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介護システム構築 ツールとしての特定施設入居者生活介護


特定施設入居者生活介護は、介護付有料老人ホームの基本介護システムではなく、それぞれの事業者が独自の介護システムを構築するためのツール。「一般型」「外部サービス利用型」の違いだけでなく、制度・報酬体系があっても、使えないもの、使いにくいものもあるということを理解。

高齢者住宅開設者向け 連載 『社会価値・市場価値の高い高齢者住宅をつくる』 029


ここまで述べてきたように、
高齢者住宅のターゲットは重度要介護高齢者に集約されていくこと
(事業性も需要も要介護高齢者専用住宅に集約される🔗)

ポイント介助の区分支給限度額方式では、重度要介護高齢者に対応できないこと
(区分支給限度額方式で、介護システムは構築できない🔗)

囲い込みビジネスモデルは、社会保障財政の悪化要因であり規制されること
(なぜ「サ高住」は「介護付」よりも格段に安いのか🔗)

これからの要介護高齢者住宅の介護システムは、サービス提供責任の明確化が鉄則であること
(要介護対応 介護システム設計 4つの鉄則🔗)

などを考え合わせると、これからの要介護高齢者を対象とした高齢者住宅に適用される介護報酬は、「特定施設入居者生活介護」に集約されていきます。ただ、それは、「要介護高齢者対応だから介護付」「とりあえず特定施設の指定を受ければよい」という安易なものではありません。特定施設入居者生活介護の中には、制度があっても、使えないものもあるからです。
ここでは、介護システム構築の基礎となる特定施設入居者生活介護について、考えます。


特定施設入居者生活介護は介護システム構築のツール

まず理解しなければならないことは、「特定施設入居者生活介護の指定基準とは何か」ということです。
「介護保険制度=基本介護システム」という誤解🔗で述べたように、その指定配置基準だけでは、要介護3~5の重度要介護高齢者が増えてきた場合、最低限の介護を行うことさえ難しくなります。それは、「介護スタッフが安全に働ける労働環境ではない」ということでもあります。

では、「軽度要介護高齢者のみを対象とした高齢者住宅」が可能か、と言えばそれは成立しません。
高齢者の最大の特徴は、加齢や疾病によって、要介護状態が重くなっていくということです。それは個々人だけでなく、全体の要介護割合も同じことが言えます。開設時は要介護1~2の軽度要介護高齢者が多くても、時間の経過につれ、要介護3~5の重度要介護高齢者が増えていきます。

また、高齢者や家族が望む「介護が必要になっても安心」は、「重度要介護状態になっても安全に生活できる」ということです。「軽度要介護高齢者には対応できるけど、重度要介護高齢者には対応できない・・・・」というのは、「初期ガンにしか対応できない、ガン専門病棟」のようなもので、高齢者住宅としては欠陥商品です。「介護が必要になっても安心・快適」と標榜、セールスしているのであれば、必ず重度要介護に対応できる介護システムを、事業者の責任で構築しておかなければなりません。


では、特定施設入居者生活介護とは何なのか。
その介護報酬や指定基準は何を示すのか。
それは、それぞれの高齢者住宅で独自の介護システムをつくるためのツールなのです。
図のように、対象となる高齢者のニーズや建物設備設計を基礎として、「どのような介護サービスを、どの程度、どのように提供するのか」という介護システムをまず検討・構築し、その上で、介護保険適用になるものは介護報酬を算定し、それ以外のものは上乗せ介護費用として請求するという、介護保険施設や病院とは全く逆の発想が必要となるのです。


特定施設入居者生活介護には二つの種類がある

現在の特定施設入居者生活介護には「一般型」と「外部サービス利用型」の二つのタイプがあります。
それぞれの介護報酬算定、指定基準の特徴とサービスの中身について、簡単に整理します。

① 一般型特定施設入居者生活介護

まず一つは、一般型特定施設入居者生活介護です。
現在、介護付有料老人ホームに適用されている特定施設入居者生活介護は、ほぼすべてこの一般型です。

高齢者住宅が、その指定配置基準に定められた数以上の介護看護スタッフを直接雇用し、入居者に対して介護看護サービスを直接提供します。
その指定基準には、「介護スタッフ」「看護スタッフ」だけでなく、「管理者」「生活相談員」「ケアマネジャー」も含まれています。特養ホームと同じように、生活相談やケアマネジメント、各種サービス管理を含め、すべての介護サービスの提供をその指定を受けた高齢者住宅の責任で一体的に行うという、シンプルな報酬形態です。
介護報酬は、すべて「一日当たり〇〇単位」という日額包括算定方式で、要介護度が重くなるにつれ、報酬単価が上がります。

② 外部サービス利用型特定施設入居者生活介護

もう一つが、外部サービス利用型です。
この外部サービス利用型の介護報酬は、定額で日額算定方式の基本部分と、入居者の要介護度別に出来高で算定される限度額部分に分かれています。

