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高齢者介護は、他に類例のない安定した仕事

介護スタッフ向け 連載 『市場価値の高い介護のプロになりたい人へ』 No 11

重度要介護高齢者の激増する超高齢社会において、高齢者介護の知識・技術・ノウハウの市場価値は、30年後も40年後も高まり続ける。営利目的の事業でありながら、公的な介護保険制度によって一定以上の給与が保証されているという仕事は、介護サービス以外にはない。



仕事や、その労働価値を変えるのは、ロボットやAIなどの技術革新だけではない。
競争相手は「IT・AI・ロボット」だけではない で示したように、グローバル化によって、世界の製造業の拠点は日本から中国へ、更には安い労働力のマレーシア、タイ、インドネシアなどへ移っている。それは知的労働の分野にまで及び、システム開発やアプリ開発なども海外に発注されるため、日本でもIT技術者の長時間労働や低収入は社会問題となっている。これからの花形だとされているAIプログラマーも、卓越した技術とアイデアがない限り同じことになる。

大学生の「就職人気ランキング」にでてくる企業・業態は10年前のものとは全く違うが、恐らく5年後、10年後も今と全く変わっているだろう。
仕事は短期決戦なく、二〇年、三〇年、四〇年と続くものであり、プロフェッショナルになるためには、10年、15年と継続した、人一倍の努力が必要になる。ただ、現在「花形」と呼ばれる職業であっても、またその職種で「プロフェッショナル」になったとしても、社会が変化すれば、その労働価値・好待遇が維持されるわけではない。

これからの仕事選びで最も難しい点は、「労働価値の大変動・不確実性の急拡大」にある。
介護の仕事はどうだろう・・

高齢者の介護需要が爆発的に増加する日本

高齢者介護は、なぜロボット・ITにはできないのか で述べたように、高齢者介護は、「専門性+共感」に基づく仕事である。ITやAI、介護ロボットによって業務の軽減を図ることは可能だが、介護業務の根幹部分を代替することはできない。
また、国内限定の仕事である。最近は、「介護を受けるために介護費用の安いマレーシアなどの海外へ移住する」という人もいるが、「仕事で何年も住んでいた」「現地に信頼できる友人がたくさんいる」など特別な人でなければ、「重度要介護・認知症になっても海外生活」というのは現実的な選択ではない。

新聞や週刊誌、テレビには、高齢者の介護問題を取り上げたニュースが増えているが、まだ、私たちは超高齢社会の入り口にも立ってはいない。
他のコラムでも述べているが、「高齢者の増加」といっても、65歳~84歳までの高齢者は現在がピークで、これからは少しずつ減少していく。これに対して、85歳以上の後後期高齢者は2015年の500万人から2035年の20年の間に1000万人に到達し、「後期高齢者1000万人時代」は、その後、2070年代まで35年以上、続くことがわかっている。

この85歳以上の高齢者の激増は、重度要介護高齢者、介護需要の激増を意味している。
健康寿命を延ばすための介護予防は重要な施策であるが、加齢によって身体機能や認知機能の低下を完全に防ぐことはできない。
表のように65~74歳までの前期高齢者が要介護3以上になる重度要介護発生率は1.33%程度、75歳~84歳までの後前期高齢者は5.65%だが、85歳以上になると23.5%となり、要支援・軽度要介護まで含めた要介護発生率は59%へと跳ね上がる。85歳以上の高齢者の5人に3人は生活上何らかの支援・介護が必要で、4人に一人は、常時介護が必要な寝たきりや認知症など、常時介護がないと生活できない状態になるということだ。

また、介護サービスは「一人の介護スタッフは一台の車いすしか押せない」という、純粋な労働集約的なサービスであり、要介護高齢者の増加、要介護度の重度化によって、必要な介護サービス量が増加すれば、それに応じた介護スタッフの数が必要となる。
一方で少子化によって、生産年齢人口(16歳~64歳)は、現在の7700万人から、2035年には6500万人、2065年には4500万人と1000万人単位で減っていく。「生産年齢人口=支える人」「85歳以上=支えられる人」として単純に比較すると、2015年では一人の後後期高齢者を15.6人の生産年齢人口で支えているが、2025年には10人に一人、2035年には6.6人、2055年には5人に一人、2065年には4人に一人という計算になる。 超高齢社会で不足するのは財源だけでなく、重度要介護高齢者を支える人的資源は、いまの半分、1/3になっていくのだ。

