「囲い込み」は何が問題なのか

超高齢社会の不良債権になる「囲い込み高齢者住宅」


囲い込み高齢者住宅は商品としてあまりにも脆弱。「重度化対応の不備」「事故・トラブルの増加」「介護スタッフの大量離職」、更には「指導監査の強化」「囲い込みの禁止」によって、実質的に経営できなくなる。その大半は倒産・事業閉鎖となり、地域包括ケアシステム、超高齢社会に禍根を残す不良債権となる。

高齢者住宅の「囲い込み」とは何か、何が問題なのか 08 (全9回)


ここまで、「囲い込み高齢者住宅」のビジネスモデルの課題について述べてきた。
「同社(サ高住)の事業計画上は、入居者が区分支給限度額の85%以上をつかうことが前提」
「デイサービスを「行って寝てればよい」と職員に説得されて仕方なく使った」

といった、ビジネスモデルが超高齢社会の中で認められるものか、それがどれほど重大な不正なのか、繰り返すまでもないだろう。

この「囲い込み高齢者住宅」は、ビジネスモデルとして社会に受け入れられることも、安定的に経営・サービスを維持することもできない。この10年の間に多くが倒産、閉鎖となり、行き場を失った多くの入居者が、大きな社会問題となることは避けられない。


区分支給限度額方式では重度化対応できない

最大の問題は、商品・サービスとして重度要介護高齢者に対応できないということだ。
そう言うと、「実際に、多くの重度要介護高齢者が生活しているじゃないか・・」と反論がでるだろう。しかし、それは不正を前提にしているからだ。
自立高齢者を対象とした高齢者住宅と、要介護高齢者を対象とした住宅は、建物設備も介護システムも、商品として根本的に違う。住宅型有料老人ホームやサ高住は自立高齢者向けの高齢者住宅だ。

一つは介護システムの違いだ。
介護保険制度は、介護サービス量を基礎として介護報酬や区分支給限度額が設定されている。
しかし、軽度要介護と重度要介護は、介護のサービス量だけではなく、介護の中身が変わる。
重度要介護高齢者が、高齢者住宅で生活するために必要な介助項目を一覧にしたのが次の図だ。

介護付有料老人ホームの特定施設入居者生活介護は、「一日〇〇単位」という包括算定のため「対象内、対象外」という概念はなく、「外出など特別な介助」を除き、すべてが対象となる。
一方の区分支給限度額方式の訪問介護では、「事前予約制の出来高算定」であり、対象となるのは定期介助だけで、すき間のケア、間接介助、随時緊急対応は対象にはならない。

その内容も、細かく決められている。
例えば、一人では食事ができない高齢者が、自分の部屋から食堂まで移動する場合の介助は、食事介助に付属するものとして算定対象となるが、食事は一人で食べられるが、食堂までの移動だけ、見守りだけが必要という高齢者は、訪問介護の食事介助の算定対象にはならない。


軽度要介護高齢者は、定期介助だけでも生活は可能だ。
しかし、重度要介護高齢者になると、介助がなければ、トイレや食事だけでなく、起き上がることも、車いすやベッドに移ることもできないため、臨時のケアや隙間のケアが増えていく。
認知症になると、突然、混乱したり、想定できない行動を起こすことがあるため、状態把握や見守り・声掛け、定期巡回といった間接介助が多くなる。

「対象外のケアは手の空いたヘルパーがやっている」と答える事業者は多いが、言い換えればそれは手が空いていなければできないということだ。低価格を前提としているため、常時、手の空いている介護スタッフを必要数、別途確保することはできない。そうすると「転倒してコールを押した」「便が出たのでオムツをかえてほしい」と言った依頼にも、「あと一時間待って」ということになる。また認知症高齢者に対する見守りや声掛けは、「手が空いたときに・・」という種類のケアではない。

介護システム以上に大きな違いは、建物設備だ。
要介護高齢者・重度要介護高齢者に対応するには、居室と食堂が同一フロアであることが原則だが、現在のサ高住や住宅型有料老人ホームは、居室フロアと食堂・浴室フロアが分離しているものがほとんどだ。この分離タイプで、生活上、介護上、最大のバリアとなるのがエレベーターだ。

