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はじめに ~高齢者住宅選びには「ポイント」と「コツ」がある~


高齢者住宅はまだ新しいサービスであり、サービスも価格も、そして経営も制度も安定していない。「良い高齢者住宅・老人ホーム」は、求めるサービス内容や価格帯によってそれぞれに違うが、ポイントとコツを知っていれば、素人経営の事業者か、プロの事業者かを選別することは可能。

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 001


日本の介護問題の本丸は、自宅で生活できない重度要介護・認知症高齢者の増加です。
その指標となるのが、重度要介護発生率が一気に上がる85歳以上の後後期高齢者です。 団塊世代の後後期高齢化によって、85歳以上人口は、2035年には現在の2倍の1000万人に、更に、その3人に2人は独居、高齢夫婦のみの世帯となることがわかっています。その要介護発生率は60%、また4人に1人(25%)は一人で生活することが難しい要介護3以上の重度要介護状態になります。

介護保険制度の要介護度は「必要な介護サービス時間」をもとに判定されるため、要介護1~5は「介護サービス量の違い」「サービス量を増やせばよい」と考える人が多いのですが、実際の高齢者の生活を考えると、それだけではありません。
要介護3以上の重度要介護状態になると「入浴介助だけ」「食事介助だけ」ではなく「移動、移乗、排泄」など日常生活行動すべてにおいて、介助が必要になります。また、認知症になると、不安から急に混乱したり、異常な行動を起こすこともあり、継続的な見守り、適切な声掛けが必要です。自宅で訪問介護や通所介護などの介護サービスの回数を増やすだけでは、その介護生活を支えることは難しいのです。


特別養護老人ホームの整備には莫大な社会保障費と介護人材が必要となるため、需要の増加に合わせて作り続けることは100%不可能です。その待機者は今でも30万人を超えていますが、その数は今後、間違いなく50万、100万、150万人と、一気に増えていきます。
そのため、特養ホームではなく、要介護高齢者に対応できる民間の高齢者住宅の整備が不可欠なのです。

優良な高齢者住宅は、逼迫する社会保障費の圧縮にもつながります。
重度要介護高齢者が集まって生活すると、継続的・包括的、かつ効率的・効果的なサービスが可能となるため、介護人材や介護財政の効率的な運用が可能となります。
「高齢者住宅・老人ホームに入る」というのは特別なことではありません。近い将来、半分以上の要介護高齢者は、民間の高齢者住宅で集まって暮らすことになるでしょう。


制度の混乱・素人事業者の増加

しかし、残念ながら、現状を見ると高齢者や家族が「安心して生活できる高齢者住宅を探す」ということは、そう容易なことではありません。

高齢者住宅を探し始めた高齢者、家族が、まず直面するのが、制度の混乱です。
高齢者住宅の制度には、厚労省の有料老人ホームと国交省のサービス付き高齢者向け住宅があります。その他、特別養護老人ホームやケアハウスなどの福祉施設もあり、「あれは施設だ、こっちは住宅だ・・」と言われても、選ぶ側から見れば何が違うのかよくわかりません。
これは、介護付・住宅型も同じです。
介護付有料老人ホームと住宅型有料老人ホームがありますが、どちらも「介護付だから安心」「訪問介護併設で安心」と同じような説明を受けます。なぜ二つの制度に分かれているのか、どのような基準で選べば良いのか、勉強すればするほど、疑問は深まるばかりです。

二つ目の課題は、事故やトラブルの増加です。
2017年度の介護サービス事業者の倒産件数は111件と過去最高を更新、サ高住の廃業や登録取り消しも263件に上ります。その数は、今後、どんどん増えていきます。現在、経営中の高齢者住宅でも、入居率が半分程度、1/3程度というところは多く、今後も、倒産事業者の増加は避けられない状況です。
高齢者住宅は、要介護高齢者の生活の基盤となる住宅サービスです。事業者が倒産し、食事や介護などのサービスがストップすれば、生活を続けることはできません。
また、「安心・快適」と聞いて入居したはずなのに、「入浴中に1時間30分も放置され溺死」「介護スタッフによる暴言・暴行」「介護スタッフによる入居者の投げ落とし殺人」など信じられないような報道が相次いています。
「高齢者住宅・老人ホームは不安、怖い」という思いはほぼすべての人が持っているでしょう。

高齢者住宅選びの難しさは、三つ目は商品の多様化です。
特別養護老人ホームは、老人福祉施設ですから、全国一律のサービスが提供されています。東京でも大阪でも、翁縄でも北海道でも、サービスの内容は同じです(サービスの質・スタッフの質は違いますが)。
これに対して、同じ介護付有料老人ホームといっても、サービス内容、介護看護スタッフの配置は、それぞれに違います。価格設定も二極化しており、高額な入居一時金が必要な有料老人ホームもあれば、20万円以下で入居できるところもあります。


