「囲い込み」は何が問題なのか

「囲い込み」は介護保険制度の根幹に関わる重大な不正


介護保険制度に基づく介護サービスは、「要介護高齢者個人の生活の視点に立った個別ケア」が大原則であり、ケアマネジメントの否定は、専門的介護の否定である。誰が何といおうと、ケアマネジメントの中立性が第三者である経営者・事業者に歪められた時点で、「囲い込み」は介護保険制度の根幹に関わる重大な不正

高齢者住宅の「囲い込み」とは何か、何が問題なのか 04 (全9回)


超高齢社会に向けて、高齢者住宅の整備が必要であることは言うまでもない。
しかしそれは、素人事業者でも、劣悪な商品・サービスでも、とりあえず「高齢者住宅と名のついたもの」を数だけ増やせばよいというものではない。
特に、現在のサ高住を見ると、「囲い込み」という不正に介護費・医療費を搾取つづける不良債権を、わざわざ数千万円単位の補助金支出をして育成しているようなものだといって良い。

この問題を指摘すると、一部の事業者、識者などから「囲い込み自体は、不正ではない」「現行法に基づいて適切に報酬算定している」と反論が寄せられる。 また、日経新聞の記事を含め、問題の本質は、介護サービスの内容ではなく「制度矛盾による介護財政悪化要因」と捉えている人も少なくない。
しかし、それはどちらも間違っている。


ケアマネジメントは、専門的介護・科学的介護の基礎

長い間、高齢者介護は、自宅で家族から介護が受けられない高齢者の福祉施策として行われていた。
いわば「家族から介護が受けられない人のための代行」というもので、施設側のスケジュールに従って、決められた時間通りに、一斉排泄介助、一斉入浴介助という集団で介護を行うシステムを取っていた。
今でもそういうイメージでとらえている人もいるだろう。

しかし、このような個人の要介護状態や生活リズム、生活ニーズを無視した「集団介護・集団ケア」では、高齢者は生活意欲を失い、認知症の発症原因にもなるとも指摘されるようになった。その結果、平成12年の介護保険導入の理念として「自立支援の介助」が掲げられ、「家族の代わりの介護」から「専門的・科学的な介護」へ、「集団ケア」から「個別ケア」へという高齢者介護の大変革が行われた。

この個別ケア、介護の専門性の基礎となるのが「ケアマネジメント」だ。
簡単に、ケアマネジメントの流れを整理したのが次の図だ。
自宅で転倒・骨折し入院したAさんが、退院後、老人ホームに入居する場合の排泄介助を例に考える。


まず、現在、病院でどのような排泄介助、排泄方法を行っているのかを確認し、本人の希望や不安、身体機能や尿意、便意の有無、転倒のリスクなどから、最適な排泄方法を探っていく(アセスメント)
その上で、「病院ではオムツ排泄だったが、尿意や便意はあるのでトイレでの自立排泄を支援しよう」「失敗を減らすため排泄の間隔を把握し、事前に声掛けをしよう」「間に合わない時があるのでリハビリパンツをはいてもらおう」と言った、目標、計画を立てる(ケアプラン原案の作成)
その原案をもとに、家族や本人の意見を聞きながら、介護看護などスタッフで、排泄介助の方法や注意点を共有し、排泄時の転倒などのリスクについても検討する(ケアカンファレンス)
ケアカンファレンスで合意した内容をもとに、各種サービスが提供されるが、適切に介護が行われているか、目的がどの程度達成されているか、新しい課題が発生していないか、というモニタリング・見直しが定期的に、また必要に応じて随時行われる。

このケアマネジメントを介護保険で定められた書類にまとめたものがケアプランであり、それを中心となって行う専門職種がケアマネジャーだ。
ケアプランとは、「訪問介護」「通所介護」や「排泄介助」「食事介助」などの介護スケジュールを機械的に当てはめたものではなく、個々の要介護高齢者の要介護状態や生活希望に基づいて、どのように介助・ケアを行っていくのかを示す設計図である。
これは、特定施設入居者生活介護(介護付)でも区分支給限度額方式(住宅型・サ高住)でも同じだ。

例えば、どうすれば快適な排せつができるか、安全に排泄できるかは一人一人違う。
身長や右麻痺、左麻痺によっても、ベッドの高さや向き、トイレまでの動線、必要な手すりの形状、位置は変わってくる。それが適切なものでなければ、転倒や転落による骨折事故にもつながる。また、排泄時にはその量や色などから日々の健康状態をチェックし、「排便が3日以上ない」と言った場合には看護師や医師に連絡を行う。更には、睡眠を妨害しない夜間の排泄方法、ふらつきなど薬の副作用、要介護状態の変化などのモニタリング、方法の見直しも必要となる。