図のように、基本部分は、「サービス管理」「生活相談」「ケアマネジメント」及び「安否確認」に対するサービスに対する報酬で、この指定を受けた高齢者住宅事業者が、指定基準以上のスタッフ(生活相談員・ケアマネジャー・介護スタッフ)を配置し、これら基本サービスを提供します。この基本部分についての介護報酬は、要介護1~要介護5まで一定です。
そして、入居者個別の状態・ニーズに基づいて行われる「食事介助」「排泄介助」「入浴介助」については、外部の訪問介護・訪問看護・通所介護等の外部サービス事業者から提供され、この部分は、利用者毎の出来高算定となります。この出来高部分は、要介護度別に限度額が設定されています。

設定された限度額内で、外部サービス事業者から受けたサービス毎に出来高で報酬算定する、というのは区分支給限度額方式と同じですが、その仕組みは基本的に違います。
区分支給限度額方式の場合、訪問介護等の介護サービス事業者とサービス契約を結ぶのは、それぞれの入居者個人であり、住宅型有料老人ホームやサ高住の事業者は、直接関与していません。同一グループ内の訪問介護からサービス提供される場合でも、高齢者住宅の事業者が介護サービス内容を約することはできませんし、また、そのグループ内の訪問介護サービスを利用するか否かは、個々の入居者の判断です。

これに対して、外部サービス利用型特定施設の場合、その前提として、当該高齢者住宅事業者が訪問介護や通所介護のサービス事業者と業務委託契約を締結します。その上で、訪問介護や通所介護等の事業者に、それぞれの入居者が必要な介護サービスを委託するという形をとっています。訪問介護と入居者の個別契約ではありません。

個別契約ではありませんから、入居者は、当該高齢者住宅事業者が契約している訪問介護・訪問看護等のサービスを利用するということが原則です。また、行われた介護サービスに対する介護報酬の請求や一割負担の請求も、その指定を受けた高齢者住宅事業者(特定施設)が行います。
つまり、介護サービスの提供責任が、外部の介護サービス事業者ではなく、指定を受けた高齢者住宅事業者にあるということが明確にされているということです。
区分支給限度額方式とは違い、『訪問介護の業者が遅れサービス提供できない』『入浴介助中に転倒した』等のサービス提供上の介護事故、トラブルについても、そのサービス提供責任は高齢者住宅事業者が負うことになります。
そのため、この外部サービス利用型も特定施設入居者生活介護の一つであり、「介護付」なのです。


特定施設入居者生活介護の類型の中には使えないものも

どちらの「特定施設入居者生活介護」も、指定基準を満たせば、有料老人ホームだけでなく、サ高住でも指定を受けることは可能です。
しかし、現在の介護付有料老人ホームを見ると、そのほとんどは「一般型」です。それは、外部サービス利用型は、定額部分と出来高部分の二段構えとなることから、契約形態やシステム構築、ケアプランの策定が難しくなるからです。また、「外部委託」と言っても、収益が分散するため、実質的に少なくとも訪問介護、訪問看護、通所介護を同一法人で持っておかなければなりません。そのため、養護老人ホーム(養護老人ホームの介護サービスは、外部サービス利用型が前提)を除き、民間の高齢者住宅では、ほとんど運用されていない(1%未満)というのが実態です。

ただこれは、「単純に外部サービス利用型はダメだ」というものではありません。
この外部サービス利用型は、一般型と比較すると、外部の通所介護、リハビリ系サービスとの契約によって、より、それぞれの要介護高齢者の個別ニーズに沿ったケアマネジメントを行うことができます。また、今後、高齢者住宅に対する区分支給限度額方式は大幅に規制され、特定施設への移行を迫られることはになりますから、現在、通所介護を併設した、囲い込み型の住宅型有料老人ホーム、サ高住は、この外部サービス利用型の運用に向けて、介護システムの構築を積極的に進めなければなりません。
ただ、正直、使いづらい・・というのは事実であり、より介護システムが構築しやすいように、制度上の基準の緩和や、柔軟な運用が求められます。


一方で、「一般型であればよい」というものではありません。
現在、制度としては定められていても、システムツールとしては使えないものもあります。

① 地域密着型特定施設入居者生活介護

一つは、29名以下の地域密着型特定施設入居者生活介護です。
「要介護高齢者住宅には適正な規模がある🔗」で述べた通り、定員が29名以下と定員規模が小さくなれば、業務の効率性が低下し、運営コストは上がります。60名の介護付有料老人ホームを一つ整備するのと、30名の介護付有料老人ホームをつくるのとでは、建築コストだけでなく、運営コストは大きく変わってきます。
地域密着型特養ホームも同じことが言えますが、これは、山間部・農村部などで、「特養ホームの整備は必要だが、30名定員規模で十分」という市町村が導入するものです。
一方の高齢者住宅は、営利目的のビジネスです。また、その対象は生活行動が大幅に制限される要介護高齢者、重度要介護高齢者ですから、実際の生活に、高齢者住宅全体の定員規模は全く関係ありません。同程度のサービスで、月額費用が5万円~10万円高くなるのに、それでも「定員規模の小さな高齢者住宅の方が良い」という人はいないでしょう。

