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仕事の未来① 「IT+AI+ロボット」に脅かされる仕事の価値


技術革新によって消費者は低価格・高品質というメリットを享受できるが、労働者は培ったスキル・ノウハウを浸食されていく。技術革新による産業構造、労働環境の変化は、ITだけでなく、AIやロボットなどの進化によって、加速度的に進む。雇用の未来とは、脅かされるプロフェッショナルの仕事とは・・・

介護スタッフ向け 連 載 『市場価値の高い介護のプロになりたい人へ』 004


技術革新によって変化する「プロフェッショナルの価値」🔗 で、 AIやIT、ロボットなどの技術革新は、仕事・働き方だけでなく、企業・産業、さらには資格の価値までも変えていくことになると述べた。

ただし、この技術革新が、人間の仕事を奪う、培ったスキル・ノウハウの価値を変化させるというのは、目新しい話でも先端技術だけの話でもない。
例えば、昔のアメリカ映画やアニメにでてくる、斧をもった樵(きこり)は、ひげを生やしたハルクホーガンや、ブルーザーブロディのような太い腕、暑い胸板の筋肉隆々の男たちだ。それは、単なるイメージではなく、実際に、斧を振り下ろして太い木を伐り倒したり、それをのこぎりで丸太に挽き切るには、何よりも筋力・腕力が求められたからだ。
しかし、チェーンソーが開発されたことで、力こぶを作って斧を振り下ろす必要はなくなった。2㎏~3㎏程度の軽量のものも多くなり、林業で働く女性も増えている。

製造業も同じことが言える。
私たちが日々生活の中で使う、茶碗や湯飲みは、平安・室町の時代から焼き窯のある工房で、職人が一つ一つろくろを回して作っていた。一日でできる数には限りがあり、それなりに高額なものだった。少し欠けるくらいでは捨てることはせず、割れても接いで使っていた。しかし、現在、その多くは工場で量産型の機械が作っており、100円ショップに並んでいる。味わいや思い入れ、工芸品としての魅力はないが、機能として不足はない。
この半世紀の間に、陶器、磁器だけでなく、私たちの身の回りの日用品を作っていた多くの職人のもつ高いスキルは、オートメーション化された機械にとって代わられている。

私たちは、それぞれ一人一人、【消費者】と【労働者】という二つの側面を持っている。
バブル経済崩壊後、「物価下落 ⇒ 利益減少 ⇒ 賃金削減 ⇒ 物価下落」がループ状に景気悪化の要因となる「デフレスパイラル」という言葉がよく聞かれたが、それは技術革新によって「消費者」と「労働者」のバランスが崩れるときの経済現象であるともいえる。
俯瞰すれば、消費者としては低価格・高品質というメリットを享受してきたが、労働者としては培ったスキル・ノウハウを、技術革新に浸食されてきたということがわかるだろう。
この産業構造、労働環境の変化は、ITだけでなく、AIやロボットなどの進化によって、これまでとは違った速度で進むことになる。


   

10年後、20年後に代替可能となる仕事

2014年、オックスフォード大学でAIの研究を行っているマイケル・K・オズボーン准教授が発表した論文 「雇用の未来」が、大きな衝撃を与えた。それによると、現在、アメリカの702種類の仕事の中で、10年後には47%の仕事が、技術革新によって代替することが可能になるという。
2015年には、野村総研がオズボーン准教授との共同研究によって、現在の国内601種類の職業について試算し、10年~20年の内に、49%の仕事が、人工知能やロボット等で代替されることが可能だという推計結果を発表している。

野村総合研究所 日本の労働人口の49%が人工知能・ロボット等で代替可能に 🔗

これは、「生まれる仕事」は予測できないけれど、「減っていく仕事」「取って代わられる仕事」は、ほぼ予測可能ということだ。この中で、10年~20年後にコンピューター等にとって代わられる可能性が高い、挙げられる仕事を整理すると、いくつかのことが見えてくる。

① 信 用 調 査 系

一つは、金融関係の調査や診断という仕事だ。
銀行のビジネスモデルの基本は、預金を集め、それを資金を必要としている企業・個人に貸し出し、その金利差で利益を上げるというものだ。
貸し出した資金が焦げ付いたり、貸し倒れになると大きな損失となるため、その企業の財務分析、業界分析、リスク、担保価値、金額の妥当性などを調査しなければならない。この「信用調査・融資判断」は銀行業務の根幹であるといって良い。

これを「与信」と言う。
これまで借り入れ申し込みがあると、担当者が稟議書を作成し、融資課長、支店長が印鑑を突いて、金額によっては本部の融資部などに回され、それぞれの経験値による判断でその可否が決定されてきた。
しかし、このような手法では、スピーディに判断することができず、担当者それぞれの能力や支店長の考え方によって、可否の判断は左右されることになる。
また、銀行の融資先は様々な業界に渡るため、その業界の内情や将来性などについて、すべて担当者が理解することは不可能である。結局は、事業の評価ではなく、担保価値や返済能力に重点を置くことになってしまい、金融の多様化という波の中で、銀行離れが進むことになる。

そのため、この与信に人工知能を活用する金融機関が増えている。
担当者は、データを集めるだけで、企業の安定性、業界の未来、金額の妥当性、リスクについて瞬時にAIコンピューターが判断する。 今後は、住宅ローンの貸し出し、保険契約、クレジットカードなどの審査の可否も、すべてAIが判定することになるだろう。
東京三菱UFJ、三井住友、みずほの大手金融機関が、大幅な店舗削減、人員削減に動き出すのは、銀行員が行ってきた「与信」をAIが行うからだ。

