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地域包括ケアの誤解 ② ~安易な地域密着型の推進~


地域包括ケアシステムのサービスとして、安易に地域密着型を推進するのは間違い。 マネジメントの視点から見れば、地域密着型は制度としても、ビジネスモデルとしても非効率で、特に都市部にはそぐわない。財政、人材の側面から効率的・効果的に長期安定的な地域包括ケアシステムを作るべき

【特 集】 地域包括ケアは超高齢社会を救う「魔法の呪文」ではない (全8回)


二つ目は、「地域密着型サービス」への傾倒です。
介護保険制度に提示されている介護サービスには、大きく「居宅サービス」「施設サービス」そして「地域密着型サービス」があります。地域密着型サービスは、2006年の介護保険法改正(一部2012年改正)で誕生したもので、現在8種類あります。

この地域密着型サービスの創設理念は、「要介護状態になっても、できる限り住み慣れた地域での生活が継続できるように、地域ぐるみで支援する」というもので、これは地域包括ケアシステムの理念とほぼ一致します。またサービスの指定権者は、居宅・施設サービスは都道府県ですが、地域密着型サービスだけは市町村です。そのため、都市部でも「地域包括ケアシステム=地域密着型サービスの導入」というイメージで積極的に推進している市町村は少なくありません。

地域密着型は制度としてもビジネスモデルとしても非効率

しかし、「限られた財源、人材を効率的に使う」「公平・公平な長期安定的な制度」という視点に立てば、「地域包括ケアは地域密着型サービスを増やすべき」という安易な発想は危険です。
それはマネジメントの視点から見ると、制度的にもビジネスモデル的にも非効率だからです。

地域密着型サービス
〇 夜間対応型訪問介護     〇定期巡回・随時対応型訪問介護看護
〇 認知症対応型通所介護    〇認知症対応型共同生活介護
〇 小規模多機能型居宅介護   〇複合型サービス
〇 地域密着型特定施設入居者生活介護
〇 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護

いくつか例を挙げてみましょう。
地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護(小規模特養ホーム)は、定員29名以下の小さなユニット型特養ホームです。ただ、老人ホームの事業モデルを考えた場合、小規模になると一人当たりの建築費は高くなりますし、必要介護スタッフ数もよりたくさん必要なります。そのため、60名の特養ホームと比較すると、同程度の介護看護サービスを提供するにも、コストが1.3倍~1.5倍に上がります。それだけ社会保障費の支出が増えるということです。
この小規模特養ホームはあくまで、山間部や市街地から離れた中規模の集落で、「この地域には30名以内の特養ホームで十分」というときのメニューです。人材や財政に十分な余裕があれば話は別ですが、「60名定員ではなく、地域包括ケアだから29名×2つにしよう」というものではありません。

地域密着型特定施設入居者生活介護も同じです。
介護付有料老人ホームは民間の高齢者住宅ですから、定員29名以下の小規模になれば、同程度のサービス内容でも、家賃・サービス料などの月額費用が割高になります。現在、「サ高住+地域密着型特定施設」という高齢者住宅が全国で増えており、自立~軽度要介護の時はサ高住で、重度要介護状態になれば併設されている地域密着型特定施設(介護付有料老人ホーム)に移り住むことができるというコンセプトでセールスされています。

しかし、「小規模でも、介護付だから要介護高齢者に対応できる」というのは素人発想です。
小規模特養ホームと同様に、小規模の介護付有料老人ホームでは、指定基準の【3:1配置】(入居者3名に対して介護看護スタッフ1人)の2倍以上の人員配置が必要になりますから、一人当たり40万円程度の高額な自己負担でなければ、重度要介護高齢者には対応できません。
現在の有料老人ホーム等の整備基準・運営基準を前提とした場合、この地域密着型特定施設入居者生活は、お金の糸目をつけない一部の富裕層を対象とした高齢者住宅のもので、東京の都心部など一部を除き、ほとんどの市町村で実際に使える制度・メニューではないのです。

