ユニット型特養ホームの厳格な「1ユニット10人」「ユニット内食堂・浴室」の建物では、必要な介護スタッフは指定基準【3:1配置】の2倍、地域密着型では2.5倍。それ以下では、入居者の生活だけでなく、介護スタッフに過重な負荷がかかり、事故やトラブルのリスクが増加
高齢者住宅開設者向け 連載 『社会価値・市場価値の高い高齢者住宅をつくる』 048
現在のユニット型特養ホームの介護看護スタッフの基準配置は、【3:1配置】ですが、 ユニット型特養ホームは基準配置では介護できない【証明】? 及び、 小規模の地域密着型は【2:1配置】でも対応不可 ?で述べたように、介護保険法に示された介護老人福祉施設の指定基準配置では、介護システムを構築することはできません。【2.5:1配置】【2:1配置】といった、基準よりも手厚い介護体制を採っていても、十分だとは言えません。
では、要介護3以上の重度要介護高齢者が中心のユニット型特養ホームで、介護スタッフが安全な労働環境のもとで、安定した介護サービスを提供するためには、それぞれどのくらいの介護看護スタッフ配置が必要になるのかを考えてみます。
60名定員のユニット型特養ホームの業務シミュレーションの前提条件は以下の通りです。
1ユニット10人が原則で、ユニット単位で浴室・食堂が分離。三階建てで1フロアに2ユニットを配置し、フロア単位(2ユニット)で、介護システムを構築します。
特養ホームの入居者は、原則要介護3以上に限定されていますが、若干数、要介護2の高齢者も入居しているものとし、平均要介護度は、3.7です。「認知症専用フロア」「重度専用フロア」を設定せず、平均的にフロアに分散させています。
もう一つは、介護看護スタッフ配置と勤務体制です。
介護スタッフの日中の介護システムは早出勤務(7時~16時)、日勤勤務(9時~18時)、遅出勤務(12時~21時)とし、夜勤は16時~翌朝の10時までの二勤務体制を採るものとします。看護師は、早出勤務(7時~16時)、遅出勤務(12時~21時)の二交代をとります。
介護看護スタッフの年間勤務日数は250日と設定します。
ここから、必要となる人員を算定していきます。
まずは、最低限必要となる看護師配置です。述べたように、朝食時の服薬管理から眠前の服薬管理までを行う必要があるため、早朝7時~21時まで、少なくとも一人の看護師が常駐するように配置します。一人で勤務することはできないため早出勤務(7時~16時)、遅出勤務(12時~21時)の二交代とします。
一日2名の勤務ですから、一年間に必要な看護スタッフの延べ人数は2名×365日=730日分です。一人当たりの勤務日数は250日ですから、これを割り返すと、常勤換算で2.9人の看護師が必要です。
次に夜勤帯の介護スタッフの設定です。1つのフロアに一人の介護スタッフを配置するとして3名の夜勤スタッフは必要です。一日当たり3名の夜勤者、一回の夜勤で2勤務(16時~翌朝の10時まで)ですから、一年間に必要な夜勤者の延べ人数は2190日分(3人×2日×365)となり、これを年間勤務日数の250で割り返すと、常勤換算では8.7人の介護スタッフが必要となります。
最後に日勤帯での業務検討です。
ここでポイントになるのは、食事介助と入浴介助の時間帯の配置です。
それは、食事と入浴は、誤嚥・窒息、また溺水・熱傷・転倒・転落などの重大な事故が発生するリスクが高いからです。食事介助や入浴介助に最低限の介護スタッフが確保できないということは、入所者を重大な事故リスクにさらすだけでなく、介護スタッフが背負う法的責任のリスクも高くなります。
これらリスクマネジメントの視点から、安全に介護するために必要だと考える介護スタッフ数を配置したものが次の介護システムです。
ポイントをいくつか見ておきます。
一つは、着替えや排泄、洗面洗顔などの介助業務が集中する早朝です。
要介護3以上の高齢者が多くなると、一人で着替えや排泄ができないため、ほぼ全介助の状態となります。夜の就寝時の介助も同じことをするのですが、「後は寝るだけ…」ですから、眠そうにしている高齢者からゆっくり介助すればよいのですが、朝の起床介助が遅れて朝食の時間がずれ込むと、その後の通院や入浴などの介助などの予定にもずれ込んでしまいます。一人当たり10分~15分程度は必要ですし、加えて朝食の準備にもかからなければならないため、一日のうちで最も忙しい時間帯となります。
早出勤務の介護スタッフを3名として、夜勤のスタッフと合わせてフロア単位4名、各ユニットに2人がいれば、6時頃から起こし始めても、8時過ぎの食事に間に合わせることができますし、交代で朝食の準備を行うこともできます。
二つめは食事時間帯のスタッフ確保です。
