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「介護の仕事は最悪・ブラック」の原因はどこにあるのか


介護の仕事がブラックだと言われる最大の原因は「介護経営者の甘え」。介護報酬の多寡にかかわらず、介護事業に参入した時点で、介護の労働環境を整える責務は事業者にある。介護の離職率・労働環境は二極化している。介護のプロフェッショナルを目指すのであれば、働く事業者を選ぶ必要がある。

介護スタッフ向け 連 載 『市場価値の高い介護のプロになりたい人へ』 015


私は「高齢社会だから、介護の仕事には未来がありますよ・・」「人の役に立つ立派な仕事ですから、誇りを持って頑張りましょう・・」などという気はさらさらない。
営業やAIやITの仕事も同じで、未来があるかどうかは「本人次第」としか言いようがない。「介護の仕事はブラックだ」という話を聞くと、「この人は、介護の仕事の楽しさや、奥深さを知らないまま辞めてしまうのか…」と残念に思うけれど、当人が感じたことであり、「それは間違いだ」と反論する気はない。

介護の給与の特徴については、介護労働者の給与は本当に低いのか (1)  介護労働者の給与は本当に低いのか (2)で述べた通りで改めて繰り返すまでもない。
ただ介護という仕事は、これまで多くの人がやってきたことで、またその給与も待遇もそれほど変わっているわけではない。なのにどうして、ここまで介護労働というものに対するイメージが悪くなったのか。

「介護報酬が低いのが原因だ・・・」という人は多いが、それが主たる原因ではない。


高齢者介護業界 甘えの構造

一つは、間違いなく、「私たちは安い給与なのに、頑張って働いている」という介護スタッフの甘えだ。
セミナーなどでは「男性職員が、結婚を機にやめることを結婚退職と言います。給与が低いからです」と胸を張って言う人を見かける。
確かに、介護の給与はその専門性に対して十分だとは言えず、私も報酬アップが必要だと考えている。ただ、何度もそう言われると、「そう思うのであれば、君も辞めればいいじゃないか」と思ってしまう。職業選択の自由は、憲法で保障されている。もっと高い給与で、もっと楽な仕事があるのならば、そちらに移ればよい。高齢者も家族も「僕は可哀そう、自己犠牲の精神で働いています」という人に介護を受けたくないだろうし、給与が数万円上がったところで、質の高い介護ができるとは思えない。

この甘えの構造は、介護サービスの質の低下の原因でもある。
介護の業界では、「介護はサービス業です」「ご利用者様の安心・快適な生活のために」「入居者さまの生活をサポートする素敵な仕事」と立派なことを言う人が多いが、事故が起きると「自宅でも事故は起きる」「介護スタッフのミス・責任ばかりではない」と言い訳し、家族から苦情や意見を言われると、「自分でやればいいのに」「クレーマー家族のせいで仕事できない」と、平気で手のひらを反す。

一方で、「介護のサービス提供責任とは何か」「どのようなケースの時に法的責任が問われるのか」を問うと、正確に答えられる人はほとんどいない。クレームや苦情の内容を聞けば、「事前にきちんと説明しているのか?」「家族がそう思うのも当然では?」と思うことの方が多い。
繰り返しになるが、介護報酬を上げてほしいと要望するのは、「オムツ替えが大変だから」「忙しいから」ではなく「介護の専門性、プロの知識・技術を適切に評価してほしい」と願うからだ。家族や本人に十分な説明もできず、「事故はゼロにできない」「家族が理解していない」という言い訳、責任転嫁では、本当にそれでも介護のプロのつもりなのか・・と言われても仕方ないだろう。

どんな仕事でも、社会のニーズがあり、人の役に立っている。介護だけが特別で、「役に立っているのだから、安い給与で頑張っているのだから、感謝されて当たり前・・」と思うのは大間違いだ。
ある営業職の友人に「いいよなぁ介護業界は。みんなに大変だ、可愛そうだと言ってもらえて…」「トラブルや苦情があっても、高齢者が悪い、家族が悪い、社会が悪いって、みんな人のせいにしてりゃいいんだから…」「俺らなんて、安い給与で嫌な奴にどんだけ頭下げてるか…」と笑われたが、その通りだ。
業界内だけで愚痴を言い合って、慰め合っていても、知識や技術が伴わなければ社会的地位を上げることはできない。いつまでも、「そりゃ大変ね…」「かわいそうね…」と言われるだけで終わってしまう。

これはマスコミの報道や一部の政治家の言動にも原因がある。
介護の人材不足の問題を取り上げるとき、「40歳・男性の平均給与を比較すると…」といった著しく偏ったデータだけを取り出し、「給与が低い…待遇が悪いのに頑張っている…」というだけで、避けられない事故の検証、理不尽なクレームなど、実際に現場が困っている課題について深くとらえようとしない。そういえば、昔、民主党の政権時に「ミスター年金」などと呼ばれた大臣が国会で介護の人材不足を問われ、「ハローワークで仕事を探している人に介護の仕事を積極的に斡旋します…」と答弁しっていたが、それは介護は他に仕事のない人の仕事だと言っているのと変わらない。
「ほめ殺し」ならぬ「おため殺し」で、実際は介護の人はかわいそう、介護の仕事はやめましょう・・とネガティブキャンペーンを張っているようなもので、それに一部の素人介護者が追随し、「俺たちは頑張っている」という自己陶酔のマスターベーションで介護労働やその専門性の評価を下げているのだ。