「小規模多機能型居宅介護」「複合型サービス」も同じことが言えます。
これは「通い」「訪問」「宿泊」(複合型は看護も)を組み合わせたサービスで、日々の要介護状態の変化や家族の急な予定に臨機応変に対応することができる、利用者にとっては優れたサービスです。
ただ、その事業所のある生活圏域に暮らす高齢者しか利用できませんから、「事業所のある地域の人はラッキー」「使えない人は残念」ということでは、現在の特養ホームと同じように、公平性に欠けることになります。利用する希望者が多くなった場合、通常の「通所介護」「訪問介護」などの利用対象者とのすみわけも必要になってきます。

利用者数が限られ、個別に、通所介護、訪問介護、訪問看護、ショートステイなどの事業所を設置できない山間部・農村部の集落には適した制度だと言えますが、都市部において「中学校区に一つは作ろう」というタイプのメニューではないのです。

地域密着型も介護保険のサービスメニューの一つ

もちろん、これは「地域密着型はお金がかかるのでダメだ」「地域包括ケアには地域密着型は不適切」という単純な話ではありません。

介護保険制度は、様々な地域特性・地域ニーズに対応できるように、多様な介護サービスメニューを用意しています。地域密着型サービスもその一つでしかないのです。これは、その他の「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」「認知症対応型通所介護」「認知症対応型共同生活介護」も同じです。地域にそのニーズがあり、効率性・公平性の観点から、ふさわしいのであれば導入すべきです。

ただ、「地域包括ケアに力を入れる=地域密着型を増やす」ということではありませんし、国が示している、すべての介護サービス種類を、すべての市町村でもれなく網羅することでもありません。
「新しい制度」「地域密着型だから」と盲目的に飛びつくのではなく、地域特性・地域ニーズに合わせて、各種サービスを組み合わせ、財政・人材の側面から効率的・効果的に、公平性の高い長期安定的システムを作るという視点が必要です。

それが、地域包括ケアシステム・マネジメントの根幹です。




【特集 1】 「これだけは知っておきたい」 地域包括ケアシステムの基本

  ⇒ 地域包括ケアって何だろう? ~なぜ国は方針を転換したのか~ 🔗
  ⇒ 地域包括ケアは高齢者介護の地方分権 ~崩壊する自治体~ 🔗
  ⇒ 地域包括ケアが進まない理由 ~危機意識・責任感の欠如~ 🔗
  ⇒ 地域包括ケアの誤解  ~安易な「施設から住宅へ」~ 🔗
  ⇒ 地域包括ケアの誤解  ~安易な地域密着型推進~ 🔗
  ⇒ 地域包括ケアの誤解  ~方針なき「地域ケア会議」~ 🔗
  ⇒ 地域包括ケア時代に起こること ~責任は国から自治体へ~ 🔗
  ⇒ 地域包括ケアは自治体存続の一里塚 ~市町村がなくなる~ 🔗

【特集 2】 地域包括ケアシステム 構築に必要な指針・構成要素

  ⇒ 地域包括ケアシステム 構築に必要な4つの指針 🔗
  ⇒ 地域包括ケアシステム 基本となる構成要素 🔗
  ⇒ 地域包括ケアシステム 構築のプロセス ~長期的な指針 🔗
  ⇒ 地域包括ケアシステム 事業計画作成の5つのポイント 🔗
  ⇒ 地域包括ケアシステム ~設置運営・指導監査体制~ 🔗
  ⇒ 地域包括ケアシステム ~ネットワーク構築の基本~ 🔗
  ⇒ 地域包括ケアシステム ~低所得者・福祉対策の検討~ 🔗

【特集 3】 地域包括ケアの土台となる「地域ケアネットワーク」を推進する

 ➾ 地域包括ケアの土台は、地域ケアネットワークの推進・構築 🔗
 ➾ 地域ケアネットワークの不備が地域にもたらす多大な損失 🔗
 ➾ 地域ケアネットワークのアプリケーションは「クラウド型」🔗
 ➾ クラウド型 地域ケアネットワークの特徴とメリットを理解する 🔗
 ➾ 地域ケアネットワーク構築例 Ⅰ ~情報発信・共有・管理~ 🔗
 ➾ 地域ケアネットワーク構築例 Ⅱ ~サービスマッチング~ 🔗
 ➾ 地域ケアネットワークがもたらす直接的効果とその広がり 🔗
 ➾ 地域ケアネットワークの推進方法 ~地域包括ケアのプロセス~ 🔗
 ➾ 地域ケアネットワーク 導入までの流れ・協力事業者の選定 🔗







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