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介護労働者の給与は本当に低いのか (2)

介護スタッフ向け 連載 『市場価値の高い介護のプロになりたい人へ』 No 13

一般の産業の給与体系は、男女差、企業規模差、産業差、学歴差が大きい。一方の介護業界は、性別、企業規模、学歴は関係ないが、働き続けても給与の上昇率が低い。介護保険制度は、この課題改善に向けて資格や勤続年数を基礎とする処遇改善加算をスタートしている。



介護労働者の給与は本当に低いのか (1) において、介護サービスと、一般産業の平均給与の違いについて整理した。性別や勤続年数、産業によって大きな違いがあるにもかかわらず、「40歳男性の平均年収」と年齢と性別だけを切り取って比較しても正確だとは言えない。
ただ、介護従事者は、一定の介護報酬を基礎としている以上、10年、20年働いても、また役職者になっても、給与の上り幅は少ないということも事実である。

前回に続き、もう少し、この検証、議論を続ける。

企業別・学歴別・年齢別給与から見えること

一般産業の特徴は、大企業(従業員100人以上)、中企業(100人~999人)、小企業(99人以下)など、企業規模によって、その給与に差があるということだ。
その一覧を示したのが、次の表だ。

企業規模が小さいということは、一般的には総売上額が小さいということであり、社員に分配出来る金額は小さくなる。新卒者の給与を下げると人が集まらなくなるため、給与の上昇率を抑えるしかない。
平均値としてみた場合、30代、40代、50代となれば、その給与水準は月額10万円以上になることから、企業規模によって顕著な差があることがわかるだろう。

もう一つ、一般産業での特徴は、学歴別の差だ。
同じ企業で働いていても、大学・大学院を出ているか高卒なのかによって、給与・待遇は全く違う。
初任給は2.5万円ほどの違いでしかないが、30代、40代と年齢を重ねるとその差は大きくなり、40代では月収で10万円以上、50代前半では18万円以上、ボーナスを含めた年収に換算すると200万円~300万円の差になる。


これは実際に、企業で働いてみるとよくわかる。
現在、「正社員」「派遣社員」の待遇・給与格差が社会問題となっているが、「正社員」として同じ会社で同じような仕事をしていても、「プロパー採用」と言われるように、新卒で採用された社員なのか中途採用なのか、本社採用なのか支店採用なのか、親会社採用なのか子会社採用なのかによっても、給与や待遇、昇進スピードはまったく違う。
政府は、「同一労働・同一賃金」を掲げているが、決して「同一労働・同一待遇」ではない。公務員でも、「キャリアか、ノンキャリアか」で、その後の昇進や待遇が全く違うことはよく知られている。

これに対して、介護業界は、企業規模と介護職員の給与には差はみられない。
これは当然のことで、全国展開をしている大手企業のデイサービスでも、個人経営に近い単独デイサービスでも介護報酬は同じだからだ。
介護の給与を決めるのは、事業種別と資格だ。
特養ホームや老健施設の平均給与が、訪問介護や通所介護よりも高いのは夜勤手当が加算されているからだ。夜勤をしなければ、訪問介護や通所介護と同程度の給与水準になるだろう。

また、特養ホームや老健施設、通所介護の介護スタッフで働くのに資格は必要ないが、同じ仕事をしても無資格者と有資格者の給与は、月額7万円~8万円違いがあることがわかる。
介護福祉士や社会福祉士は国家資格であり、手当の加算を行っているところも多い。また、介護支援専門員は国家資格ではないが、この資格がないとケアマネジャーの仕事を行うことができない業務独占の資格であるため、最も給与は高くなっている。
介護のプロとして働くためには、少なくとも「国家資格」+「介護支援専門員」は必須だといえる。

介護の給与は本当に低いのか

ここまで、二回渡って、現在の一般産業と介護業界の給与の違い、その特徴について述べてきた。
その全体像とその特徴について、まとめておこう。

【一般産業の給与の特徴】
◆ 男性給与は、年功序列によって上昇し、50代前半では20代前半の初任給の二倍以上
◆ 男性と比較すると女性の給与の上昇率は低く、40代、50代では男性の2/3程度
◆ 大企業と比較すると小企業の給与の上昇率は低く、40代・50代では大企業の70%程度
◆ 大卒と比較すると、高卒の給与の上昇率は低く、40代、50代では大卒の2/3程度
◆ 産業別に見ると金融・保険、情報通信などは高く、宿泊・飲食・サービス業は低い。