② 営 業 ・ 販 売 系 

販売、営業系の仕事も、人員の削減が進むと考えられている。
前回述べたように、生保・損保などの保険商品は、インターネットによる申し込みが一般化している。
一般の物品もアマゾンや価格コム、楽天市場だけでなく、テレビ通販と一体となったジャパネットたかた、ショップチャンネル、QVCなども売り上げを伸ばしており、電化製品から食料品、衣服やジュエリーまで、低価格商品から高額商品まで、特殊なものを除き、インターネットで買えないものはない。
以前は、テレホンショッピングと言い、電話オペレーターが受注確認をしていたが、いまはインターネットショッピングに名称が変わっている。届け先、日時を登録し、インターネットのクリック一つで注文、ロボットが広い倉庫の中を縦横無尽に走るように商品を取りに行き、梱包・発送まで行う。

ネットショップの売り上げが伸びる最大の理由は、価格の安さだ。
有名百貨店は、大都市部の一等地の真ん中に立っており、たくさんの人が働いている。その土地代金や人件費などのコストはすべて商品価格にオンされる。また、一日のうち9時間程度しか営業していないため、商品単価以外のコストが大きい販売方法だと言えるだろう。

確かに、品質が信頼できるということはあるが、電化製品や洋服などは同じメーカーのものであれば、どこで買っても中身は同じだ。また、「お客様」と丁寧に接客、説明してくれるという心地よさはあるが、どれほど優秀な定員さんでも、商品の情報量という面からすれば、ネットショップにはかなわない。
「最近、このカバンが人気ですよ…」というのは、その店だけなのか、どれくらい売れているのかはデータとして明確にわかるし、実際の利用者の評判までも書き込まれている。
今後も、B to C の商品はインターネットの取引割合が増えていくだろう。

定型の商品だけでなく、サービスも同じことが言える。
ネット上には、ホテルの予約サイトが並んでいるが、最近では、その予約サイトの価格比較のサイトがテレビCMで流れる時代だ。
新幹線の座席指定やパック旅行の申し込み、携帯電話の契約などもネットショップに移行している。
対面販売はゼロにはならないが、ネット販売の割合が増えていくことは明らかで、それだけ販売員や、問屋などの営業担当者が減るということだ。

③ 一般事務・ホテル・外食産業

大きく減少するのが、これまで一般事務と呼ばれた仕事だ。
これからは、会計や税務、給与計算、棚卸などの仕事もデータのやり取りだけで完了する。システム化すれば営業成績をまとめたり、それを印刷して配布するといった作業も必要ない。実際、会計や経理の事務職に従事する人は、この15年の間に日本国内だけで100万人以上減っている。

電車の切符を買うのは、全国ほぼすべて自動券売機であり、図書館の貸し出し、ホテルのフロント、映画のチケット販売なども自動化されている。大学病院に行くと、コンピューターの前に並んで受け付けが行われ、支払い時には精算機が、「おだいじに…」と声をかけてくれる。

外食産業でも、労働者の削減が進んでいる。
回転寿司の大手 はま寿司で「いらっしゃいませ」と出迎えてくれるのはロボットのペッパーくんだ。その後、受付から配席までしてくれる。食べたいお寿司を注文するのもタッチパネルで、店員と話をするのは、お皿を数えるのと会計の時だけだ。最近では、このようなスタイルの店が、ファミリーレストランや居酒屋などでも増えている。電子マネーが普及すれば、セルフレジ化も一気に進むだろう。
外食業界も介護業界同様に人材不足に喘いでいる。案内から注文、調理、配膳、支払いまで自動化され、店員さんに会わずに帰る…という時代もやってくるだろう。

④ タクシー・バスの運転手・自動者関係

AIやGPSの精度向上によって、急速に進化しているのが自動車の自動運転システムだ。
路線バスなどの決められたルートを走るバスは、日本でもすでに導入に向けた実証実験がスタートしている。また、宅配大手のヤマト運輸はDeNAと組んで、自動運転技術による宅配の自動化(ロボネコヤマト)の実用化の可能性を探っている。

これは営業車だけの話ではない。
電気自動車が主流になれば、エンジン・クラッチ・変速機などが必要ないため部品点数は半分以下になり、自動車整備工の仕事も激減する。現在、ガソリンスタンドも自分で給油するセルフスタントが増えているが、自宅で充電できるようになれば、ガソリンスタンドそのものが必要なくなる。

その他、監視カメラやセンサー機器の進化によって、警備や監視、メーターなどの点検作業などの仕事は、人の仕事ではなくなる。3Dプリンターは義歯、義足などの技術者を追いやり、ドローンによって地図作成、測量などの仕事も減っている。テニスやバレーボール、サッカーなどでは、すでにカメラによる判定がスタートしており、将来的には「足がかかった、かかっていない」「手に当たったか、当たってないか」といった反則行為にまで、拡大されるかもしれない。

もちろん、ここに挙げられている仕事がゼロになるわけではない。
問題は、単純作業だけでなく、これまで経験や技術が求められたプロフェショナルな職人技や、知的労働もAIやカメラに取って代わられるということである。
それは必要な人員の数が減り、活躍の場所が狭くなると同時に、これまで培った経験や知識、技術の市場価値が低下していくことだ。




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