「高額なところはサービスが良いだろう」と思いがちですが、そうではありません。
プロの目から見ても、「どうしてこのサービス内容でこんなに高額なのだろう…」と首をかしげるようなところもありますし、逆に、「この金額ではまともな経営できないだろう…」「篤志家が私財をはたいてボランティアで行っているのか…」と不思議に思うほど異常に低価格なところもあります。

「大手なら大丈夫だろう」というのも間違いです。
先ほど述べた、浴室での放置死、介護スタッフによる介護殺人が起きているのは、最大手と言われる高齢者住宅、介護サービス企業です。大手事業者の中にも、「実質的に経営もサービスも破綻している」ところもたくさんあります。すべてそうだというわけではありませんが、急速な拡大一辺倒で進められてきたため、介護スタッフの教育や育成ができておらず、「規模は大きいけれど、中身はスカスカ」という素人事業者も多いのです。


どのような視点で選べば良いのかわからない

高齢者住宅事業は、まだ介護保険制度以降に増加した新しいサービスであり、サービスも価格も、そして経営も制度もまだまだ安定していません。加えて、高齢者、家族も、高齢者住宅選びは初めてなので、その多様化しているサービス・商品の中から、どのような基準で選べば良いのか、わからないのです。

「老人ホームの入居無料相談 受付中」などという、老人ホーム紹介業者が増えていますが、これも玉石混淆です。そもそも「老人ホーム紹介業」は、「賃貸住宅の仲介業」とは違い、そもそも中立ではなく、単なる「老人ホーム営業のアウトソーシング」でしかありません。高齢者・家族の相談料、紹介料は無料でも、老人ホームサイドからお金をもらって、入居者を押し込むだけの営業ブローカーが大半を占めます。また、宅建業法のように法整備が全く進んでいませんから、介護も高齢者住宅も知らない素人事業者がほとんどで、入居率の低い有料老人ホーム事業者が、中立を装って「無料相談…」「ご家族のために…」とやっているところもあります。

週刊誌などで、「プロの選ぶ 良い老人ホームランキング」という記事がでますが、これも、まったく信用できません。現在元気なのか要介護状態なのか、預貯金や年金はどの程度あるのかなど、資産や要介護状態、年齢によっても選ぶ高齢者住宅は変わってきますし、「サービスの手厚さ」「24時間看護師常駐」「建物設備の広さ」などで点数を付ければ、高額なところが上位にくることになります。また「認知症対応OK」「医療対応OK」「何でもOK」とできもしないことを言う事業者ほど上位にきます。
先日、多くの雑誌で「良い高齢者住宅・老人ホーム」として紹介されていた有料老人ホームは、前経営者が詐欺罪で告訴され、民事再生法適用となりました。

これは情報サイトなどでも同じです。「認知症対応可・医療対応可」というのはプロが判断してるわけではなく、自己申告です。「どうしてその人員で認知症対応できるのか・・?」と疑問に思うところも少なくありませんし、「24時間緊急医療対応って、何をするの?」と聞いたときに「救急車を呼びます」と真顔で答えた事業者もあります。

高住経ネットにも、「良い老人ホームを教えてほしい」「推奨する高齢者住宅を示してほしい」という声は多いのですが、それは難しい相談です。なぜかといえば、「どのような高齢者住宅が良いのか」は、一人一人違うからです。「あの高齢者住宅は最高です」と、入居一時金が一億円、月額費用が40万円の有料老人ホームを勧められても困るでしょう。


高齢者住宅選びにはポイントとコツがある

このように言ってしまうと、「結局、どうしろというのだ・・」と、八方ふさがりのように思うかもしれません。
しかし、そうではありません。
高齢者住宅選びには、「ポイント」と「コツ」があるのです。
述べたように、「良い高齢者住宅」は、それぞれに違います。しかし、そのポイントとコツを知っていれば、劣悪な素人経営の高齢者住宅か、プロの事業者かを選別することはできるのです。高齢者住宅選びの基本は、「良い老人ホームを選ぶ」という前に「素人事業者を選ばない」ということが重要なのです。
もちろん、そのためには基礎的な知識が必要です。

このコラムは、要介護高齢者を抱え、高齢者住宅への入居を考える家族を対象としたものです。
高齢者住宅のプロは、その経営力やサービス力の何を見ているのか、どこを見ているのか・・
プロの事業者と素人事業者は何が違うのか、どこを見ればわかるのか・・
それが分かれば、そう難しいことではありません。

その勉強を始めていきましょう。


ポイントとコツを知れば高齢者住宅選びは難しくない

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