介護サービスは、要介護高齢者一人一人の生活課題・個別ニーズに合わせて、安全・快適に生活できるための生活環境を整える「オーダーメード」の商品。それは介護サービスだけでなく、食事内容や建物設備見直しなど生活環境・サービス全般に渡る。ケアマネジメントは「介護」という商品そのもの
介護スタッフ向け 連 載 『市場価値の高い介護のプロになりたい人へ』 023
「ケアマネジメントはケアマネジャーの仕事」
「ケアプランは、介護サービスの計画書・介護報酬算定の管理表」
介護の仕事をしている人の中にも、そう考えている人は多い。
しかし、ケアマネジメントは介護保険制度の根幹であり、現在の高齢者介護の基礎となる考え方である。介護スタッフだけではなく、その要介護高齢者に関わるすべてのサービス、人、モノがケアマネジメントの構成要素であり、ケアマネジメントの理解なくして、現代の高齢者介護は語れない。
ここでは、高齢者住宅を例に、「商品の市場価値向上」「事業への貢献・利益」の視点からケアマネジメントの基本について、整理する。
ケアマネジメントは「介護という商品」そのもの
介護保険制度が始まる2000年までの特養ホームでは、効率性を重視し、起床から就寝まで事業者の定めた生活スケジュールに沿って介護が行われていた。7時、11時、15時、18時と時間を決めての一斉排泄介助、流れ作業のような入浴、食事、更にはレクレーションや喫茶までもほぼ強制的に行われていた。
しかし、このような介助方法では、事業者の都合に合わせた「お仕着せ介護」となり、高齢者それぞれの生活リズムや生活スタイル、個別の希望をくみ取ることができない。その結果、高齢者は生きがいをなくし、無気力になったり、依存心が高くなり認知症が悪化するなどの課題が指摘されていた。
そのため、要介護高齢者一人ひとりの身体状況や生活環境、生活スタイルに合わせて介助を行う「個別ケア」が求められるようになり、介護保険制度の中でケアマネジメントが導入・制度化された。
このケアマネジメントによって、高齢者介護は、それまでの「集団ケア」から「個別ケア」へと移行しただけでなく、「家族代行サービス」から「専門的・科学的サービス」へと変化した。ケアマネジメントは、現代介護の根幹だといって良く、介護保険制度以前の老人福祉による介護とは一線を画すものだ。
この個別ケアの実践を検討する作業全体をケアマネジメントと言い、その過程や成果を書類にまとめたものをケアプラン、その策定を中心になって行う専門職がケアマネジャーだ。
このケアマネジメントが、介護サービス経営にとって、なぜ重要なのかと言えば、「介護サービスという商品の根幹」だからだ。
「介護の質」と言えば、個々の訪問介護事業者や介護スタッフの知識や技術などをイメージしがちだが、「要介護高齢者の生活向上」という広い視点でとらえた場合、それを左右するのはケアマネジメントだ。
現代の高齢者介護は、ケアマネジメントの中で、一人一人の高齢者の要介護状態、個別ニーズ、生活課題をアセスメントし、その生活課題の改善を目標として、生活環境の整備、生活支援サービスの提供方法を定める。事業者の独善的な「お仕着せ介護」にならないよう、本人・家族も含めたカンファレンスを通じてチームで共通の目的と理解を持って介護を行う。また、その計画通りに生活の向上・課題の改善が行われているかをモニタリングし続けることで、効果を検証・修正する。
言い換えれば、介護サービスは、要介護高齢者一人一人の生活課題に合わせて、安全・快適に生活できるための生活環境を整える「オーダーメード」の商品であり、高齢者住宅や介護保険施設では、それは介護サービスだけでなく、食事内容や建物設備見直しなど生活環境・サービス全般に渡る。
経営者の中には、「ケアマネジメントはケアマネジャーにお任せ…」「専門職種だから…」と全く興味を示さなかったり、逆に「利益優先のケアマネジメント」「サービス囲い込み」をケアマネジャーに強いるなど、その専門性を無視するような人もいるが、それは、経営者自らが「自社の商品には興味ない」「不正商品でも利益が高ければ構わない」と言っているのに等しい。
