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【p011】 事業性も需要も「要介護高齢者専用住宅」に集約される

現在の高齢者住宅の制度・商品は、超高齢社会に対応できない。

需要や事業性は、「重度要介護高齢者専用住宅」にしかない。


 

要介護3以上の重度要介護高齢者に限定した結果、特養ホームの待機者が減少したと言われていますが、それでも要介護3以上でも30万人の待機者がいます。要介護1,2で特養ホームに入りたいと考えている人を含めると、今現在でも60万人程度にはなるでしょう。

今後も、自宅で生活できない重度要介護高齢者、認知症高齢者はどんどん増えていきます。
地域包括ケアシステムは、「重度要介護状態になっても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けることができるよう・・」と言っていますが、訪問介護や通所介護などのポイント介助を増やすだけでは、重度要介護、認知症高齢者には対応できません。独居の重度要介護高齢者、認知症高齢者、そして、夫婦のどちらも認知症、重度要介護という世帯が激増し、介護離職や介護離婚、介護単身赴任、更には介護殺人、介護心中など、様々な課題が表面化するのは、まさにこれからです。
高齢者住宅は、まだまだ全く足りないのです。

しかし、現状を見ると、まったく入居者が集まっていない高齢者住宅もたくさんあります。
また、経営悪化による倒産だけでなく、事故やトラブルが多発しています。
なぜ、こんなことになったのか、その原因を一言で言えば、制度と商品の「ミスマッチ」です。
「超高齢社会だから、高齢者住宅の需要は増える」「超高齢社会だから高齢者住宅を増やせばよい」というほど簡単なものでも、単純なものでもないのです。
現在の高齢者住宅の制度や商品の何が間違っているのかを整理すると、その未来が見えてきます。

 

~現在の高齢者住宅は何が間違っているのか~

まず一つは、制度設計のミスです。
最大の問題は「重度要介護高齢者の住まい」を老人福祉施設の特養ホームで対応しようとしたことです。
それは民主党が政権をとった時代とも関係しています。財政や人材をどうするのか・・と言う見込みが全くないまま、「コンクリートから人へ」「福祉にお金を回す」という方針のもと、3年の間に16万床のユニット型特養ホームを作るという計画が立てられ、建設補助金の上乗せが行われます。

ただ、「重度要介護は特養ホームで」となると、「重度要介護の高齢者住宅」は必要ありません。
なぜユニット型個室特養ホームをつくってはいけないのか🔗述べたように、ユニット型特養ホームの隣に、まったく同じ基準で介護付有料老人ホームを作ると、その価格は30万円~35万円になります。「同じサービスで13万円と35万円、どちらを選びますか?」と言っているようなもので、民間企業が要介護専用の高齢者住宅を作っても、特養ホームに勝てるはずがないからです。

その結果、本来高齢者住宅のターゲットである「ミドルアッパー」と呼ばれる層は、特養ホームに入ります。
それに押し出されるように増えたのが自立高齢者~軽度要介護高齢者対象の高齢者住宅です。介護付、住宅型、サ高住を含め、現在、経営している高齢者住宅の8割~9割程度はそうだといって良いでしょう。
もちろん、社会保障費や介護人材に十分な余裕があれば、「民間の高齢者住宅は自立から軽度要介護」「重度になれば特養ホーム」という役割分担でも構いません。
しかし、特養ホームの運営には莫大な社会保障費とたくさんの介護スタッフが必要になります。現状の財政・人材で、需要の増加に合わせて特養ホームを作り続けることは100%不可能です。

この制度設計ミスに輪をかけたのが、新規参入組の素人事業者です。
同時期に、「高齢者住宅も重要だ」とスタートしたのが、サービス付き高齢者向け住宅です。
「補助金がでるから・・」「有料老人ホームと違い事前の指導や監査が不要で簡単」ということで、土地の有効利用目的、建設ありきのデベロッパーの後押しによって、素人事業者が飛びつきます
そうして作られた、今のほぼすべてのサ高住は、重度要介護高齢者、認知症高齢者には対応できません。
それは、「自立・軽度要介護」と「重度要介護」では商品・サービスが違う🔗述べたように、「自立~軽度要介護」の高齢者住宅と、「重度要介護専用」の高齢者住宅は、商品・サービスとして、建物設備設計も介護システムも根本的に違うからです。

