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地域包括ケアの誤解 ① ~安易な施設から在宅~


間違いの多い「地域包括ケア」。今後、激増するのは自宅で暮らせない独居・高齢夫婦の重度要介護高齢者、認知症高齢者。重度要介護。ポイント介助では対応できないため、包括算定の住まいの整備が不可欠。安易な在宅・自宅への誘導は、介護離職の激増、介護財政の悪化を招く

【特 集】 地域包括ケアは超高齢社会を救う「魔法の呪文」ではない (全8回)


地域包括ケアシステムの目的は、「各市町村がマネジメント力を強化し、その地域ごとに限られた財源や人材を最大限に効率的・効果的に運用することによって、社会保障費の増大を抑制すること」です。その目的、方向性を理解しないまま進めても、長期安定的な理想のシステムは構築できません。
一部自治体にみられる、間違った「地域包括ケアシステム」について、気になるものを3つ挙げます。

その一つは、「施設から在宅へ」という安易な発想です。
『地域包括ケア=住み慣れた地域で生活できるシステム=施設から住宅へ』だと安易に考えている人が多いのですが、これは全くの間違いです。

区分支給限度額方式のポイント介助では重度化対応不可

「地域包括ケアシステム」の中心となるのは、激増する重度要介護・認知症高齢者への対応です。
介護保険法では、要介護1~要介護5と要介護状態が重度になるにつれて、利用できる介護サービス量(区分支給限度額)が増える報酬体系になっています。そのため、重度要介護高齢者、認知症高齢者の増加には、サービス量の増加で対応すべきと考えがちですが、そう単純な話ではありません。
要介護1~2の軽度要介護と、要介護3~5の重度要介護では、必要な介護サービスの内容が違うのです。

重度要介護高齢者、認知症高齢者に必要な介助項目を一覧にしたのが、次の図です。


要支援・軽度要介護高齢者は、排泄や移動など身の回りの日常生活行動は自立しています。そのため、「食事の準備ができない人には食事の準備」「入浴が困難な人には入浴介助」「一人で通院できない人は通院介助」といった、できない項目のみをサポートする「定期介助・ポイント介助」で対応が可能です。事前に作成したケアプランに基づき、「サービス内容」「サービス種類」「サービス時間」を予約して、訪問介護、訪問看護などのサービスを提供します。

しかし、中度~重度要介護高齢者になると、排泄や移動、移乗など、ほとんどすべての生活行動に介助が必要になります。日々の生活行動、体調によって変動が大きく、「毎日、午後2時に排泄介助」といったように事前予約方式のポイント介助では対応できません。特に認知症高齢者になると、想定できない行動が多く、継続的な状態把握、見守り、声掛けなどが重要になってきます。重度要介護高齢者や認知症高齢者の安全な生活を支えるは、食事、入浴、排泄などの「定期介助」ではなく、間接介助や随時緊急対応が中心の、「24時間365日の継続的・包括的な介助」が不可欠となるのです。

重度要介護高齢者対応の住まいを整備しなければ、介護離職が激増

現在、特養ホームなどの介護保険施設の整備にはお金がかかることから、国の方針に従って、「施設から在宅へ…」「最後まで住み慣れた自宅で…」という指針を掲げる自治体が増えています。それどころか最近では、「介護付有老ホームは施設的だからダメ」「個別の訪問介護など在宅サービスで対応するサ高住を推進すべき」と主張している識者も増えてきました。

重度要介護高齢者が激増する超高齢社会において、このような政策は、まったくの間違いです。
「自宅で、在宅で…」という方策を継続した場合、確実に増えるのが「介護離職」です。
重度要介護高齢者、認知症高齢者は、排泄も一人ではできず、テレビも付けられず、最重度になると寝返りもできません。そのため「定期介助・ポイント介助」の量が増えても、生活上不可欠な「臨時のケア」「すき間のケア」「見守り」を行うためには、家族が同居しなければならないからです。