介護サービス事業は、質の高い介護サービスを提供するのが仕事である。 「ケアマネジメントの質=介護サービスの質=商品の質」であり、その質の維持・向上は事業の根幹なのだ。
ケアマネジメントとリスクマネジメント・経営マネジメント
このケアマネジメントは、他のリスクマネジメント・経営マネジメントとも深く関係している。
高齢者は目に見える身体機能だけでなく、視力・聴力・筋力の低下や骨粗鬆症、更には判断力、俊敏性なども著しく低下している。少しの段差でも転倒しやすく、また大腿部骨折や頭部打撲による硬膜下血腫などの重大事故のリスクも高くなる。ケアプランの第一の目的は、重大事故を予防し、安全に安心して生活できる環境を整えるということだ。
合わせて、高齢者や家族に対する説明力も必要になる。
どれだけ本人の要介護状態に合わせたケアプランを作成しても、事業者や介護スタッフの努力だけで事故をゼロにすることはできない。特に、認知症高齢者は自分で事故のリスクが判断できない人が多く、「ここで待っていてくださいね」「車いすからの立ち上がりは危険です」「トイレに行くときはコールしてください」と説明しても、すぐに忘れてしまう。逆に危ないからといって、車いすに括り付けたり、ベッドから出られないように四方に柵をするというのは身体拘束、虐待になる。
ケアカンファレンスの中で、事故リスクやその予防策、その限界についてきちんと説明すれば、ほとんどの家族は理解してくれる。ケアマネジメントやそれに基づく介護サービス提供は契約であり、「絶対に転倒させるな」「事故が発生すればすべて事業者の責任」と言われると、契約もサービス提供もできない。逆に「介護が必要になっても安心・快適」「介護のプロにお任せください」と事故のリスクを説明しないまま契約し、一週間程度で骨折すれば、「何をしていたのか」「ちゃんと介護してもらっていたのか」とトラブルになるのは当然だと言える。
ケアマネジメントと経営マネジメントの関係も小さくない。
ケアマネジメントは、「介護サービスという商品の根幹」だと述べたが、同時にケアプラン・ケアマネジメントは「介護報酬請求の基礎」となるものである。
現在、サ高住や住宅型有料老人ホームで問題となっている「囲い込み」は、ケアマネジメントの不正だ。実際よりも要介護状態を重くする「認定調査の不正」、アセスメントに基づかない介護サービスの押し売りなど併設サービスを強要する「ケアプラン作成の不正」、また実際に行っていな介護報酬を請求する「不正請求」の3つの不正に分かれる。その不正はグレーゾーンではなく、介護保険法の根幹に関わる不正であり、かつ社会保障財政悪化の要因でもあり、今後、更なる規制が強まることは間違いない。適切なケアマネジメントができていなければ、行政指導による返還請求や事業停止などによって、事業の継続は困難になる。
新規入居者の受け入れ可否の判定においても、ケアマネジメントはその判断の中核となる。
「認知症OK、医療対応OK」と安易に請け負う高齢者住宅が増えているが、実際に受け入れ可能か否かは、ケアマネジメントを通じて判定しなければならない。認知症の周辺症状(BPSD)、日常的な医療ケアの必要性や頻度、緊急時の対応、他の入居者への影響、看護師や介護スタッフへの負担などを適切に判断できなければ、入居後に事故やトラブルが激増し、介護現場は大混乱する。
逆に、現場の意見が強くなりすぎ、「手のかかる高齢者は大変だから嫌」「重度の人は無理、食事介助が大変だから不可」となると、受け入れ対象が狭くなり、入居率が低迷し、収益が悪化することになる。
この入居の可否判断は、経営マネジメント、リスクマネジメント、ケアマネジメントすべてに関わってくる。難しいケースにおいては、適切なケアマネジメントを通じて、「受け入れ条件」「リスクへの対応」をきちんと整理し、介護現場や家族へ説明し、納得させることが必要となる。
このように整理すると、ケアマネジメントは「要介護高齢者の生活支援、生活の質の向上」というだけでなく、収益性にも直結する事業の根幹であることがわかるだろう。
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