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【Pro 10】 高齢者介護は、なぜロボット・AIにはできないのか

介護スタッフ向け 連載 『市場価値の高い介護のプロになりたい人へ』 No 10

介護の労働環境の改善・安全な介護サービスの提供の側面からも、AIやロボットにできる仕事はできるだけ任せる、移していくというのは不可欠な視点。ただし、高齢者介護は人間同士の「共感」を基礎とする仕事であり、その根幹をロボット・AIが代替することはできない。



「IT+AI+ロボット」に脅かされるプロフェッショナル で述べたように、今後、IT、AI、ロボットの進化によって、産業構造の変化は加速度的に進むと予測されている。それは、私たちの仕事選び、働き方にも大きく影響してくる。特に、日本はホワイトカラーと呼ばれる事務・管理職の比率が高く、野村総研は日本国内の601種類の仕事のうち、10年~20年の内に、49%の仕事が人工知能やロボット等で代替されることが可能だという推計結果を発表している。

これは仕事がなくなるという単純な話ではなく、労働価値が変化するということだ。 大手企業に入れば安心、弁護士や公認会計士といった難しい資格を取れば安泰という時代ではない。

では、介護の仕事はどうだろう・・・

介護業界でもロボット化は進んでいく

介護業界でも介護労働者不足が厳しくなるにつれ、介護ロボットへの期待が高まっている。
「介護の仕事も将来的にロボットに取って代わられるだろう・・」
「私たちが歳をとった時に、介護してくれるのはロボットか外国人だ・・」

介護業界にも、そんな風に話をする人がいる。

これは、ある一面では正しい。
介護労働の課題は、介護労働人口の減少だけではない。
高齢者を抱え上げたり、無理な体制で介助したりすることも多いことから、現在は「専門的な職種」というよりも、「チカラ仕事」というイメージが強く、慢性的な腰痛に悩まされている人も多い。「介護の労働環境の改善」「安全な介護サービスの提供」の側面からも、AIやロボットにできる仕事はできるだけ任せる、移していくというのは不可欠な視点である。

認知症高齢者がベッドから立ち上がったことを知らせる離床センサー、異変を家族やスタッフに知らせる見守りロボット、介護時の身体的負荷を軽減させるロボットスーツや介助リフト、また、レクレーションや会話を行うコミュニケーションロボットなども知られるようになってきた。

ロボット技術だけでなく、ITやAIなどの進化によって、現在、介護スタッフが行っている「見守り」など業務の多くを代替してくれるだろうし、「チカラ仕事」が少なくなることにより、50代、60代の人でも介護業務ができるようになる。不安な孤独の解消だけでなく、認知症予防や介護予防などのプログラムを組み込むことも可能となり、実際は離れて暮らしているが、見守りや声掛けはできるという「遠隔見守り・遠隔声掛け」や、「遠距離同居」のような未来型の高齢者の生活スタイルも見えてくるだろう。

AIスピーカーが変える超高齢社会(上) ~高齢者・家族~
AIスピーカーが変える超高齢社会(下) ~地域・社会・産業~

これは高齢者の生活の変化や介護労働の効率化だけでなく、社会保障削減などの効果も大きい。
ITとAIを複合的に活用することで、ケアマネジメントの充実、介護サービスの適正管理、またITによる地域介護医療ネットワークの構築、ビッグデータの活用による地域包括ケアの推進、AIスピーカーによる予防介護の充実など、できることはたくさんある。財政も人材も不足することが明らかな日本では、介護ロボットの進化は、一筋の光だと言ってもよい。
ITやAI、ロボットの進化には、高齢者の生活だけでなく、高齢者介護の仕事を大きく変えるだろう。

それでも、介護労働がロボットに奪われることはない

ただ、ロボットやAIが進化しても「介護の専門性がロボットに代替できるか」「介護の仕事がロボットに奪われるか」「介護スタッフは必要なくなるか」と言えば、そうはならない。
何故かと言えば、高齢者介護は「共感」を基礎とする仕事だからだ。

これからの介護とAIの関係を、取り組みが先行している医療とAIとの関係から考えてみる。
アメリカでは、これまで医師が経験や知識を元におこなってきた病気の診断や治療にも、AIが活用され始めている。日本でも、ロボットの指示によってタッチパネルで症状を伝え、AIが予測される病気の種類や必要な検査項目を選定し、またその結果をAIが分析、病名を診断するという日がやってくるだろう。
近い将来、医療知識やその疾病判断の正確さでは、AI医師は人間の医師を凌駕し、IT機器を使った遠隔診療、ロボットを使った遠隔治療も増えていくだろう。