車いす利用者であっても、同一フロアであれば、自分の部屋から食堂まで自分で移動ができる人は多い。
しかし、エレベーター移動になれば、その容量は限られ、他の入居者も同じ時間に移動するため、一人で食堂まで行って帰ってくることはできない。
重度要介護高齢者が増えると、エレベーターホールの前には、エレベーターを待つ長い車いすの大混雑の列ができ、介助スタッフは、各フロアから食堂フロアへの移動介助を繰り返すことになる。
特に、朝は「起床介助(洗顔・歯磨き・着替えなど)」から、「食事準備」「排泄介助」など、非常に多くの介助が短い時間の中に重なる。その時間が遅れると朝食だけでなく、その後の入浴や通院などのスケジュールに影響してくる。またそもそも、「移乗・移動介助のみ」は、区分支給限度額方式では介護保険の対象外であるため、誰がやるのかわからない。

結局、要介護高齢者を起こす時間を前倒しにするしか方法はない。
実際、車いす利用者の多いサ高住の中には、「毎朝、午前3時半」に起こされ、そのまま食堂に昼食まで、ひどいところは夕食まで放置されるところもあるという。
つまり、「サ高住でも、重度要介護高齢者が生活している」というのは、「介護保険の不正をしているか」「悲惨な生活を強いられているか」のどちらかであり、実際はは「その両方」だ。
「サ高住は自立専用ではない。重度要介護が多いと指摘することがオカシイ」などと新聞紙上などでもコメントしている人がいるが、「サ高住だから重度はダメ」と言っているのではなく、現在のサ高住を見ると、そのほとんどすべては重度要介護状態になると生活できないのだ。


事故・トラブルの増加、介護スタッフの離職率の激増

重度化対応できないということは、転倒や骨折、死亡などの重大事故が増えるということだ。
「サ高住は一般の賃貸住宅と同じなので、事故責任はない」と、制度を推進した国交省と事業者が説明をしているが、常識的に考えて「介護が必要になっても安心・快適」と入居者を集めておいて、実際に事故が発生すると「安全とは言っていない」などという言い訳が通るはずがない。
サ高住・介護付だけでなく、特養ホームも事故に対する安全配慮義務のハードルは同じで、一般の賃貸アパートと比較にならないほど高く、重い。

もちろん、直接的には、介護上の事故はサ高住や住宅型有料老人ホームには関係ない。
ただ、犯罪者になるケアマネジャー、加害者になる介護スタッフ 🔗 で述べたように、その責任は雲散霧消するわけではなく、その責任を負うのは現場で働いているケアマネジャーや介護スタッフ個人だ。「安心・快適」と要介護高齢者を集めておいて、囲い込みによって無理な介護労働をスタッフに介護押し付けておいて、国交省も事業者も「事故はサ高住の責任ではない」と無関係を装うのは、無責任というよりも卑劣だと言われても仕方ない。
ブラック企業と言えば、「パワハラ・セクハラ」を含め、労働条件の劣悪さが課題となるが、ケアマネジャーや介護スタッフに過酷な労働と、法律に触れる不正を強いる一方で、「事故も不正も自分達には関係ない」というのは、ブラック企業というよりも暗黒企業だといって良いだろう。

現在、「囲い込み型高齢者住宅」にも重度要介護が多いと言われているが、それは 拡大する不正 ~介護・医療を使った貧困ビジネス詐欺~🔗 で述べたように、認定調査の不正によって「重度に見せかけている」のが実態だが、今後は、実際に重度要介護高齢者がどんどん増えていく。
そうすると、商品設計の不備+過重労働となり、事故やトラブルが更に増加することになる。

現在、介護労働不足が大きな社会問題となっているが、重度要要介護高齢者の増加と反比例するように、生産年齢人口の減少が進むため、介護人材の確保が難しくなることは言うまでもない。
今や、介護業界は超売り手市場だといって良く、全国どこでも、ケアマネジャーや介護関連の資格を持っていれば、どんな事業所でも選ぶことができる。介護労働市場は、景気や技術革新によって変動するが、介護の仕事に人が戻ってきても、誰も「低賃金・高リスク」の事業所で働きたいと思わないだろう。
この問題が表面化すれば、囲い込み事業者の介護スタッフ、ケアマネジャーはいなくなる。


「囲い込み」ビジネスモデルに対する規制強化

もう一つの要因は、囲い込みビジネスモデルに対する規制強化だ。
最近では、「訪問介護併設は目をつけられやすい」として、「通所介護」「諸規模多機能事業所」を併設して、囲い込みを行うサ高住が増えている。
しかし、これも制度矛盾を利用している、ケアマネジメントの不正を基礎としているというのは同じだ。