また、表のように、通常の訪問介護は、重度要介護高齢者、認知症高齢者に必要な「臨時のケア」「すき間のケア」、また「見守り、声掛け」などの介助サービスは、報酬算定対象外です。そのため、現在のサービス付き高齢者向け住宅では、軽度要介護高齢者には対応できても、重度要介護高齢者に対応できません。「施設ではなく住宅だから、ポイント介助で対応」「早めの住み替えニーズ」とつくられたサ高住は、重度要介護高齢者、認知症高齢者の増加という社会ニーズには、マッチしないのです。

「これからも特養ホームを作り続けろ」と言っているのではありません。
現在のユニット型特養ホームは、莫大な費用多くの介護人材が必要となる不公平・非効率な事業モデルであり、その問題の根幹は「福祉施策」と「介護施策」を混同していることにあります。
今後は特養ホームではない効率性を重視した低価格・包括算定の「重度要介護高齢者の住まい」を整備していかなければなりません。重度要介護高齢者が集まって生活すると、一軒一軒の自宅に向かう移動時間が必要ないため、一人の介護スタッフが臨機応変に、かつ効率的・効果的にたくさんの介助を行うことができます。
その介護の効率性は、介護財政の削減、効率的運用につながります。

この在宅と集合住宅のバランスは、各自治体で決めていくことになります。
ただ、「高齢者住宅はお金がかかる」「お金がないから在宅で」「高齢者住宅は施設的ではないポイント介助で」という一面的な考え方は、明らかに間違いなのです。




【特集 1】 地域包括ケアは超高齢社会を救う「魔法の呪文」ではない

  ⇒ 地域包括ケアって何だろう? ~なぜ国は方針を転換したのか~ 🔗
  ⇒ 地域包括ケアは高齢者介護の地方分権 ~崩壊する自治体~ 🔗
  ⇒ 地域包括ケアが進まない理由 ~危機意識・責任感の欠如~ 🔗
  ⇒ 地域包括ケアの誤解  ~「施設から住宅へ」の間違い~ 🔗
  ⇒ 地域包括ケアの誤解  ~地域密着型推進の間違い~ 🔗
  ⇒ 地域包括ケアの誤解  ~方針なき「地域ケア会議」~ 🔗
  ⇒ 地域包括ケア時代に起こること ~責任は国から自治体へ~ 🔗
  ⇒ 地域包括ケアは自治体存続の一里塚 ~市町村がなくなる~ 🔗

【特集 2】 地域包括ケアシステム 構築に必要な指針・構成要素

  ⇒ 地域包括ケアシステム 構築に必要な4つの指針 🔗
  ⇒ 地域包括ケアシステム 基本となる構成要素 🔗
  ⇒ 地域包括ケアシステム 構築のプロセス ~長期的な指針 🔗
  ⇒ 地域包括ケアシステム 事業計画作成の5つのポイント 🔗
  ⇒ 地域包括ケアシステム ~設置運営・指導監査体制~ 🔗
  ⇒ 地域包括ケアシステム ~ネットワーク構築の基本~ 🔗
  ⇒ 地域包括ケアシステム ~低所得者・福祉対策の検討~ 🔗

【特集 3】 地域包括ケアの土台となる「地域ケアネットワーク」を推進する

 ➾ 地域包括ケアの土台は、地域ケアネットワークの推進・構築 🔗
 ➾ 地域ケアネットワークの不備が地域にもたらす多大な損失 🔗
 ➾ 地域ケアネットワークのアプリケーションは「クラウド型」🔗
 ➾ クラウド型 地域ケアネットワークの特徴とメリットを理解する 🔗
 ➾ 地域ケアネットワーク構築例 Ⅰ ~情報発信・共有・管理~ 🔗
 ➾ 地域ケアネットワーク構築例 Ⅱ ~サービスマッチング~ 🔗
 ➾ 地域ケアネットワークがもたらす直接的効果とその広がり 🔗
 ➾ 地域ケアネットワークの推進方法 ~地域包括ケアのプロセス~ 🔗
 ➾ 地域ケアネットワーク 導入までの流れ・協力事業者の選定 🔗






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