だからと言って、医師が不要になるということではない。
病気やケガは、身体的な痛みや苦しみが伴うだけでなく、治療に対する心理的・社会的な不安が常に付きまとう。また、医療がどれだけ進化しても、すべての病気が治療でき、後遺症などもあり元の生活に戻れるわけではない。その治療が困難であればあるほど、その痛みや苦しみに共感し、不安に耳を傾けてくれる人間の医師が必要になる。
これは医師のあるべき姿、未来像にも関係している。現在の医師の中には「料理本(レシピ)医療」と呼ばれるような、患者の話を丁寧に聞かず、誰かが作ったガイドライン(レシピ)を盲目的に適用する人もいるが、患者とコミュニケーションのできない医師は淘汰されていくだろう。

高齢者介護にも同じことが言える。
老化や疾病によって身体機能や認知機能が低下するということは避けられない。ただ「一人で歩くことができない」「一人でトイレにいけない」というのは、不便という以上に、精神的なショックが大きい。転倒・骨折が原因で歩行が困難となり、生きる意欲を失い、ふさぎ込んだり、攻撃的になったり、また認知症やうつ病になる人も少なくない。
介護も医療や看護と同様に、「病気を治す」「生活支援を行う」という専門性の前提に、その人の不安や苦しみを理解し、寄り添うことが求められるのだ。

現在、医療と同じように、AIを活用してケアプランを策定させようという取り組みが行われている。
これは大賛成で、ケアマネジャーの業務の効率化、ケアマネジメントの質の底上げが可能となるだろうし、「囲い込み」といった押し売り介護の防止にもつながる。
ただ、年齢、性別、要介護状態が同じであれば、同じケアマネジメント、同じ介護サービスになるわけではない。それはあくまでも「一次プラン」であり、そこから一人一人の要介護高齢者の個別ニーズ、生活に寄り添い、ケアマネジャーが一次プランを修正していく必要がある。

これはケアプランの作成だけでなく、日々の介護業務も同じことが言える。
特に、高齢者介護は、「認知症」とは切っても切り離せない。本人が「大丈夫」といっても、大丈夫でないことはたくさんあり、「OK」という本人の指示に従って放置すれば、転倒・骨折ということもある。失見当識や幻覚・幻聴によって混乱して興奮し、意味不明なことを言っているときでも、それは本人にとっては現実であり、ゆっくり話を聞いていれば落ち着いてくる。

そこに求められるのは「共感」だ。 共感とは、相手の状況に自分を置き換えて考えることのできる能力であり、その人の気持ちを感じ取れる能力である。
「専門性の代替」だけであれば、ロボットやAIにもできるかもしれないが、介護は「専門性+共感」に基づく仕事だ。「病気や要介護状態だけを見るな」という全人的医療、全人的介護という言葉があるが、それができるのは人間しかいないのだ。

介護はそれぞれの国民の文化 ~外国人に難しい理由~

この共感の問題は、高齢者介護が外国人に難しい理由でもある。
昨年成立した、出入国管理法の改正により、介護業界にも外国人労働者が増えると予想されている。
ただ、介護は高い「安全配慮義務」が求められる仕事🔗 で述べたように、対象は身体機能・認知機能の低下した要介護高齢者であり、一瞬のミス、小さなスキが転倒や溺水、熱傷などの重大事故、死亡事故につながるリスクの高い仕事だ。これにはコミュニケーション不足、勘違いも含まれる。「お薬飲ませてください・・」と頼まれて、本人の言う通りにした結果、誤薬で急変ということもある。

言葉以上に難しい問題が、ここで述べた「共感」だ。
共感は言葉や国籍を超えたヒューマニズムに基づくものだという人もいるが、介護現場においてはそう単純ではない。その中には「小さな気づき・感性」も含まれ、それぞれの国の生活環境や文化に基づいて判断されることが多い。入浴一つをとっても、ゆったりとお風呂に浸かってリラックスするという国は多くはないし、男女間の性差、儒教などの上下関係、宗教まで、それぞれに違う。良かれと思ってしたことでも、国柄が違えば、侮辱したことにもなりかねない。外国の人からは「日本人は感情や表情が読み取れない・・」と言われるが、日本人同士であればわかることも多い。

逆に、日本で高齢者介護、認知症介護をしていたからといって、生活環境や文化のまったく違う国で、認知症高齢者が理解できるか、その表情や感情が読み取れるかと言えば難しいだろう。「外国人には介護はできない」などということではないが、言葉の壁以上に、「感性」「共感」の壁は大きいのだ。
またそこには、重大事故のリスクや高い安全配慮義務も求められる。日本人の介護スタッフのサポートや、二人一組で行うような仕事であれば可能だが、日本人介護スタッフと同じように一人で責任をもって介護サービスを提供してもらうためには、相当の訓練と経験が必要になるだろう。



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