「入浴が一人でできないから助けてくれる人が欲しい」というだけであれば、専門的、科学的な知識は必要ない。ただ、個々の要介護状態に合わせた適切な介助方法の検討、事故リスクの軽減までを含めた質の高い介護を行うためには、介護技術だけでなく、高齢者の身体機能や認知症などの知識、声掛けのコミュニケーション技術、更には食事や栄養、感染症や食中毒、福祉機器や生活環境、事故リスクなど、生活全般に関わる高い専門性が求められる。
ケアマネジメントは その専門性を担保するための土台であり、介護保険制度の基礎である。その検討・策定・参画・順守は、全ての介護サービス事業者の法的義務であり、ケアマネジメントなくして介護サービスはない。


ケアマネジメントの不正は、専門的介護・科学的介護の否定

この「囲い込み」の問題は、「グレーゾーンか否か」「どこまで許されるか」と言った話ではない。
もちろん、「併設サービスを利用させる」「同一法人のサービスを利用させる」ということ自体が違法ではなく、サ高住だから、自立高齢者しか入居させてはいけないということでもない。
問題は、介護保険制度の基礎であるケアマネジメントの専門性・中立性が、高齢者住宅事業者、介護サービス事業者に、経営的側面から阻害されているということだ。

一部の事業者は、「契約に基づいて介護サービスを提供している」「本人・家族からも同意を得ている」と言い訳をするが、だから介護保険法上、問題ないというのは大間違いだ。アセスメントを基礎とした適切なケアマネジメントが行われていない時点で、まったく根拠のない、専門性のない介護・看護サービスを行っているということであり、それは介護保険の根幹に関わる不法行為なのだ。


それが、どれほど重大な不正・不法行為なのか、医療保険と比較するとわかる。
ガンの治療法には、「手術療法」「化学(薬物)療法」「放射線療法」の3種類があり、これに加えて今後はノーベル賞で有名になった「免疫療法」も増えていくと予測されている。
どの治療法を選択するのかは、患者本人である。
しかし、患者や家族は専門的な知識に乏しいため、医師が、検査によってそのガンの種類や状態、部位、進行度合いを診断し、本人や家族の希望を聞きながら、最適な治療方法をアドバイスし、治療計画を立てていく。もちろん、医師の経験によって知識や技術レベルに差があるだろうが、少なくとも専門的な知識や技術、臨床的な経験に基づいて診断が行われ、治療方針が示されていると信じているだろう。

しかし、検査データや診察内容、進行度合い、患者の容態を無視し、「放射線の高い機械を買ったから、がん患者は全員放射線治療をさせろ」という経営者の指示に基づいて、治療計画や家族への説明が行われていたとすればどうだろう。医師という信頼を楯に、専門的・科学的根拠のない、営利目的の治療を行っていたとすれば、それは倫理的に問題があるというレベルの話ではなく、犯罪的な不法行為だと言えないだろうか。「囲い込みは不正ではない」「介護報酬の不正請求はしていない」という人は多いが、上記のような押し売り医療で「放射線治療はしており、不正ではない」「診療報酬請求上は問題ない」「家族や患者にも説明している」という医師の意見は間違っていないと理解されるだろうか。

もう一度、繰り返す。
介護保険制度に基づく介護サービスの提供は、「要介護高齢者の生活の視点に立った介護」が大原則であり、ケアマネジメントの否定は、専門的介護・科学的介護の否定である。ケアマネジメントの中立性が第三者である経営者・事業者に否定された時点で、それは介護保険制度の根幹に関わる不正である。

合わせて言えば、これが看護師と比べて介護労働者の社会的地位が上がらない理由である。
介護サービス業界は、「介護報酬のアップ」を厚労省に求めているが、それは「排泄介助、入浴介助など大変な仕事だから」ではない。歳をとって要介護状態になった時に、「時間通りオムツ交換したのであとは知らない」といった集団介助、素人介護で良いのか、述べたような本人の要介護状態や生活ニーズにそった専門的・科学的な個別ケアを受けたいのかを決めるものだからだ。
財政的に厳しいことは十分にわかっているが、要介護高齢者になった時に、後者の生活、プロの介護を望むのであれば、その専門性に見合った介護報酬を求めているにすぎない。

しかし、その専門性を真っ向から否定しているのは、「介護報酬を上げろ」と言っている介護経営者であり、そこで働く介護スタッフ、ケアマネジャーであり、この問題を放置している介護業界、高齢者住宅業界である。言行不一致であることに、そろそろ気付くべきだろう。
厳しいようだが、どれだけ頑張っていると訴えても、不正なケアマネジメントが横行している現在の介護業界に、「介護の専門性を評価しろ」「介護報酬を上げてほしい」などという権利などない。


「知っておきたい」 高齢者住宅の「囲い込み」の現状とリスク

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  ⇒ なぜ、低価格のサ高住は「囲い込み」を行うのか 🔗
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【TOPIX】 キーワードを切り取る、超高齢社会を読み解く

  ☞ 地域包括ケアは超高齢社会を救う「魔法の呪文」ではない (全8回)
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  ☞ 高齢者住宅の「囲い込み」とは何か、グレーかブラックか (全9回)
  ☞ 老人ホーム崩壊の引き金 入居一時金経営の課題とリスク (更新中)




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