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業務シミュレーションの一歩先へ Ⅱ ~厳格ユニットから緩やかなユニットへ~

現在のユニット型特養ホームのユニットケアは、「ユニット単位での生活・介護の完結」を重視しすぎたために、スタッフ間の連携が難しく、非効率なシステムになってしまっている。食事介助を中心とした緩やかなユニットに移行することで介護の効率性、負担軽減を進める

高齢者住宅開設者向け 連載 『社会価値・市場価値の高い高齢者住宅をつくる』

前回まで述べてきたような、「居室・食堂同一フロア」かつ「10人1ユニット」という厳格なユニットケアを構築しているのは、現在のユニット型特養ホームです。特養ホームのような、制度的に対象者が要介護3以上の重度要介護高齢者、とくに認知症高齢者中心に限定されている場合は、その対象者に合わせた建物設備設計、手厚い介護体制を構築することができます。ただ、業務シミュレーションの一歩先へ Ⅰ ~食事介助に見るユニットケアの課題~🔗 で述べたように、このような厳格なユニットケアは、認知症高齢者・重度要介護高齢者にとっては理想ではあるものの、スタッフ間の連携が難しく、また非効率な介護体制となるため、たくさんの介護看護スタッフが必要になります。

ユニット型特養ホームの指定基準は、介護付有料老人ホームと同じ【3:1配置】ですが、その人数では介護することはとてもできません。前回示したシミュレーションの【2:1配置】を超えて、実際は【1.8:1配置】(60名に対して33人~34人)という極めて手厚いスタッフ配置となっています。

しかし、民間の高齢者住宅の場合、補助金や介護報酬単価が全く違いますから、このユニット型特養ホームと対象者を同一にして、同様に手厚い介護看護スタッフ配置にすると価格設定が30万円をゆうに超えることになります。価格競争力という面でも、マーケティングという面からも限界があるため、対象者を広げて、かつより効率的・効果的な介護体制を構築して、価格設定を抑える必要があるのです。

厳格なユニット型から食堂を中心とした緩やかなユニットへ

「1ユニット10名」「ユニット単位で食事」という厳格なユニットタイプでは【2:1配置】という手厚い配置でも、早出スタッフが7時からの勤務となるユニットでは、食事時間が8時半近くになり、その後の入浴介護などのスケジュールが遅れてしまう可能性があること、また、起床時に風邪による熱発や転倒事故が発生した場合に対応が難しいと言うことを説明しました。
ではこれを、食堂を中心とした緩やかにユニットに替えるとどうなるでしょうか。
それをシミュレーションしたものが、以下の居室・食堂配置です。

同様に、全体の半数が、起床介助、移動介助、食事介助が必要な要介護3以上の重度要介護高齢者とします。夜勤帯の介護スタッフ配置は3名、日勤介護スタッフは12.5名なので、これを食事時間に合わせて、早出介護(7時~16時)、日勤介護(9時~18時)、遅出介護(12時~21時)に分けて、それぞれ4名、4.5名、4名を配置します。

6時半頃から、夜勤スタッフが少しずつ起床介助(起床・排泄・着替え・歯磨き整容等)をスタートさせます。7時には早出介護のスタッフが4人出勤しますから、一つのフロアを二人で起床介助を行います。起床介助にある程度のめどがつけば、一人の介護スタッフは自走車いすの人や、介助の必要がない人に声をかけながら食事の準備を始めます。
介助の必要のない高齢者の中には、先にテーブルに座っている人もいるでしょうから、6時半から起きてもらった高齢者と一緒に、7時半ころから食事介助をしながら、先に食べてもらうことになります。ゆっくりと起こす人は、8時くらいから食事をすることになりますし、その頃に起きてくる介助不要の高齢者もいるかもしれません。

早朝の時間帯は、起床介助(洗面・着替え・整容など)、排泄介助、食事準備、食事介助などの、様々な介助が集中する一番忙しい時間帯です。必要な介助量は変わりませんから楽になるわけでもありません。
ただ、排泄介助や入浴介助などの完全なマンツーマン介助とは違い、起床介助から、食事介助、見守りや声掛けなどの「複数介助」「複合介助」が基本となる食事場面においては、いわゆる10人ワンオペと20人ツーオペは、介護の効率性は全く違うのです。
ワンオペで問題となった、時間の遅れの問題も、二人で介助することで回避できますし、熱発やトラブルが発生した時も、二人で連携しながら対応することができます。それは業務量や身体的な負担だけでなく、精神的な負担・ストレスも相当軽減されます。

10人ワンオペから20人ツーオペで、介護の効率性を高める

お気づきだと思いますが、視点を変えれば、厳格なユニット型から食堂を中心とした緩やかなユニット配置にすることによって、早出勤務の介護スタッフを4人から3人に減らすことができるということです。それは、お昼から出勤し夕食・終身介助を行う遅出勤務のスタッフも同じです。

その人員配置を逆に計算すると、日勤介護スタッフは12.5人から10.5人に減らすことができ、結果的に介護スタッフは27人から24人となり、【2:1配置】から【2.2:1配置】になるということです。
介護は労働集約的な事業であり、10人のオムツ介助を介護スタッフ一人でやれば、一人10人ですが、二人でやれば5人になります。それはマンツーマンの入浴介助でも同じです。介護スタッフが少なくなれば少なくなるほど業務量は増えますし、その限界を超えると事故やトラブルの発生原因となります。
ただ、食事介助など、「複数介助」「複合介助」のものは、建物設備、居室・食堂配置を見直すだけで、同じ業務量でも身体的・精神的なストレスは相当軽減されますし、それは業務経験に加えて必要な介護スタッフ配置を減らすことも可能になるのです。
これは、対象者を広げる上でも、また介護システムのオペレーション上も重要なことです。この例で言えば、入浴介助を充実させたい場合は、日勤帯に一人増やすことや、また「3階は、起床・食事全介助の人が増えてきたので、二人対応では難しい」となれば、そこに一人追加すると言う対応も可能です。
もちろん、これは敷地の形状に関係してきますので、この居室・食堂配置がベストというわけではありませんが、この一例をもってしても、建物設備設計でできること、それがいかに商品設計、ビジネスモデル、事業収支に影響するのか、ご理解いただけると思います。




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