミュレーションの一歩先 Ⅱ ~厳格ユニットから緩やかなユニット~ 🔗
【Plan 80】 要介護向け住宅の食堂設計・備品選択のポイントを整理する Ⅰ 🔗
【Plan 81】 要介護向け住宅の食堂設計・備品選択のポイントを整理する Ⅱ 🔗






関連記事

  1. 区分支給限度額方式で、介護システム構築はできない
  2. アプローチ・駐車場の安全設計について徹底的に考える
  3. ポーチ・エントランスの安全設計について徹底的に考える
  4. 地域密着型など小規模の高齢者住宅はなぜ失敗するのか 
  5. 業務シミュレーションの一歩先へ Ⅰ ~食事介助にみるユニット…
  6. 要介護高齢者住宅 業務シミュレーションのポイント
  7. 小規模の地域密着型は【2:1配置】でも対応不可 (証明)
  8. 「特定施設の配置基準=基本介護システム」という誤解

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


TOPIX

NEWS & MEDIA

WARNING

FAMILY

RISK-MANAGE

PLANNING

PAGE TOP