RISK-MANAGE

事業者の過失・責任が問われる介護事故を整理する


事業者が、介護事故の責任を問われるのは「介護中の事故」、介護サービスに関わる事故だけではなく、またその対象は要介護高齢者だけではない。介護事故は複合的な要因で発生するが、一つでも原因となる過失があれば、事業者の過失・責任を問われることになる。

管理者・リーダー向け 連載  『介護事業の成否を決めるリスクマネジメント』 051


介護事故対策の基礎は、どのような介護事故で、どのようなケースで事業者やスタッフの法的責任が問われるのかを、正確に理解することです。それは、「事故を減らすために何をすべきか…」「事業者が責任を問われないためには何をすべきか…」という単純な話ではなく、一緒に働いているスタッフや事業経営を介護事故のトラブルから守るという視点が必要です。
ここまでの議論をもとに、事業種別や介護類型を問わず高齢者住宅で、事業者の責任が問われる可能性のある介護事故について整理します。



① 介護看護スタッフの介助中の事故
まず一つは、介助中の介護スタッフのミスによる転倒や転落などの事故です。
「歩行介助中に転倒」「入浴中、目を離したすきに溺水」「車いす移動移乗時に、入居者がふらついて一緒に転倒」など、イメージできる事故はたくさんあるでしょう。介護スタッフの送迎サービス中の事故もこれに含まれます。直接介助中の事故だけでなく、「入居者のベッド柵を忘れたために転落」「決まった場所にポータブルトイレを置かなかったために転倒」といった、スタッフの行為・ミスが原因となって発生した事故も含まれます。

「直接介助中に予期しない動き(暴れるなど)を入居者がしたため転倒した」するというケースもありますが、よほど特殊な事例ではない限り、直接介助中に発生した事故であれば、その責任を免れることはできません。

② 適切な初期対応を怠ったために拡大した介護事故
二つ目は、事故発生時や急変時の初期対応が不十分なために、その被害や状態が悪化するケースです。
介護事故の安全配慮義務は、発生予防だけでなく、拡大予防にもかかってきます。
例えば、夜間にトイレ内で転倒していたのを発見、「多分大丈夫だろう…」と安易にそのままベッドに寝かせたが、翌日、脳出血・脳挫傷などで亡くなっていたというケースや、食事中に窒息の兆候があったのに救命措置、救急車の手配が遅れ亡くなられたケースは、事業者の責任が問われます。
要介護高齢者でなくても、「頭が痛い」「胸が痛い」などの訴え、コールがあった場合の対応の遅れも同様です。

③ 介護マニュアル違反で発生した介護事故
三つ目は、事業所で定めた介護看護マニュアルに違反したために発生した事故です。
例えば、マニュアルでは、「食事中は誤嚥、窒息のリスクが高いため、必ず一人以上のスタッフが常駐して全体を見守ること」というマニュアルになっていたのに、みんな介助が必要なく一人で食べられるため大丈夫だろうと判断し、事務所に帰って他の仕事をしている間に、窒息、死亡したといったケースが当てはまります。

これは要介護高齢者に対する介護サービスだけでなく、安否確認や生活相談も同じです。
最近は、サ高住でも「安否確認」のマニュアルをつくっていますが、入居者からのコールに対して、「あの人はどうでも良いことでコールが多い」と適切な確認を行っておらず、結果、入居者が死亡した場合、債務不履行による民事責任だけでなく、業務上過失致死に問われます。

介護付有料老人ホームや介護保険施設の業務マニュアルを見ると、「本当にこんなことしてるの?」「実際に可能なの?」というものも少なくありませんが、実現不可能な荒唐無稽なものであっても、事業者が定めた業務マニュアルですから、これに違反して事故が発生すると、「決められたことをやっていない、契約不履行」となります。

④ ケアプラン通りに行わなかったために発生した介護事故
四つ目は、ケアプランや援助計画で定めたサービスを行わなかったために発生した事故です。ケアプランは、要介護高齢者・家族に対して「このような介護サービスを提供します」という契約です。例えば、「入浴中は転倒のリスクが高いのでシャワーキャリーに乗ってもらうこと」という指示が出ていたにもかかわらず、本人が大丈夫だと言ったので歩いて転倒したという場合は、介護スタッフの過失が問われます。

「ふらつきがあるので、歩行時は安全確認・見守りを行う」などというケアプランもありますが、その場合、その高齢者が歩くときは必ず付添い、見守りが必要となります。実質的に不可能なケアプランであっても、ケアプランは契約ですから、転倒・骨折すれば契約不履行が問われます。

また、最近サービス付き高齢者向け住宅などで、ケアプランに示された週間行動計画表に示された介護時間、介助内容通りに、サービス提供されていないというケースが増えていますが、万一、その中で事故が発生すれば、事業者にも、またホームヘルパー個人にも、民事だけでなく、刑事、行政を含めた厳しい責任が追及されることになります。

