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「誰も逃げられない」 後後期高齢者1000万人時代


高齢化問題の本丸は85歳以上の後後期高齢者の増加。2015年から2035年の20年で、85歳以上高齢者は二倍に。その2/3は、独居、または高齢夫婦世帯。一人暮らしの重度要介護、認知症高齢者は激増し、介護単身赴任、介護離職、介護離婚、介護心中、介護殺人、介護虐待などの社会問題が激増する。

【連 載】 超高齢社会に、なぜ高齢者住宅の倒産が増えるのか 003 (全29回)


高齢化にかかる問題は、年金や医療、貧困など多岐にわたります。
中でも、特に、これからの日本に大きく圧し掛かってくるのが、「介護問題」です。
それは、財政的な問題だけでなく、介護人材の確保、育成を含めた体制がほとんど整っていないこと、また「介護離職」「介護離婚」という言葉に代表されるように、高齢者本人だけでなく、取り巻く子供や家族の生活や就労、ひいては日本全体の経済活動にも大きく影響するからです。

高齢者の介護問題の本丸は、85歳以上の高齢者の増加

高齢者の介護問題を考えるにあたって、指標となるのが85歳以上の後後期高齢者の増加です。
「65歳以上の高齢者人口」「75歳以上の後期高齢者」と二つの区分にしていますが、これを三区分にして分析すると、その課題の本質が見えてきます。
下のグラフのように、65歳~74歳までの前期高齢者数は現在最も数が多くなっています。75歳~84歳までの後前期高齢者がピークとなるのは2025年です。この二つを合わせた、65歳~84歳までの高齢者数が最大になるのは2020年で、その後、大きな変動はなく、なだらかに減っていきます。

これに対して、今後、右肩上がりで急激に増えていくのが85歳以上の後後期高齢者です。
2015年の国勢調査では、85歳以上の高齢者数は494万人でしたが、2035年には、その2倍の1000万人を突破します。そして、その85歳以上の高齢者1000万人時代は、減少することなく、その後、2065年~2070年頃まで30年以上続くのです。

なぜ、85歳以上の増加が問題かと言えば、要介護発生率、重度要介護発生率が急激に高まるからです。
テレビや新聞では、前期高齢者(74歳まで)と、後期高齢者(75歳以上)の要介護発生率の違いが報道されていますが、介護需要の増加を考える上での分析としては十分ではありません。

上記グラフ内の表のように、要介護発生率を見ると、65歳~74歳の前期高齢者は要支援を含めても4.24%、要介護3以上の重度要介護発生率は1.3%でしかありません。75歳~84歳までの後期高齢者でも、全体で20%未満、重度要介護の発生率は5.6%です。
これに対して、85歳以上の後後期高齢者になると、全体の要介護発生率は59%、重度要介護の発生率は23.5%と一気に高くなります。85歳以上の高齢者は、その6割が何らかの生活支援、介護がなければ生活できず、4人に1人は常時介護が必要な重度の要介護状態になるのです。
この「重度要介護高齢者の激増」が、これからの日本の超ハイパー高齢社会の介護問題の本丸です。

重度要介護は『介護サービス量の増加』だけでは支えられない

ここで、もう一つ考えなければならないのが、「軽度要介護」と「重度要介護」の違いです。
現在の介護保険制度の要介護度は、介護サービスの必要量、必要時間を基礎として要支援1~要支援2、要介護1~要介護5の7段階に分かれています。
自宅で生活する高齢者が利用できる介護サービスは、要介護1の場合は16692単位、要介護5では36065単位となり、単純計算すれば、およそ2.2倍の介護サービスが利用できます。それだけ生活する上で必要な介護サービス量がふえるということです。

しかし、その違いは介護サービス量だけではありません。
実際の要介護高齢者の生活を考えると、要支援、要介護1~2までの軽度要介護高齢者と、要介護3~5の重度要介護高齢者は、生活を支えるために必要な介護システムそのものが変わるのです。

要支援、軽度要介護高齢者は、困難な生活行動の一部を介助するという考え方です。一人で入浴できなくなった高齢者に対して、通所介護や訪問介護による「入浴介助」や「通院介助」「食事の準備」といった、「ポイント介助」で対応します。
これに対して、要介護3以上の重度要介護高齢者は、入浴や食事だけでなく、排せつや車いすへの移乗、寝返りなど、24時間365日の包括的、継続的な介護サービスが必要になります。「夕方にヘルパーさんが来るのでその時に入浴しよう」ということはできても「お腹の調子が悪くオムツや下着を汚したが、お昼まで待っていよう」「喉が渇いたけれど水を飲むのは夕方まで待とう」ということはできないのです。

また、重度要介護状態や認知症になると、ほとんどの人が体調変化、緊急事態を伝えることができません。そのため24時間365日、常に誰かがそばにいて、その状態を見守り、変化があればすぐに対応する必要があります。重度要介護高齢者は、単純に利用できる介護サービス量が増えても、「ポイント介助」の回数を増やすだけではその生活を維持することはできないのです。

今の日本は『超介護社会』の入り口にも立っていない

現在、日本の高齢者の定義を65歳から75歳へという提言が行われており、歳をとっても働けるうちは働いてもらおう、できるだけ支える側にいてもらおうという流れになっています。また、食生活の改善や定期的な運動、生きがい作りを行うことにより、できるだけ要介護状態にならないよう、健康寿命を延ばせるようにという取り組みが行われています。
このような介護予防も不可欠ですが、一方で加齢による身体機能の低下を完全に防ぐことはできないと言うことも事実です。特に、85歳以上になると、認知症の有病率も顕著に高くなっていきます。『人生 100年時代の到来』と言っても、寝たきりや認知症で重度要介護状態の期間が長く続くだけ・・・という人生を誰も望まないしょう。

更に問題は、核家族化の進展によって、この85歳以上高齢者の3人に2人は独居高齢者、高齢者夫婦世帯になるということです。
介護保険制度の発足によって、「介護は家族の責任」から「介護は社会の責任」への転換が行われましたが、まだ道半ばの状態にあります。今でも、親の介護のために家族が別れて暮らす「介護単身赴任」、会社を辞めざるをえない「介護離職」が社会問題となっており、経済減速の大きな要因として挙げられるまでになっています。合わせて「介護離婚」「介護心中」「介護殺人」「介護虐待」など、子供や家族を巻き込んだ悲劇的な事件も多数発生しています。

しかし、現在の日本は、まだ介護問題の入り口にさえ、立っていないのです。
日本の高齢者介護の諸問題が、本格的に表れてくるのは、まさにこれからなのです。





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