② 介護予防特定施設入居者生活介護

もう一つは、介護予防特定施設入居者生活介護です。
ご存知の通り、この「介護予防」というのは、要支援高齢者を対象とした報酬体系です。
ただし、介護予防特定施設入居者生活介護は、要支援高齢者のみを対象としているのではなく、要介護・要支援高齢者のどちらも対象としている場合に、その指定を受けることになります。その昔、特定施設入居者生活介護の総量規制が行われた折、要介護高齢者のみを対象とする「介護専用型」と、自立高齢者・要支援高齢者も対象とする「混合型」に分けて規制されましたが、その「混合型の流れをくむもの」と言っても良いでしょう。

「要介護高齢者だけでなく、要支援高齢者も対象とすることによってターゲットを広げる」といった発想で、現在の一般型特定施設入居者生活介護の約8割が、この介護予防の指定を受けています。
しかし、この「介護予防の特定施設入居者生活介護」は、まったく実務を知らない人が作ったあり得ない選択です。その理由は、(このコラムを読んでいただいている方は、もうお分かりだと思いますが)、重度要介護高齢者の増加に対応できないからです。

要介護高齢者だけでなく、要支援高齢者も対象とするのですから、介護看護スタッフ配置は、【2:1配置】【1.5:1配置】という上乗せ介護を行うものではなく、介護システムは【3:1配置】の指定配置基準か、それに近いものになります。しかし、「介護保険制度=基本介護システムという誤解🔗」で、示したように指定基準程度の介護看護スタッフ配置では、加齢や疾病によって重度要介護高齢者が増えてきた場合、最低限の介護サービス提供もできなくなります。
つまり、「介護予防特定施設入居者生活介護」は、要介護も要支援もOKではなく、要支援、軽度要介護高齢者にしか対応できない介護付有料老人ホームなのです。

この介護予防特定施設入居者生活介護は、要支援~軽度要介護の高齢者が多くなりますから、介護保険財政運用の視点から見ても、非常に非効率です。
「現行制度で介護システムを構築してはいけない🔗」で述べたように、今後、重度化リバランスの強化が行われますから、今後、確実に要支援・軽度要介護高齢者の介護報酬は抑制される方向に進みます。
介護予防特定施設入居者生活介護という介護報酬は設定されていますが、それは制度の方向性からみても、また高齢者住宅のビジネスモデルから見ても、あり得ない選択なのです。

このように、これからは特定施設入居者生活介護に集約されると言っても、「介護付だからOK」「介護付だから要介護高齢者に対応できる」という話ではありません。
介護保険制度は「混合介護」が原則です。特定施設入居者生活介護の特性を十分に理解し、それをツールとして使いこなすことができなければ、介護システムの構築はできないのです。



要介護高齢者住宅の商品設計 ~建物設備設計の鉄則~

  ⇒ 高齢者住宅 建物設備設計の基礎となる5つの視点
  ⇒ 「安心・快適」の基礎は火災・災害への安全性の確保
  ⇒ 建物設備設計の工夫で事故は確実に減らすことかできる 
  ⇒ 高齢者住宅設計に不可欠な「可変性」「汎用性」の視点 
  ⇒ 要介護高齢者住宅は「居室」「食堂」は同一フロアが鉄則 
  ⇒ 大きく変わる高齢者住宅の浴室脱衣室設計・入浴設備 
  ⇒ ユニットケアの利点と課題から見えてきた高齢者住宅設計 
  ⇒ 長期安定経営に不可欠なローコスト化と修繕対策の検討
  ⇒  高齢者住宅事業の成否のカギを握る「設計事務所」の選択 

要介護高齢者住宅の基本設計 ~介護システム設計の鉄則~

   ⇒  「特定施設の指定配置基準=基本介護システム」という誤解
   ⇒ 区分支給限度額方式では、介護システムは構築できない
   ⇒ 現行制度継続を前提にして介護システムを構築してはいけない 
   ⇒ 運営中の高齢者住宅 「介護システムの脆弱性」を指摘する 
   ⇒ 重度要介護高齢者に対応できる介護システム 4つの鉄則 
   ⇒ 介護システム構築 ツールとしての特定施設入居者生活介護 
   ⇒ 要介護高齢者住宅 基本介護システムのモデルは二種類 
   ⇒ 高齢者住宅では対応できない「非対象」高齢者を理解する 
   ⇒ 要介護高齢者住宅の介護システム 構築から運用への視点 
   ⇒ 介護システム 避けて通れない「看取りケア」の議論 
   ⇒ 労働人口激減というリスクに介護はどう立ち向かうか ① 
   ⇒ 労働人口激減というリスクに介護はどう立ち向かうか ②   



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