⑤ 連絡・連携不備によって発生した介護事故
5つ目は、連絡不備・連携不備による事故です。
食事内容の変更、薬の変更・中止、介助方法の見直しなど個別の利用者、入居者等に対するサービスの見直しや、介護マニュアルなど全体の介助方法の修正が、伝わっていないために発生した事故も、介護ミスのひとつです。ケアプランの変更、診察で薬が変更になったなど、「知らなかった・聞いていない」という話をよく耳にしますが、それによって事故が発生すれば、事業者の責任です。

⑥ ケアプランの不備によって発生した介護事故
【r49 介護事故 ケアマネジメントの法的責任🔗】 で述べたように、ケアマネジメント上の責任も軽くはありません。アセスメントやモニタリングで、歩行時のふらつきによる転倒の危険性が顕著であったにもかかわらず、センサーマットなどの転倒防止策や骨折しないようにマットを準備するなどの必要な対策が行われていない場合、結果回避義務を怠ったということになります。

最近、住宅型有料老人ホームやサ高住などで、5人の要介護高齢者に対して、三人のスタッフで入浴対応しているところがあり、「複数の高齢者に対する介助は介護報酬で認められている」などと抗弁する人がいます。しかし、それはケアマネジャーが適切で安全な介助方法だと認めているということが大前提です。入浴は溺水や転倒などリスクの高い介助ですから、「通常のマンツーマン介助をなぜ変更したのか・・・」という明確な理由が必要になります。
「介護スタッフ配置ありき」で不適切、危険なケアプランを作成し、その中で入居者が亡くなった場合、ケアマネジャーは契約不履行だけでなく、業務上過失致死に問われることになります。

⑦ 適切な相談対応をしなかったために発生した介護事故
7つ目は、生活相談サービスに適切に対応しなかったために発生した事故です。
介護事故は介護サービスだけでなく、日々の相談に対して、適切に対応していなかったために発生した事故も、責任が問われます。
「他の利用者とのトラブルについて、何度も相談を受けていたのに対応しなかった」「他の入居者からのいじめや暴力で困っていることが明らかなのに、それを放置して事故が発生した」といった場合、事業者の責任が問われます。それは介護事故だけでなく、「決められた場所以外で喫煙をする」「部屋の中で寝たばこの焦げがある」と言った場合に、適切な対応を行わず火災が発生し、他の入居者が亡くなった場合も、民事だけでなく、刑事罰(業務上過失致死)に問われることになります。

⑧ 適切な安否確認を行なわなかったために発生した介護事故
8つ目は安否確認サービスの不備にかかる事故です。
要介護高齢者でなくても、サービス付き高齢者向け住宅で、安否確認や状況把握の頻度や内容を決めていたにもかかわらず、それを適切に行わなかったために発生した事故も、契約不履行を問われます。これは「契約の通りにしていればよい・・」というものではなく、日々の生活の中で「予見可能性があった事故」についても、問われることになりますし、確認時の対応が不十分で被害(怪我や病状)が悪化した場合の責任も含まれます。

⑨ 建物設備備品が原因で発生した介護事故
最後は、建物・設備・備品が原因で発生する事故です。メンテナンス不足によって、特別浴槽の転落防止柵が外れ、入浴介助中に入居者が転落、死亡するという事故が発生しています。その他、「床がぬれていたために転倒、骨折」「配送されたオムツの箱が邪魔になって転倒」など、建物設備備品が事故・怪我の原因となっているケースは少なくありません。事業者は、高齢者が安全に生活できる環境を整える義務がありますから、その不備は、安全配慮義務違反ということになります。



以上、事業者の責任が問われる介護事故について、9つのケースを挙げました。
一般的に「介助ミス」というと、①、または②をイメージする人が多いと思いますが、こうして整理すると、直接介助中に発生した介護事故だけではないということ、介護サービスに属するものだけではないということ、またその対象は要介護高齢者だけではないということがわかります。

実際の責任の所在は、すべてのサービスを一つの事業所で行っている介護保険施設や介護付有料老人ホーム等と、複数の事業所が連携してサービス提供しているサービス付き高齢者向け住宅などによって、その当事者は変わってきます。
ただ、このように整理すると、サ高住と介護付有料老人ホームで、事業者の問われる「介護事故」の違いは①だけで、それ以外は全く同じだということがわかるでしょう。

実際の介護事故は、単独ではなく、複合的な理由で発生し、事業者の責任と事業者の責任でないものが合わさります。ただ、一つでも原因となるものがあれば、事業者の責任はゼロにはなりません。「車いすのブレーキをかけ忘れたのも原因だけど、Aさんがふらつかなかったら転倒しなかったはず・・・」 という言い訳は通じないのです。


「責任とはなにか」 介護事故の法的責任を徹底理解する 

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