朝食・昼食・夕食それぞれの食事時間の介護スタッフも、フロア毎に4名、ユニット毎に2名を確保します。 食事は直接介助だけでなく、誤嚥や窒息などの事故を予防するための見守り、声掛けも必要です。食事が終わった高齢者から部屋やリビングへの移動介助、後片づけなどの介助も行います。また食事の途中でトイレに行きたいという人や、「風邪をひいているので居室で食事」という人もでてきます。2名のスタッフがいれば、連携しながら介助を行うことができます。
三点目は、入浴介助です。
入浴介助の時間である午前の9時半~11時半、午後の13時半~16時半には、各ユニットに2人~3人の介護スタッフを確保しています。フロア単位(2ユニット)で見ると、一週間に最低2回入浴するとして、延べ入浴回数は40回(20人×2回)、一日あたり6人程度の入浴となります。常時4名以上のスタッフが確保されていますから、2人が専任で入浴介助を行っても、1人以上の介護スタッフが各ユニットに残ります。午後の2時~3時の間は、フロアに7人のスタッフがいますので、ここでレクレーションやリハビリ、サービス担当者会議などを行うこともできます。
最後に、この配置を行うには常勤換算で何名の介護看護スタッフが必要になるのかを計算します。
上記のように、看護師数と夜勤介護スタッフ数に加え、各フロア一日7人の介護スタッフを確保するために必要な人員は、常勤換算で42.3人となります。これを対入所者比率で計算すると、【1.42:1配置】という、指定基準配置である【3:1配置】のおよそ二倍であることがわかります。
実際のユニット型特養ホームを見ると、【1.6~1.8:1配置】程度で、介護システムを構築しているところが多いのですが、そのためには、朝6時前から入所者を起こして起床介助を行ったり、食事の介助や片づけの時間が後にずれたり、入浴介助がマンツーマンでなかったり、サービス担当者会議を残業して行ったりと、少しずつ入所者の生活や介護スタッフに、負担がかかっているということです。
地域密着型(小規模)ユニット型特養ホームはそれ以上になる
同様に、小規模の29名以下の地域密着型ユニット型特養ホームに必要な人員配置を計算してみます。
看護師配置は、早朝7時~21時まで、少なくとも一人の看護師が常駐するように配置し、早出勤務(7時~16時)、遅出勤務(12時~21時)の二交代とします。常勤換算で2.9人の看護師が必要です。
夜勤帯は、1つのフロアに一人の介護スタッフを配置するとして2名の介護スタッフを配置します。一年間に必要な夜勤者の延べ人数は1460日分(2人×2日×365)となり、これを年間勤務日数の250で割り返すと、常勤換算では5.8人の介護スタッフが必要となります。
最後に日勤帯の計算です。
各食事時間帯には各ユニット介護スタッフが2名以上、入浴介助はマンツーマンで一人が専任で入浴介助を行っても、最低一人以上の介護スタッフがフロアに残っているように勤務体制を整えたのが以下の勤務シフトです。
このように、整理すると、日勤帯に必要な介護スタッフ数は11人となります。
看護師配置、夜勤介護スタッフ配置と合わせて、常勤換算で計算すると、全体で24.8人の介護スタッフが必要になることがわかります。これは、入所者対比でみると、【1.17:1配置】となり、基準配置である【3:1配置】の2.5倍以上の介護看護スタッフ配置が必要であることを示しています。
この業務シミュレーションの計算例を示すと、「重度要介護高齢者が多い特養ホームだからだ…」「軽度や中度が多いともっと少なくて済むはずだ…」という人がいますが、そうではありません。
例えば、述べたように食事時間は、一人で食事を食べられない高齢者に対する直接介助だけでなく、誤嚥や窒息を防ぐための見守り・声掛けなどの間接介助、誤嚥発生時の緊急対応なども必要ですから、要介護高齢者であれば、要介護度に関わらず「10人1ユニット」であれば、必ず二人の介護スタッフ配置が必要です。入浴も同様に、転倒や転落、溺水、熱傷などの事故リスクが高くなりますから、マンツーマンで行い、かつユニットに一人以上のスタッフを配置するという条件は同じです。
【1ユニット10人】【食堂・浴室分離】という建物では、軽度要介護高齢者が中心でも、重度要介護高齢者が中心でも、必要となる介護スタッフ数はほとんど変わらないのです。
つまり、現在のユニット型特養ホームの建物基準は、要介護高齢者にとっては理想的な生活環境ですが、その理想を体現するには、基準の二倍以上の介護スタッフが必要となる、非効率な介護システムだということです。
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