ただ、高齢者住宅への入居を希望する高齢者・家族の基本ニーズは、「介護が必要になっても生活できる」という終の棲家です。「重度要介護には対応できない」となれば、入居者は集まりません。
また、「高齢者住宅は需要が増える」と勢い込んで参入してきた人の大半は、介護の経験のない異業種から参入した事業者です。その結果、「重度要介護高齢者が増えても介護できるのか・・」と介護システムや建物設備を十分に検討することなく、「介護が必要になっても安心」と安易に請け負っているのです。

これは、現在の高齢者住宅の過剰な低価格化も関係しています。
特養ホームの入所費用は、月額13万円程度であり、それが基準になってしまいました。
その結果、20万円前後の介護付有料老人ホームが増えることになります。
ただ、述べたように特養ホームと介護付有料老人ホームは投入されている社会保障費の金額がまったく違います。その介護付有料老人ホームで20万円程度の低価格にしようとすれば、介護労働の人件費を削るしかありません。その結果、これら低価格の介護付有料老人ホームの介護スタッフの配置は、ユニット型特養ホームの半分程度です。それでは、軽度要介護高齢者には対応できても、重度要介護高齢者が増加すると、適切な介護サービスの提供は困難になります。
これはサ高住も同様です。15万円程度のサ高住が増えていますが、建物設備も介護システムも、重度要介護高齢者には対応できないものばかりです。
常識的に考えて、非営利・非課税の社会福祉法人の特養ホームで30万円~35万円かかるものが、民間の高齢者住宅で20万円程度の価格設定で重度要介護高齢者への対応ができるはずがないのです。

介護付、住宅型、サ高住に関わらず、本来、「自立~軽度要介護」にしか対応できない商品設計なのに、よくわからないまま「安心・快適」と重度要介護高齢者を入居させているために、介護スタッフが過重労働になり、離職率が増加し、また事故やトラブルが増えているのです。
このように「制度矛盾」と「素人事業者」によって、これから迎える超高齢社会の介護問題に全く対応していない、ミスマッチの欠陥商品ばかりが作られてきたのです。

今後も、特養ホームの待機者は、30万人、50万人、100万人と増えていきます。
現在、自立・軽度要介護高齢者の多い介護付有料老人ホームやサ高住でも、加齢によって重度要介護高齢者がどんどん増えていきます。「重度要介護高齢者の増加に対応できない生活環境」は、見方を変えれば「重度要介護高齢者の増加に対応できない介護労働環境」ということです。事故やトラブルが今以上に増加し、介護スタッフの離職率が激増し、現在の高齢者住宅は、総倒れになるリスクが高いのです。


~足りないのは、重度要介護高齢者専用住宅~

「自立~軽度要介護」と「重度要介護」の高齢者住宅は、建物設備設計、介護システムが基本的に違います。高齢者住宅の商品性は、本来、老人福祉施設と同じように、「自立・軽度要介護高齢者専用住宅」と「重度要介護高齢者専用住宅」に分かれるのです。
そして、ここに、「高齢者・家族の希望は、重度要介護になっても安全・快適に暮らせること」という基本ニーズを重ね合わせると、前者のターゲットは非常に狭く、民間企業が行う場合、ほぼ「重度要介護高齢者専用住宅」しか、需要や事業性はないということがわかります。

これは、社会、制度の方向性も関係してきます。
今後、85歳以上高齢者は二倍になり、自宅で生活できない独居や高齢夫婦世帯の重度要介護高齢者、認知症高齢者が激増します。
しかし、財政的にも人材的にも特養ホームを作り続けることはできません。
また、そもそも特養ホームは、民間の高齢者住宅や介護サービスだけでは対応できない「要福祉+要介護」高齢者の施設です。今後は、「高齢者住宅での対応が難しい認知症高齢者」など、民間の高齢者住宅との差別化が図られると同時に、月額費用も現在の2倍程度の26万円~30万円程度に引き上げられるでしょう。
また、今後、激増する重度要介護高齢者に対応するには、介護保険財政と介護人材を「重度要介護」に集中していかなければなりません。介護保険制度の対象者も、要介護2以上となり、軽度から重度への報酬のリバランスがより加速することになります。

このように、「高齢者住宅の事業特性」「入居者・家族の基本ニーズ」「制度の方向性」、どれをとっても、これから整備しなければならないのは、重度要介護専用の高齢者住宅なのです。
制度も一気にその方向に進むでしょう。
そこにしか、高齢者住宅ビジネスの需要も事業性も、安定経営もないのです。

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