介護を知らない 素人経営者の激増

この甘えの構造は、介護スタッフの責任だけではない。
この甘えが最も強いのが介護経営者だ。

介護サービス事業は、民間の営利目的の事業でありながら、公的な介護保険制度によって、提供すべき介護サービスの中身や、介護報酬は決められているという他に類例のない特殊な事業だ。
ただ、その報酬やサービスをもとに、介護サービス事業に参入するかしないかを決めるのも、どのようなビジネスモデルを組んで、介護報酬から、どの程度を人件費に回すのかを決めるのも事業者である。参入した以上、経営者は決められた報酬・サービスの中で、経営の質を高めるとともに、介護スタッフが安心して安全に意欲をもって働けるよう努力をしなければならない。
それができないのであれば、介護サービス事業に参入すべきではない。

しかし、介護業界は大手・中小を問わず「介護は儲かりそうだ」と、介護の現場も介護保険の基礎も知らないまま参入・拡大してきた素人事業者が多い。そのため「介護の仕事は労働環境が最悪だ…」という介護スタッフと話をすると、まったく人員配置が整っておらず、「介護という仕事の問題ではなく、その事業者の労働環境が原因」というケースがほとんどだ。

これは介護労働安定センターが出している「介護労働実態調査(平成29年版)」を見ればよくわかる。


介護職の離職率が高いと言われるが、一般産業の15%に対して、介護労働者の離職率は16.2%であり、それほど大きな違いはない。
ただ、介護業界の特徴は、離職率が二極化しているということだ。上記の費用を見ればわかるように、離職率が10%未満の事業所も38%なのに対し、30%以上という高い離職率の事業者も23%を超える。

中でも、特に、離職率が高いのが介護付有料老人ホームだ。同じ、包括算定で介護サービスを提供する特養ホームや老健施設と比較すると、離職率が30%という事業者の割合が3倍以上と突出して高いことがわかるだろう。

それは、介護付有料老人ホームの過度な低価格化と関係している。
以前の有料老人ホームは入居一時金が数千万円、月額費用も30万円以上という富裕層を対象としたものが多かったが、介護保険制度以降、一時金ゼロ、月額費用も20万円台前半というものが増えている。それは対象者の違いや、介護保険制度の導入も関係しているのだが、事業計画を見ると、過度な低価格化のしわ寄せが、介護スタッフの労働環境や待遇の悪化につながっているものが多い。

価格競争力だけを目的に、過度な低価格化を実現しようとすると、最大の支出項目である人件費を抑える必要があるため、「給与が安い」かつ「全く介護スタッフ数が足りていない」という状況になるからだ。
「医療依存度OK」「認知症高齢者OK」「何でもOK」で夜間にも入居者は次々起きてくるのに、夜勤帯のスタッフが全く足りないため、休憩も取れず階段を使って走り回わっている。危険な入浴介助でもマンツーマンではなく、少ないスタッフ数で対応しなければならないため、重大事故のリスクが高くなる。

更に、低価格のサ高住や住宅型では「併設サービスしか利用させるな」「要介護状態が重くなるように認定調査しろ」「印鑑はこちらで押すから大丈夫」と、介護やケアマネジメントの専門性を無視した経営指示が横行している。介護スタッフに不正を強いるなど、ブラック企業の最たるものだ。それが続けば、介護スタッフも隠蔽や改竄が当たり前となり、虐待していることもわからなくなっていくのだ。

経営者の中にも「介護の給与は低い」「介護スタッフ数が足りない」と文句を言っている人がいるが、その事業計画を立てたのは誰なのか。実際にチェックをすると「この人件費で人が集まると思っているのか?」「この人数では要介護高齢者には対応できない」と、即断できる事業計画が大半だ。
セミナーや講演会でも「このままでは介護労働離れが、ますます進むだろう」「介護報酬が低いので、未来は明るくない」なんて、わざわざ手を挙げて、評論家的な意見をいう経営者や管理者もいるが、社長や管理者みずから、「ここで働いても未来はないよ」「介護業界は大変なのに給与が安いんだ」「みんな政府が悪いのさ」なんてぼやいている会社に、本当に優秀な人材がくるとでも思っているのだろうか。

これは民間の介護事業者だけではない。
「介護の給与は安い・・」などと言いながら、天下り公務員のお財布や地方議員のお財布として使われている社会福祉法人は多く、とある社会福祉法人では、介護の経験も資格もない、議員の理事長が年収2000万円、その妻や天下り公務員施設長が1500万円と聞いておどろいたことがある。全国で介護スタッフに払われずに、介護スタッフではなく、これら福祉利権に群がっている人達に支払われている給与は、少なくとも年間数百億円に上ると推計されている。
それを考えると、「すべての介護経営が安定するように、介護保険を上げろ」「高い利益がでるように報酬を設定しろ」と何でも制度や報酬の責任にするのは、全くの見当違いだということがわかるだろう。

同じ業種業態であっても、離職率が高く、サービスが不安定なところも多いが、離職率が低く、経営が安定している事業者もたくさんある。
この離職率二極化は、視点を変えれば介護の労働環境の二極化を表しているともいえる。
不満がある人は、「介護の仕事は・・・」などというものだが、楽しく働いている人は何も言わない。
述べてきたように、介護の仕事に未来があるか否かは、それぞれ一人一人違うだろうが、その前提として、介護のプロフェッショナルを目指すのであれば、どの事業者・企業で働くのかによってその未来は決まるのだ。



高齢者介護の仕事に未来はあるのか ~現状と課題~ (全10回)

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【PROFESSIONAL】 ~ 市場価値の高い介護のプロになりたい人へ ~

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