【関連】 激増する介護需要 激減する労働人口 

労働市場は、景気の動向によって、「売り手市場」「買い手市場」と波のように繰り返す。そこにロボットなどの技術革新やグローバル化が重なるため、そのベクトルやスピードを完全に読み解くことは難しい。ただ、10年後、20年後ではなく、30年後、40年後も、需要が確実に伸びていく、供給が絶対的に不足することがわかっている仕事は、私の知る限り介護以外にない。

介護の給与は介護保険制度が担保している

もう一つ、介護労働を考えるにあたって、理解しておきたい特性がある。
介護サービスは、介護保険制度の発足によって、それまでの公的な老人福祉施策から、営利目的の事業へと変化した。「冠婚葬祭」「理容・美容」「ホテル・旅館」などと同じように、専門的な人的サービスを商品として売る仕事だといって良い。
ただ、一般サービスと根本的に違うのは、社会保険制度を基礎とするサービスであるということだ。

一般サービスの場合、需給バランスやそのサービス内容を決めるのは市場(マーケット)である。その地域・エリアに進出するか、経営が成り立つか否かを決めるのは事業者であり、コンビニやカフェ、美容院がない地域もたくさんある。

しかし、介護サービスは、その運営費の一部を「介護保険料」として国が強制的に徴収している。そのため、特殊な事情がない限り、「この町にお住まいの方は介護サービスを受けられません」「このエリアには利用できるデイサービスはありません」ということは制度上許されない。つまり、営利目的の事業でありながら、国や自治体は介護サービス事業を整備する一定の責務を負っていると言えるだろう。

ただ、これは介護保険制度が介護サービス事業所の経営の安定を担保しているという話ではない。
介護保険制度によって、提供すべき介護サービスの中身や、介護報酬は決められている。
その報酬やサービスをもとに、介護サービス事業に参入するのも、どのようなビジネスモデルを組んで、介護報酬から、どの程度を人件費に回すのかを決めるのも事業者である。経営者は決められた報酬・サービスの中で、経営の質を高めるとともに、介護スタッフが安心して安全に意欲をもって働けるように労働環境を整える努力をしなければならない。実際、同じ業種業態であっても、離職率が高く、サービスが不安定なところも多いが、離職率が低く、経営が安定している事業者もたくさんある。

介護報酬は、この20年、大きく自治体下がっているわけではない。
事業計画の中で介護スタッフの配置や給与を決めたのも、それを基に「介護サービスは事業性・利益率が高い」と参入したのも事業者である。介護労働市場が変化したからと言って、「すべての介護経営が安定するように、介護保険を上げろ」「高い利益がでるように報酬を設定しろ」と何でも制度や報酬の責任にするのは、全くの見当違いだということがわかるだろう。

では、介護保険は何を担保しているのか。
介護保険は、「必要な介護サービスの基本部分」を担保する制度であり、国や自治体は、介護サービス事業を整備する一定の責務を負っている。
重度要介護高齢者が増える一方で、「現在の介護報酬では介護サービス事業への参入はできない」ということになれば、制度の継続はできない。経営者が、十全の経営努力を行ってもなお、「介護報酬が低いから介護スタッフが集まらない」となれば、その責任は国にある。今後は、地域包括ケアシステムの時代に入るため、自治体やそれぞれの地域で必要なサービスを確保していかなければならない。
つまり、介護保険制度は、間接的に介護労働者の給与の基本部分を行政が担保している制度なのだ。

介護報酬設定が、専門職として不十分であることは事実であり、また優良大手企業のように、介護スタッフの平均年収が500万円、600万円を超えるということはないだろう。
ただ、適切な運営を続けている事業者で働いていれば、「給与が低すぎて最低限の生活もできない」「他の産業の仕事と比較してあまりにも待遇が悪い」ということはない。「営利目的の事業でありながら、国の制度によって一定以上の給与が保証されている」という仕事は、これまでも、これからも介護サービス以外にはないのだ。


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