RISK-MANAGE

介護は、安易に「安心・快適」を標榜できる事業ではない

高齢者介護は、事故やトラブルなどの発生可能性が高い難しい事業

遅れるサービス提供責任の範囲の検討、社会的コンセンサスの議論


 

高齢者住宅や介護保険施設、デイサービスなどのパンフレットには、「安心・快適」といった言葉や、笑顔の写真があふれています。「高齢者介護」のイメージを問えば、「人に優しい仕事」「人の役に立つ仕事」というイメージで答える人が多いでしょう。
しかし、実際は、そのイメージに反して、事故やトラブルの発生する確率の高い事業です。
それは、事業者にとって、検討すべきリスクが多く、また大きい事業だということです。
ここでは介護保険施設、高齢者住宅事業を中心に、リスクマネジメントの視点からみたその事業特性を整理します。

高齢者住宅・介護保険施設のリスクの特徴
〇 サービス利用者は、身体機能の低下した高齢者
〇 多様な生活ニーズ、要介護状態の高齢者の共同生活
〇 福祉の時代から大きく変化した経営環境
〇 介護サービスに対する社会的コンセンサスの遅れ

 

~対象は身体機能の低下した要介護高齢者~

ひとつは、サービスの対象が身体機能の低下した要介護高齢者だということです。
高齢者が転倒しやすいのは、「視力低下によって小さな段差に気づきにくい」「筋力低下で足先が上手く上がらない」「バランス(平衡)機能の低下」など、様々な老化現象が複合的に関係しています。骨密度が低下しているために転倒すれば骨折、入院加療によって更に筋力が低下、車椅子、寝たきりの生活になる危険性も高くなります。

身体機能だけでなく、適応力も低下していきます。
高齢者住宅や介護保険施設において、転倒事故が発生する可能性が最も高いのは、入所・入居後1ヶ月程度の間です。段差の多い自宅で転倒していなかった高齢者が、慣れないバリアフリーの高齢者住宅では転倒するのです。
また、子供や赤ん坊は、成長によって少しずつできることが増えていきますが、高齢者は逆に、少しずつできないことが増えていきます。身体機能の低下、認知症の発症を含め、体中の様々な機能が、段階的に低下していくということが、高齢者の最大の特性であり、介護サービス事業の最大の難しさです。

 

~高齢者の共同生活の難しさ~

二つ目は、集合住宅・共同生活の難しさです。
特養ホームでも個室のところが増えてきました。有料老人ホームやサ高住は個室が基本です。
ただ、食事、レクレーションなど、共同生活という側面も強くなりますので、入居者の間で様々な人間関係が発生します。入居者同士で車椅子を押し合ったり、おやつを分け合ったりするという姿を見かけますが、同様に悪口を言ったり、仲間はずれにしたりというケースもあります。
人間関係トラブルは、一般社会でも高齢者の世界でも同じです。

「高齢者を介護するお仕事は大変でしょう」とよく言われますが、本当に大変なのは、この人間関係の調整です。ひどい物忘れや認知症によるBPSD(周辺症状)が原因となって、大声での罵り合いとなったり、家族を巻き込んで大きなトラブルに発展するケースもあります。自立度の高い高齢者を対象としたサ高住などでは、「部屋の中からひどい悪臭がする」「禁止場所で隠れてタバコを吸っている」などの事例も発生しており、万一火災になれば、他の入居者も巻き込んで大変な惨事となります。

高齢者住宅では、様々な性格、様々な生活をしてきた人が集まって生活します。
歳をとったからと言って、みんな温和で優しい人になるわけではありません。
最近では、気に入らないことに対して「突然、キレるお年寄り」も増えていますが、その背景には認知症が隠れていることもあり、高齢者住宅の共同生活の難しさは、一般の学生寮、社員寮とは比較にならないほど高いのです。

 

~大きく変化した経営環境・遅れる対策~

もうひとつは、リスクマネジメントのノウハウが蓄積・構築されていないということです。
介護業界にもリスクマネジメントが求められる時代🔗で述べたように、介護サービス事業は、介護保険制度がスタートするまで、福祉施策の一つの中で行われてきました。行政が中に入るため、「高齢者や家族とサービスを巡って直接トラブルになる」ということが、想定されてきませんでした。そのため、事故やトラブルに対する予防・対応などの対策、リスクマネジメントが必要だと言われ始めたのはまだ、最近です。

介護保険制度の導入で新規参入が一気に増えたということも、トラブル拡大に拍車をかけています。
例えば、サ高住では、介護が必要になる前に、高齢者住宅に入居しようという「早目の住み替えニーズ」というコンセプトのものが増えています。しかし、「自立高齢者」と「要介護高齢者」に適した建物設備、介護システムは、根本的に違います。「介護が必要になっても安心」とセールスしながら、重度要介護高齢者や認知症高齢者への対応が十分に検討されていないものが多く、その結果、転倒事故やトラブルが激増しているのです。

このリスクマネジメントの取り組みは、それぞれ事業者にとって大きく違いますが、介護業界全体としてみれば、一般の業界よりも100年以上遅れているという人もいます。

 

~介護サービスに対する社会的コンセンサスの遅れ~

もうひとつは、介護サービス事業者のサービス提供責任の範囲、転倒などのリスクに対する社会的なコンセンサスの議論の遅れです。
述べたように、高齢者住宅・介護保険施設の対象は、身体能力や適応力、判断力の低下した要介護高齢者です。これに認知症が加わると、自分で転倒や熱傷などのリスクの判断ができません。一瞬目を離したすきにシャンプーを口にいれたり、包帯を食べてしまうなどの異食、混乱し他の人に暴言を吐くなどのBPSD(周辺症状)もでてきます。

「技術や知識のある介護のプロだから」といっても、24時間365日、付き添えるわけではありません。
どれだけリスクマネジメントを行っても、ケアマネジメントの中で予防策を検討しても、事故をゼロにすることは不可能です。過度な事故予防策をとると、「歩行がふらつくので車いすに乗ってもらう」「トイレは危ないので夜はオムツ」と、本来の介護の目的である「生活の質の向上」と正反対の身体拘束になってしまいます。

しかし、権利意識の変化によって、「転倒した、骨折した」となると、その内容や状況に関わらず、「ちゃんと介護していたのか」「介護サービスの質が低い」と家族からは厳しい視線が注がれます。民事裁判となると、「裁判官は現場を知らないのではないか」「実際にそんなことが可能なのか?」と感じるような、事業者側に厳しい判断がくだされます。

社会的コンセンサスの遅れが介護スタッフの疲弊を招き、離職者の増加によって介護サービスの質が低下、更に事故が増えるという悪循環になっているのです。

 

以上、リスクマネジメントの視点から見た、介護サービス事業4つの事業特性を挙げました。
高齢者の特性、集合住宅の難しさを考えると、高齢者住宅や介護保険施設は、そもそも安易に「安心・快適」と標榜できるような事業ではありません。
リスクマネジメントのノウハウや対策が整わないままに、「安心・快適」「笑顔・やさしさ」など美辞麗句でいるのです。その結果、社会的コンセンサスの整備も遅れ、介護サービス事業を、より難しくしているのです。

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