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介護のプロに「資格」が必要不可欠である2つの理由


介護の仕事は、業務独占の医師や看護師とは違い「資格がないと介護業務ができない」というものではなく「介護や福祉は資格ではなく実務・経験だ」という声は根強く残っている。介護のプロになるためになぜ資格が必要なのか…我流の介護はなぜ評価されないのか…を理解する。

介護スタッフ向け 連 載 『市場価値の高い介護のプロになりたい人へ』 019


介護の仕事は、業務独占の医師や看護師とは違い、「資格がないと介護業務ができない」というものではない。 訪問介護サービス事業所で、ホームヘルパーとして働くには、介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)、介護福祉士などの資格が必要となるが、介護保険施設や介護付有料老人ホーム、デイサービスなどで介護スタッフとして働くことは可能だ。
実際に、現場で働く老人ホームの施設長や介護部長と話をしていても、「介護や福祉は資格ではなく経験だ」「資格試験と実際の介護業務は違う」という声は、介護現場で今なお根強く残っている。

しかし、介護の仕事に資格が必要ないというわけではない。また「何か一つでも資格を持っていればよい」というものでもない。まずは介護のプロにとって、「資格とは何か」から考える。


介護のプロにとって「資格」とは何なのか

「資格は関係ない…」という人の論調は、「仕事の優劣は学歴と関係ない」というのとよく似ている。「高学歴だから仕事できるわけではない…」「有資格者だから優秀だというわけではない…」という点では共通しており、もちろんそれは正しい。専門学校を卒業したばかりの介護福祉士よりも、気働きのできる無資格・未経験の主婦パートの方がよほど戦力になるというのは、この業界では往々にしてあることだ。
ただ、この「学歴」と「資格」は、介護業界においては市場価値・評価のベクトルが正反対であること理解しなければならない。

学歴というのは、「学生時代にきちんと勉強した」という努力の結果であり、仕事の知識・技能の基準ではない。経済学部や経営学部で学んだからと言って、それが実社会で役立つことはない。
それでも「高学歴」「有名大学」を目指す人が多かったのは、年功序列・終身雇用の時代は、「高学歴=企業内評価UP=給与UP」だったからだ。
しかし、労働評価が、「年功序列」から「企業評価」に移るにつれ、大手企業においても「学歴の価値」は極端に小さくなっている。これからの「市場価値(市場評価)」の時代においては、すべての産業において、「大卒・高卒」「大学ランク」による評価は、更に小さくなっていくだろう。

これに対して、介護は医療や看護と同じ専門職種であり、資格は介護業務の知識・技術を持つという、業務に直結する公的な証明書である。同様に「資格者は仕事ができる」「上位資格者の方が優秀」というわけではないが、介護職員初任者研修修了者(旧ホームヘルパー二級)よりも、その上位資格である介護福祉士の有資格者の発言力は強く、ケアマネジャーよりも主任ケアマネジャーの方が信頼される業界だ。年齢や学歴、性別、介護の経験年数ではなく、どれだけ仕事ができても「資格がなければ評価対象から外れる業界」だといっても過言ではない。

加えて注目すべきは、現在の介護業界において、介護福祉士など国家資格の評価は急上昇しているということだ。その背景には、これまでの「家族介護の代替サービス」から「科学的・専門的サービス」へと変貌していることや、介護の仕事を行っていない「潜在介護福祉士」の掘り起こしなど、いくつかの理由がある。介護報酬においても、「処遇改善加算」では事業所内の「介護福祉士の資格率」が報酬加算の対象となり、「特定処遇改善加算」では、「経験・技能のある介護福祉士」の給与の差別化に向けて加算が行われる予定だ。

介護職員初任者研修修了者で介護主任をしていたという仕事ができるベテラン介護士であっても、転職すると新人の介護福祉士の方が給与、待遇も評価も高くなる。「介護福祉士の虐待事件」が多発している現状を見ると、ご意見やご不満もあるだろうが、「専門職種の業界とはそういうもの」と理解するしかない。


「我流の介護」はなぜ評価されないのか

もう一つは、資格取得は、その専門職として必要な技術、知識を効率的に取得でき、効果的にステップアップできる手段だということだ。
「介護や福祉は実務経験が重要だ」という意見を否定するつもりはない。医療は疾病・ケガの治癒を対象とするのに対し、介護は生活の改善を対象としている。「インフルエンザには、この薬」というものではなく、同じような要介護状態の高齢者であっても、一人一人必要なケア、介助方法は違ってくる。様々な事例、ケースを実際に経験することは介護の領域ではとても重要で、教科書通りではなく臨機応変の対応を求められることも少なくない。ベテランの介護スタッフの中には、「これまでこの事業所はこの方法で上手くやってきた」「この事業所のルールがある」と頑なに変革を好まない人もいる。

ただ、厳しいようだが「我流の介護」は、専門性の低い、独善的な個人の経験でしかない。
ある利用者に対して行った、間違った対応や介助方法が、たまたま上手くいったため、それが正しい方法だと勘違いしてしまっているケースも多い。

例えば、利用者や入居者を、「○○ちゃん、元気にしてる?」「体調はどう?」などと友達のように話す介護スタッフがいる。これまでの経験の中で、フレンドリーな対応を喜ぶ人がいたのかもしれないし、「あまり丁寧な言葉で話すと、利用者と距離ができる」という人もいる。
しかし、その友達のようなラフな口調を、気持ちよく聞いている人ばかりではない。口に出さなくても、その利用者の息子や娘などの家族は不愉快に思っている人は多いだろう。そもそも、日本語は「丁寧に話すと距離ができる」というほど底の浅いものではない。人生の大先輩に対して、尊敬の念をもって丁寧に話をしていても、気持ちの良い、優しいコミュニケーションをとることは十分に可能だ。それができないのは「我流の介護」「自己評価」に囚われて、「専門的な介護」の視点が欠けているからだ。

介護の勉強を重ねていけば、「高齢者は人生の先輩だから丁寧に話せ」といった単純な話ではなく、信頼関係の醸成のために必要な視点、コミュニケーションとは何か、相談援助技術(ケースワーク)、バイスティックの7原則など、高齢者や家族に対する言葉遣い、傾聴、声掛け一つにも、知識や技術が必要ことがわかってくる。資格は、あなた一人ではなく、これまで数千人、数万人が蓄積した失敗や経験から、重要な知識・技術を抜粋し、そのノウハウを集約し体系的にしたものだ。資格取得は、その先人たちの知恵を最も効率的、効果的に得ることができる最短・最適な方法なのだ。

これは、プロは勉強しつづけなければならないという理由でもある。
介護の知識・技術は、どんどん進化している。コミュニケーションの方法についても、ユマニチュードなど、視線の合わせ方、話し方、触れ方などを含めた新しい手法・技術が取り入れられるようになっており、「自分のコミュニケーション方法は正しいのか」「混乱している認知症高齢者にはどのように対応すればよいのか」と日々の業務・サービスを、客観的に見直すきっかけにもなる。
介護の資格は、「持っていればよい」というものではなく、プロになるための土台であり、スタートラインだといって良いだろう。




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