RISK-MANAGE

介護リスクマネジメントは、「利用者・入居者のため」ではない


リスクマネジメントの目的は「入居者へのサービス向上」ではなく「組織・スタッフを守ること」。その実務は「事故の削減」ではなく「リスクの削減」。リスクマネジメントの推進は、介護現場の仕事ではなく、経営者がイニシアチブをとって行うべきもの。

管理者・リーダー向け 連載  『介護事業の成否を決めるリスクマネジメント』 004


「ご利用者に寄り添ったサービスを提供することが重要」
「事故やトラブルが発生しても、誠意を持って対応すれば解決できる」
介護サービス事業を行っている民間企業の経営者、社会福祉法人の理事長、施設長と話をすると、甘く優しい言葉が返ってきます。管理者セミナーで「何を目的にリスクマネジメントをやるのか」と問えば、その多くは「利用者、入所者への安全な生活の確保」「介護サービスの向上」と答えます。

しかし、それは間違いです。
「リスクマネジメント」の主たる目的は、サービス向上ではなく、組織防衛です。
介護サービス事業における「リスクマネジメント」を定義すると次のようになります。

高齢者介護サービスを取り巻く、様々なリスクを予見し、
〇 そのリスクがもたらす損失を予防するための対策
〇 不幸にして損失が発生した場合の事故処理策

を効果的・効率的に講じることによって、事業の継続と安定的発展を確保していく経営上の手法

ここから読み取れる介護リスクマネジメント 4つの鉄則・指針を挙げておきます。

サービス向上ではなく、「事業・スタッフを守ること」

リスクマネジメントの目的は、事業上発生する様々なリスクから、事業・組織を守ることです。
介護は安易に「安心・快適」を標榜できる事業ではない🔗延べたように、介護サービスは、「安心・快適」というイメージに反して、事故やトラブルの多い事業です。リスクマネジメントができなければ、利用者・入居者は減少し、介護スタッフの離職によって、事業の継続が困難になります。

また、それは「スタッフを守ること」でもあります。
介護の対象は身体機能の低下した要介護高齢者、認知症高齢者です。小さなミス、一瞬のスキが大事故に発展します。転倒事故や入浴中の溺水事故によって、入居者が死亡すれば、個人が刑事罰(業務上過失致死など)に問われることもありますし、莫大な金額の損害賠償請求を受けることもあります。

現在の介護は、様々な職種が連携しながら交代制で行う「チームケア」です。
介護スタッフの中は、リスクマネジメントを「やらされている」と感じる人もいますが、「薬が変更になったのを伝達するのを忘れた」「食事変更の希望を伝えなかった」といった連携ミスが、一緒に働いている仲間・スタッフを巻き込み、傷つけることになります。

目的は「事故・トラブルの削減」ではなく、「リスクの削減」

安全な生活環境を整備し、事故の予防策を検討・実践することは事業者の責務(安全配慮義務)です。しかし、リスクマネジメントの目的は「事故件数の削減」ではありません。

高齢者介護の対象は身体機能の低下した高齢者です。認知症高齢者は予測できない行動を起こすこともあります。「歩行中のふらつきが多くなってきたので、車いすを利用の方が安全」とケアマネジャーや介護スタッフが考えても、本人が「車いすには乗りたくない」というケースもあります。どれだけ詳細にケアマネジメントの中で事故予防を検討しても、介護看護スタッフがどれだけ努力しても、事故をゼロにすることはできません。

リスクマネジメントの目的は、事故件数を減らすことではなく、事故によって発生する事業者・スタッフの受ける損害を減らすことです。
例えば、夜間のふらつき、転倒のリスクのある人には「離床センサー」を活用して、早期発見につなげるという予防策を検討します。ただ、いつでもスタッフがすぐに駆け付けられるわけではありませんし、間に合わずに転倒してしまう可能性もあります。そのためには、「転倒リスクの存在」「その予防策」に合わせて、「予防策の限界」も利用者や家族に説明しなければなりません。

「離床センサーの設置=リスクマネジメント」ではなく、その効果や限界を説明することも含めて、リスクマネジメントなのです。事前に十分に説明されていれば、運悪く骨折した場合でも、「ちゃんと介護していたのか」「損害賠償請求する」感情的なトラブルになる可能性は低くなります。
骨折した後で「事故をゼロにはできない」と説明されても、「安心・快適と言ったじゃないか」「本当にちゃんと介護していたのか」と不審を抱かれるのは当然のことだと言えます。

額に飾る理念・指針ではなく、全ての業務の基礎

三点目は、リスクマネジメントは理念ではなく、実務であるということです。
リスクマネジメントは、重大な問題が発生したときに「さてどうしよう??」と慌てて行うようなものではありませんし、「事故を減らすように気をつけましょう」「誠意を持って対応しましょう」といった精神論でもありません。「介護事故報告書」の書式を整備し、「リスクマネジメント委員会」を立ち上げればよい、という形式的なものでもありません。

リスクマネジメントは、介護看護だけでなく、建物設備設計、利用相談、入居時説明、ケアマネジメント、生活相談、食事の提供など、すべての業務・サービス実務の基礎となるものです。サービス提供上発生するリスクを予測し、その発生予防、拡大予防の観点からサービスを提供することなのです。


以上、3つの指針を挙げました。
大切なことは、リスクマネジメントは、「介護現場の仕事」ではなく、経営管理・サービス管理上上の手法・ノウハウだということです。
他の業種から新規参入した事業者、経営者の中には、「事故予防などのリスクマネジメントは現場の仕事」「事故やトラブル対応も現場の仕事」と考えている人が少なくありません。しかし、それは「良い商品をつくるのは工場の仕事」「トラフルやクレームは経営には関係ない」と言っているのと同じです。

その推進にあたって経験豊かな介護スタッフの意見や、介護福祉士・社会福祉士などの専門的な知識・技術を活用することは重要ですが、イニシアチブをとって、それを推進する責任は事業者・経営者にあるのです。



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