一般の産業の給与は、男女差、企業規模差、産業差、学歴差が大きいということだ。
少し嫌な言い方をすれば、これまでの年功序列、終身雇用の時代は、入職したスタートの時点で、その企業規模、学歴、性差、雇用体系によって、普通列車か、急行列車か、ある程度、給与上昇、待遇のルートは、ほぼ決まっていたということだ。
介護スタッフの中には、「40代・男性で介護従事者は給与が100万円以上安い」と不満を言う人がいるが、それは、あくまで「現在の給与水準」の話であって、また「40代、大卒、大企業、プロパー入社」に限られる。これから大学や大学院を卒業して、「どの産業に行こうか」という人には一考の余地はあるが、それ以外の人には当てはまる話ではない。
現在、介護の給与は一般の産業と比較して低いことは事実だが、「じゃあ、他の産業に転職します」といって転職しても、介護の給与よりも100万円以上高い給与になるということは、まずない。
30代、40代で転職すると、介護給与の水準かそれ以下だろう。

ただ、これは「いままで・・」の話である。
超巨大優良企業のトヨタでさえ、終身雇用は無理だと言っているのだ。
今後は、成果主義・実力主義により競争がより厳しくなるため、大企業においても、採用時に特急列車に乗っていたからと言って遠くまで行けるわけではない。すでに大手有名メーカーでは、採用においても昇進においても、一流大学か否かはあまり重要視されなくなっており、学歴差、男女差も小さくなっていくだろう。能力の高い労働者にとってはチャンスが広がると言えるが、同時に産業や職種によって、給与・待遇は二極化していくと考えられている。

【介護従事者の給与の特徴】
◆ 男性給与と女性給与に大きな差はない
◆ 企業規模や学歴が給与の上昇率や待遇に影響しない。
◆ 事業種別、保有資格によって、給与は変化する。
◆ 一般産業と比較すると勤続年数・管理職になっても給与は大きく上がらない

これに対して介護従事者の給与は、「一般の産業よりも低い」ということばかりが注目されるが、その特性は一般産業と正反対に位置するといって良い。
性別、企業規模、学歴などが、給与や待遇にはほとんど関係せず、「大卒だから」と管理職になれるわけではない。「専門職種」であるため、年齢・性別を問わず、大卒の無資格者よりも、高卒の介護福祉士の方が給与は高い。
そのため、介護福祉士・介護支援専門員などの資格を持っていれば、男女ともに20代では一般産業の平均よりも給与は高く、年代別の平均年収も「女性限定」「中小企業限定」「中途採用」であれば、同等かそれ以上になる。「40代・男性で介護従事者は給与が100万円以上安い」というのは、間違いではないが、正しいわけでもないのだ。

介護従事者の育成に向けて動き出す

特養ホームや老健施設などでは夜勤手当も含まれているため、一律に比較はできない。
加えて、 高齢者介護は 「要介護高齢者のお世話」ではない 🔗 で述べたように、介護の専門性やリスクの高さを鑑みれば、決して、介護従事者の給与は十分なものだとは言えない。
中でも、介護従事者の給与・待遇の最大の課題は何かと言えば、「10年以上働いても、管理者になっても、あまり給与が上がらない・・」ということだ。

事業者から見ても、「新人職員」と「10年選手」では、給与水準に差をつけなければならないが、介護報酬は変わらないため、給与を上げるとそれだけ収益が減少する。「介護スタッフは新卒で入ってもらって、4~5年で辞めてもらうのが一番効率的」などという経営者もいるが、それでは経験値や技術、知識、ノウハウが蓄積されていかない。
「介護従事者の生活設計」「介護経営の安定」「介護専門性の向上」のどの視点から見ても、現在の介護報酬設定には課題が大きい。

この問題に対して、厚労省は昨年末(2018年12月26日)、2019年10月に実施する介護報酬改定に関する審議報告をまとめ、「勤続10年以上の介護福祉士」など経験・技能のある職員を対象とした加算が行われることになった。これが正常に機能すれば、介護給与の最大の課題である「長く勤務しても、管理者になっても給与が上がらない」という課題を改善することができる。

ただ、その報酬加算をどのように給与・待遇に反映させていくのかは、各事業者が決めていくことになる。長く働けば給与が上がるという単純な話ではない。
ただ、確実に言えることは、介護スタッフが、長く安心して働き続けられる労働環境や給与体系を整備できない事業者は、サービスも経営も安定せずに、潰れていくということだ。

これは一般の産業でも共通することだが、「介護の仕事は〇〇だ」ではなく、「どのような企業・事業所で働くのか」によって、その未来は全く変わってくるということだ。
今後、介護給与の格差は、今よりも大きく開いていくことになる。



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