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仕事の未来② 「IT+AI+ロボット」にも、脅かされない仕事とは


AIやロボットの進化が、多くの産業・業態で、私たちの仕事を代替する、それまでのプロフェッショナルな知識・技術の市場価値を下げるということは事実だが、「今ある仕事のほとんどが、それらにとって代わられる」「技術・知識・ノウハウが奪われる」と言う単純なものでもない。人間にしかできない仕事とは

介護スタッフ向け 連 載 『市場価値の高い介護のプロになりたい人へ』 005


人工知能(AI)の技術革新、進化の事例として、よく取り上げられるのが将棋だろう。
人間とコンピューターの対決で、2000年代は人間が勝つことが多かったが、2010年以降はコンピューターの勝率が9割を超えている。注目された2017年の対決でも佐藤天彦名人に二連勝しており、チェスに続き、将棋の世界でもコンピューターはすでに人間を超えていると言ってもよいだろう。

確かにそれは、人工知能の進化を示す一つの事例ではある。
ただ将棋は、人間様々な駆け引きをおこないながら、気力・知力をもって対決するものである。あっと驚くような「妙手」だけでなく、素人も指さないような「悪手」、うっかりミスの「ポカ」「頓死」も含めて見ているのが面白く、「師弟対決」「背水の陣」などそのドラマが感動を呼ぶのであって、「コンピュータ―に負ければプロ棋士の仕事がなくなる」という話ではない。

AIやロボットの進化が、多くの産業・業態で、私たちの仕事を代替する、それまでのプロフェッショナルな知識・技術の市場価値を下げるということは事実だが、「今ある仕事のほとんどが、それらにとって代わられる」というものではないし、単純に分類できるというものでもない。


AI・IT・ロボットでは代替できない仕事

仕事の未来① 「IT+AI+ロボット」によって、脅かされる仕事の価値 🔗 において、オズボーン准教授、野村総研の予測した、技術革新によってAI、ITなどに代替される仕事について整理したが、この報告書では、ITやロボット、AIでは代替することの難しい仕事(人間にしかできない仕事)も挙げている。
これも、分類・整理によって、いくつかの特徴が見えてくる。


① 人間がやることに意味のある仕事

冒頭で、将棋の例を挙げたが、これはスポーツや芸術についても同じことが言える。
人間と同じように、二足歩行のロボットが開発されているが、それが100m競争でウサイン・ボルトの世界記録を上回ったとしても、また、将来、より高度な戦術を理解したロボットばかりのサッカーチームができ、それがバルセロナを破ったとしても、陸上選手やサッカー選手がいなくなるわけではない。

ピアノやバイオリンのクラシックの演奏、俳優や歌手などの仕事でも同じことが言える。
現在、コンピューターグラフィックスなど特殊撮影技術が進化しており、SF映画などで効果を上げている。アバターのような3Dアニメーションの映画やアイドル歌手も誕生しており、将来的には、実写と変わらないグラフィックスの映画やドラマも作られるだろう。
しかし、それらは、あくまでもアニメーションの一種である。AIが独立して人間の感情や心の機微に関わるような演技ができるとは思えないし、それによって俳優や歌手の仕事がなくなるとも思えない。
名人芸と呼ばれるような漫才の掛け合いや古典落語を行うロボットが登場すれば、「すごいなぁ…」と感心するだろうが、それで大笑いするということはないだろう。
人間がやるからこそ、意味や感動があるものは多い。


② デザイン・芸術など創造性の高い仕事

デザインも、人間にしかできない作業の一つだと言われている。
私たちの周りには、衣服、家具、家電などを含め、これまで人間によってデザインされてきた商品に溢れている。デザインと言えば、ファッションのトレンドをイメージする人が多く、「デザイナーの仕事もAIに取って代わられる」と言う人もいるが、そう単純な話でも、また狭い範囲の話ではない。

デザインとは、「有意性」と「実用性」の組み合わせである。ファッションや家具といった形状だけでなく、スマートホン、癒しロボットのようにこの世になかった新しい商品を生み出すのもデザインである。
IT、AIやロボットなどの技術革新もデザインであり、それを組み合わせてフェイスブックやインスタグラムなど、世の中を変革する新しい商品、ビジネスモデルを生み出すのもデザインなのである。

今でも、新商品のアイデア発掘だけであれば、AIにもできるだろう。
しかし、それを統合して、調和させ、世の中を変える製品・サービスとして開発していくことはできない。 AIやIT、ロボットは、生活を豊かにする、便利にする手助けはしてくれるが、革新的な変革、社会をデザインすることは人間しかできない。

これは作曲家や小説家、画家などの芸術性の高い仕事も同じことが言える。
デザイン性の高い仕事であるということと同時に、人間がやることに意味がある仕事だからだ。
AIに作曲や作詞を行わせるような取り組みが始まっている。
ただ、AIがこれまでのベストセラーとなった小説を詳細に分析して、それに対する人間の感情を予測して壮大な物語を作れば、一定のラインに到達するものができるだろうが、同時に「どこかで聞いたような話…」になるだろう。また、シャガールやゴッホといった画家の筆のタッチをAIに完全に覚え込ませて、未完成の大作に挑ませることはできるだろうが、それは、あくまでも模造品であり、芸術作品として認められるか、高額な商品として取引されるかと言えば、そうではないだろう。
AIの進化を図るための取り組みとしては面白いが、それで作家や画家の仕事がなくなるわけではない。


③ 人間同士の共感に基づく仕事

三つ目は、介護や看護、教育など、人間同士の共感に基づく仕事だ。
介護や看護、医療は、それぞれ介護や看護、医療の知識・技術に基づく、高度に専門的な仕事であるが、同時に人間と人間との共感に基づく仕事である。要介護高齢者や患者からの不安や痛み、苦しみを丁寧に傾聴し、それを受け入れ、共感、判断し、その上で専門的な見地から対応することが求められる。

教育関係も同じことが言える。一人ひとりの子供の興味、習熟度に合わせて教え方を変えることや、人間関係や倫理、良いこと悪いことを理解させることは人間にしかできない。
教育は決して、教師から生徒に対して、一方通行で行われるものではなく、その前提となるのは、それぞれの子供の性格や自我、理解への共感である。特に、幼児教育や小学校などの初等教育については、必ず人間の教師やカウンセラーが必要になる。

視点は違うが美容師・理容師も共感が求められる。
美容師は、高い指先の技術が求められる創造性の高い仕事であると同時に、それぞれの顧客の美意識や好みに合わせて要望を聞き、プロとしての知見を提案し、コミュニケーションを取りながら仕上げていく仕事である。細かなこだわり、美意識を持つ人に「アイドルの〇〇さんのような髪型に」と言われても、髪の形、髪の毛の質、生え方もそれぞれに違うため、カットロボットが応えられるわけではない。

その他、カウンセラーやセラピスト、スポーツトレーナーなども、「専門性高い知識・技術」+「共感をベースにした提案、支援」の仕事である。
このように、どれだけAIやロボットの技術が進化しても、人間がやることに意味がある仕事、人間にしかできない仕事は、たくさんあるのだ。





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