RISK-MANAGE

入居者募集の失敗・スタッフ確保の失敗

超高齢社会だからといって、どんな高齢者住宅でも入居者が集まるわけではない。

少子高齢化の中で、介護スタッフの確保は、どんどん難しくなる。


 

現在、大手・中小に関わらず、経営が安定しない高齢者住宅が増えています。
それは適切なリスクマネジメントができていないからです。
視点を変えれば、リスクマネジメントの視点から見れば、その高齢者住宅の経営が安定するか、倒産するのか、その未来が見えるということでもあります。
高齢者住宅経営の安定を阻害するリスクと、そのリスクの高い高齢者住宅の特徴、理由を挙げます。

 

~入居者募集の失敗~

高齢者住宅の需要は、団塊世代の後期高齢化だけではなく、核家族化の進展、少子化による家族介護機能の低下など、様々な要因が複合的に絡まり合っています。
高齢者住宅に参入したいという事業者が真っ先に挙げるのは、この『確実な需要の増加』です。
しかし、現在の有料老人ホームやサ高住を見ると、入居者が集まらず、経営が悪化しているところも少なくありません。

入居者募集の失敗例
● 遊休土地の固定資産税が高く、「需要が高まる」「補助金がでる」とデベロッパーに言われてサ高住を作ったが、入居者がほとんど集まらず、コンサルタントも訪問介護事業者も逃げ出し、数億円の借金だけが残った。
● 大手事業者の支援で、介護付有料老人ホームを作ったが、近くにユニット型特養ホームができたため、入居者がほとんど集まらない。

なぜ、超高齢社会なのに高齢者住宅に入居者が集まらないのか。
その理由は明快です。地域のニーズとマッチしていないからです。
今、一番入居者確保に苦労しているのが、サ高住やそれまでの高専賃を中心とした、自立~軽度要介護高齢者を対象とした高齢者住宅です。元気なうちから高齢者住宅に入居して、介護が必要になっても慣れた環境で生活できる・・という「早めの住み替えニーズ」をターゲットにしているものです。

確かに、早めの住み替えニーズはあるでしょう。
しかし、それは一部に限られます。
基本的に、生活に何か不自由があり、高齢者本人やその家族が将来の不安を感じていたとしても、ほとんどの高齢者はこれまでの生活を大きく変えることを好みません。周囲が一人で生活することは不安だと考えていても、また多少不便であっても、「安心・快適」と言われても、新しい環境で生活することへの不安や抵抗は小さくないのです。
そのため、お盆やお正月に集まって家族で話し合っても「そのうち考えなければならないなぁ」という程度で止まってしまうのです。

このミスマッチは、介護付有料老人ホームも同じです。
有料老人ホームは、従来の入居一時金数千万円、月額費用30万円というものから、入居一時金ゼロ、月額費用25万円程度と低価格になりました。しかし、月額費用25万円といっても、医療費や保険料、紙オムツ代など別途費用を含めると、その金額は30万円を超えます。大都市部でなければ、実際に、毎月、その金額を支払える人はそう多くはありません。特養ホームに待機者が殺到しているのは安いからです。

高齢者住宅は、言うまでもなく、その地域特性に合わせた住宅事業です。
「高齢者住宅の需要は上がる」といっても、その商品性が、その地域の高齢者のニーズと合致していなければ、入居者は集まらないのです。

 

~軽度要介護割合増加による保険収入低下~

二つ目は、介護保険収入の低下です。
これは、上記の入居者確保のリスクと関係があります。
介護保険法では、要介護状態が重くなるにつれて、必要な介護サービス量が増えるため、高い介護報酬が設定されています。そのため、入居率が高くても、事業計画で想定したよりも入居者の要介護度が軽いと、収入が低くなります。