「毎日、無理やりデイサービスに行かせ、その利益で夜間の介護スタッフの人件費を賄う・・」
「入居者が部屋で寝ていると介護保険対象にならないので、デイサービスで寝てもらう」

というのが適切なビジネスモデルだとは言えないし、夜間に急変や事故、災害が発生すれば、どうなるかのかも誰も考えていない。無届施設やサ高住などの低所得者を対象とした高齢者住宅を行っている事業者は、「利用者も月々支払う費用は安いし、事業者も介護報酬で利益を確保できる。ウインウインの関係だ」という事業者もいるが、それは社会保障費に負担を押し付けているにすぎない。

介護ビジネスや高齢者住宅は、飲食業や小売業など、一般の事業者と消費者との関係のB to Cのビジネスモデルではなく、その支出の9割は行政の社会保障制度が担っているA to B to C という他に類例のないビジネスだ。社会保障費や介護関連費が絶対的に不足する中で、このような「家賃や食費を社会保障費に押し付ける」という制度矛盾をついたビジネスモデルが維持できるはずがない。

また、囲い込みは「制度矛盾をついたビジネスモデル」というだけでなく、介護保険の基礎であるケアマネジメントを無視した「不正なビジネスモデル」である。「認定調査の不正」「介護報酬の不正請求」も横行している。「不正のところばかりではない・・」と反論する人が多いが、「重度要介護高齢者が半数以上」という囲い込み型高齢者住宅を、事前通告なしで立ち入り調査してみればよい。全てだとは言わないが、その大半の事業者で、複数の重大な不正行為が見つかるはずだ。

制度改正が行われなくても、監査の強化が行われれば、このビジネスモデルは終了する。
逆に、このまま「囲い込みビジネスモデル」を放置すれば、介護保険制度や自治体の財政は崩壊する。
どちらかしか選択肢はない。ただ、恐らく「違法高齢者住宅が生き残って、介護保険財政が破綻」という選択肢が採られることはないだろう。



上記、3つの視点から、「囲い込み高齢者住宅」の経営リスクから見た、経営の脆弱性について述べた。
この10年の内に、半分以上は倒産し、超高齢社会に禍根を残す不良債権となることは避けられない。

最も悲惨なのが、コンサルタントやデベロッパーに騙されて、サ高住に参入した地主事業者だ。
介護コンサルタントや訪問介護サービス事業者は、経営が上手くいかなくなれば逃げ出すことができるが、事業者は逃げ出せない。数億円単位の金融機関からの莫大な借金を背負うだけでなく、補助金の返還も求められる。もちろん、その建物は他の用途に転換することもできない。
「固定資産税が高いから…」と土地の有効利用で安易に始めたサ高住はが、自己破産の引き金になるという事例は、現実に全国で増えている。
それは、合わせて、行き場のない要介護高齢者が大量に発生するということだ。


「知っておきたい」 高齢者住宅の「囲い込み」の現状とリスク

  ⇒ 高齢者住宅・老人ホームの「囲い込み」とは何か     🔗
  ⇒ なぜ、低価格のサ高住は「囲い込み」を行うのか 🔗
  ⇒ 不正な「囲い込み高齢者住宅」を激増させた3つの原因 🔗
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  ⇒ 要介護高齢者の命を奪った「囲い込み介護」の死亡事故 🔗
  ⇒ 拡大する不正 ~介護医療を使った貧困ビジネス~ 🔗
  ⇒ 加害者・犯罪者になるケアマネジャー、介護スタッフ 🔗
  ⇒ 超高齢社会の不良債権となる「囲い込み高齢者住宅」 🔗
  ⇒ 囲い込みを排除できなければ地域包括ケアは崩壊 🔗

【TOPIX】 キーワードを切り取る、超高齢社会を読み解く

  ☞ 地域包括ケアは超高齢社会を救う「魔法の呪文」ではない (全8回)
  ☞ 地域包括ケアシステム 構築の要件とポイント (全7回)
  ☞ 高齢者住宅の「囲い込み」とは何か、グレーかブラックか (全9回)
  ☞ 老人ホーム崩壊の引き金 入居一時金経営の課題とリスク (更新中)





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