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介護事故報告書の書式 ~全体像を理解する~


介護事故報告書には何を記載すべきかは「何を検証するのか」と同じ。事故の概要・原因だけでなく、初期対応、連絡報告、予防対策など、一連の流れを客観的に整理する。ここでは全体像だけでなく、書式設定上のポイント、記入上の原則、注意点について理解する。

管理者・リーダー向け 連載  『介護事業の成否を決めるリスクマネジメント』 036


「介護事故報告書の書式を教えてほしい」「どのような書式が良いのか示してほしい」 という事業者、管理者からのご相談は少なくありません。
介護保険施設や介護サービス事業所の事故報告書の書式は、インターネットで検索すれば、いくつもでてきます。内容が細かく指示されており、必要な打撲の箇所を図で表したり、事故やトラブルを類型化できるようにした詳細な報告書をたくさん見ることができます。

その書式を参考にするのは良いのですが、他事業所の立派な書式をそのまま借りてくるようなことは、やめたほうが良いでしょう。事故報告書の書式が作れないということは、事故報告書の役割や目的が十分に理解できていなということです。それでは、何をどのように書いてよいのかわからず、「とりあえず項目をすべて埋める」ということだけが目的になってしまいます。
事故報告書を上手く活用している優良な事業所ほど、書式は簡素なものです。

最近では、「介護事故報告書の用語集」「介護事故報告書の事例集」といったサイトもありますが、それを参考にすることもお勧めしません。いくつか見たことがありますが、その多くは表面的な反省文のようなものもあり、「本当に介護の現場にいた人が野か作ったのか?」と思うものも少なくありません。これに頼ると、類似の事故ケースを探して、同じように書くことが常態化してしまいます。
ここでは、介護事故報告書について、「記入すべき項目」「書式設定の注意点」「記入のポイント」の3つに分けて整理します。

事故報告書には何を記載すべきなのか

事故報告書の書式は、統一というものではありません。
訪問サービス、通所サービスと、高齢者住宅や介護保険施設では、事故の種類が変わってきますし、事故の被害の大きさ(ケガなし事故、重大事故)などによっても、どこまで報告するのか、最終、誰に報告するのかは変わってくるでしょう。高齢者住宅でも、区分支給限度額方式のサ高住と介護付有料老人ホームでは、その責任の所在が変わりますし、大手高齢者住宅事業者であれば、事故対応の専門職や弁護士などがいるでしょうから、その役職の人との連携も必要です。

ここでは、介護付有料老人ホームを例に、報告書に記入すべき基本的事項と、書式を設定する上でのポイントを簡潔に整理します。
事故の概要、発生状況、事故原因の分析など、必要な項目ごとに整理したのが、次の表です。


① 事 故 概 要
どのような事故が起こったのか、一目でわかるように整理します。
時間や場所、事故の対象者(入居者氏名)、発生させたスタッフ名、発見したスタッフ名、怪我の有無や入院の有無の他、検証者や報告書策定者、報告書策定日など、概要がわかるように整理します。
大手事業所であれば、後で整理や分析がしやすいように、全体に通し番号をいれたり、転倒、転落、誤嚥、溺水などの「事故種別」や、居室内、食堂、浴室、玄関などの「発生場所別」に、記号を変えるなどの工夫するのも良いでしょう。

② 発生・発見状況の整理
どのような状況で事故が発生したのか、また発見した時の状況の流れを整理します。認知症などで発生状況がわからない場合も、発見時の状況から推定・検証します。ただし、検証時の推定である場合、その理由についても記入します。

③ 事 故 原 因
何故、その事故が発生したのか、「介助ミス、身体機能低下、建物設備備品」の三要素に加え、利用者との諍いやトラブルといった「その他」も付け加えます。しっかり検証ができていれば、原因を把握することは難しいことではありません。発生時にスタッフがそばにいない、認知症などで原因について本人から聞きとりできない場合でも、できる限り原因を推定し、事故原因を一つでも摘み取る努力が必要です。

④ 初 期 対 応
誰が、どのようなチェックをして、それに対してどのような初期対応が何を行ったのかを検証に基づいて整理します。ここでもまだ意見や私見、評価は必要ありません。

⑤ 連 絡・報 告
事故の発生について行った、家族への初期連絡についても記入します。骨折などの重大事故の場合、行政にも連絡が必要となりますし、保険会社との保険対応についての必要性の有無についても検討します。

⑥ 予 防 対 策
初期対応時以外で行った予防対策について整理します。これはケアマネジメントの見直しなど「事故当事者となった対象者個別の予防策」と、建物設備、介護マニュアルなど「他の利用者、入所入居者を含めた全体の予防策」の2つの視点から検討することが必要です。
対策には時間のかかるものもありますから、報告書の段階で対応済みのものと、対策に必要なスケジュールも合わせて記入します。

⑦ 事 故 課 題
検証者、報告者が、今回の事故事例を通じて気付いた点、経営者に管理者に訴えたい点などを記入します。報告者の私見、評価がはいるのはここだけです。

⑧ 管 理 者 意 見
管理者の意見は、単なる感想や注意喚起ではなく、明確な指針、行動を示すことが必要です。

⑨ 追 記・継 続
当初の報告書は、⑧の管理者意見までですが、その後の家族対応や行政連絡、保険会社とのやりとりなど、事故が収束するまで、事故報告書に追記していきます。

事故報告書 書式設定上の注意・記入上の原則

事業所の中には、まだ手書きの報告書というところも多く、事故報告書はA4サイズで、「発生状況」「初期対応」と書く場所を区切られています。
しかし、それでは、中身よりも、その中に文字数を収めてしまわなければならず、字が小さくなったり、要点が書き切れないということになってしまいます。また、記入者の文字に癖があると、非常に読みにくいものとなってしまいます。ですから、必要な項目がすべて記入できるように枠を設定せずに、パソコンなどで報告書を策定すると言うのが基本です。事故の大きさや内容によっては、追記、継続も重要になりますから、一枚のページの中に収めるということは、必要ありませんし、意味がありません。

ただし、文章作成ソフトで策定し、それを伝送するというデジタルだけになってしまうと、途中で内容が書きかえられたり、いつ時点での報告なのかわからなくなってしまいますので、必ずPDFに直したり、プリントアウトして残しておくことが必要です。管理者意見、追記継続といったものは、基礎となる事故報告書に追加記入した(その日時も含め)ということが、明確になるようにしなければなりません。

事故報告書の記入にあたって、原則となるポイントを3点あげます。
一つは、時間を明確に記入することです。事故発見や初期対応などは、「いつ発生して」「いつどのような対応をしたのか」「いつ救急車を呼んだのか」がとても重要になってきます。全スタッフに、「いつ、何をしたのか」という時間の意識を徹底させることが求められます。

2つ目は、ポイントを箇条書きにするということです。事故報告書は反省文ではありませんから、つらつらと作文のように書くものではありません。「時間(when)」「誰が(who)」「誰に(whom)」「どこで(where)」「何をしたのか(what)」という必要事項だけを客観的に書くものです。

3点目は、事実のみを記入するということです。「今度から気を付けます」「すいませんでした」といった謝罪も必要ありませんし、「介助ミスをした」「目を離したすきに」といった主観的な意見も重要ではありません。「介助中にバランスを崩して転倒」というのであれば、なぜバランスを崩したのか、どうすればバランスを崩さなかったのか、介助の方法に問題はなかったのかと冷静、客観的に分析して、事実だけを書くのです。





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