介護保険発足当時に開設された介護付有料老人ホームの事業計画は、入居者を『平均要介護3』としているところが多くみられました。要介護1~要介護5の真ん中の要介護3という安直な設定です。
しかし、実際に想定すると、要介護3・4・5といった重度要介護高齢者の割合が相当高くならないと、「平均要介護3」にはなりません。また、現在の制度では、特養ホームは要介護3以上の高齢者が優先されるため、介護付有料老人ホームに入っていても、重度要介護状態になると、特養ホームに住み替え入所するという人も少なくありません。
そのため当初の予定と違い、要介護1~2という軽度要介護高齢者が多くなるのです。

もう一つは商品設計上の問題です。
このリスクが表れているのが、低価格の介護付有料老人ホームです。
低価格の介護付有料老人ホームでは、入居者と介護看護スタッフの配置が基準配置の【3:1配置】程度のところが多いのですが、この配置では重度要介護高齢者が増えてくると、介護スタッフがそのサービス量の増加に対応できません。そのため、「介護付」と言いながら、重度要介護高齢者には対応できず、軽度要介護高齢者ばかりが多くなるのです。

 

スタッフ確保の失敗・離職率の増加~

もう一つ、経営を圧迫している大きな要因が介護スタッフ不足です。
介護サービスは、「労働集約的事業」です。機械化、業務の合理化による必要人員の削減はできませんし、介護スタッフが不足すれば、いくら入居希望者がいても、受け入れることはできません。

介護スタッフ募集の失敗例
● ユニット型特養ホームが同一時期に3ケ所も作られたため介護スタッフの取り合いとなり、予定の人員が確保できなかったため、定員の半数しか受け入れできないまま、スタートした。
● 介護付有料老人ホームを運営していたが、介護現場を知らない経営者とベテラン介護主任の折り合いが悪く、更に近隣に新規特養ホームが開設したため、介護主任の退職に伴い、ケアマネジャーや介護スタッフの半数が一気に離職した

介護看護スタッフ不足の原因の一つとされているのが、離職率です。
「介護の仕事は給与は安いのに大変な仕事だ」とやめてしまう人が多いと言われています。
ただ、実際の数値をみると、全産業平均の離職率15.0%(平成28年度雇用統計調査)に対して、介護業界の離職率は、16.7%とそれほど大きな差があるわけではありません。
問題は、事業者によって大きな差があるということです。表のように、離職率が10%未満の事業者が約4割を占める一方で、30%以上の事業者も24%になります。
また、業種によっても業種によって大きな差があり、同じ介護職員でも特養ホームの10.5%、老健施設の6.6%に対して、介護付有料老人ホームは、26.8%になります。

もちろん、介護付有料老人ホームでも離職率は二極化しています。
ただなぜ、介護付有料老人ホームの離職率は、他の介護サービス種別と比較して突出して高いのかといえば、その最大の理由は、無理な低価格化です。
介護付有料老人ホームの最大の支出項目は人件費です。ですから、月額費用を無理に抑えようとすると、人件費を抑えるしかありません。ただ、一人当たりの人件費を抑えるには限界がありますから、少ない介護スタッフ数で業務を行うということになります。
そうすると、一人一人の介護スタッフへの負担が大きく、過重労働になるのです。

例えば、60人の入居者に対して、3人で夜勤をするのと、2人で夜勤をするのとでは全く業務量は違います。2人では休憩をとることもできませんし、建物内を走り回ることになります。単純に1.5倍になるのではなく、精神的な負担も含めると、業務負担は3倍~4倍になるでしょう。
実際に「介護の仕事は大変だ」と言って離職したという人と話をすると、介護の仕事が大変なのではなく、「その事業所の勤務体系・労働環境が異常」というケースが大半です。

今後、加齢によって重度要介護高齢者が増えてきますから、更に業務量は増えてきます。
また、労働人口は減少していきますから、介護スタッフの確保はより難しくなっていきます。
介護報酬が上がらない限り、給与を挙げることはできませんし、月額費用の値上げにも限界があります。
無理な低価格路線をとった介護付有料老人ホームの人材確保は、更に厳しくなっていくでしょう。

 

 

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