RISK-MANAGE

介護事故 ケアマネジャー・ケアマネジメントにかかる法的責任


介護保険の根幹であるケアマネジメントは、リスクマネジメントと一体的な関係にあり、介護事故の発生に対しては、重い法的責任が科せられている。ケアマネジャー個人が刑事罰(業務上過失致死)に問われた判例をもとに、ケアマネジメントの法的責任について考える。

管理者・リーダー向け 連載  『介護事業の成否を決めるリスクマネジメント』 049


「介護事故」と言えば、「介護サービス上のミスによる事故」と考える人が多いのですが、述べてきたように法的責任の判断の基準は、「安全配慮義務を満たしていたか否か」です。その「予見可能性」と「結果回避義務」の判断に大きく関わってくるのが、ケアマネジャーの行うケアマネジメントです。
ケアマネジメントは、介護事故対策の根幹であるといって良く、介護事故が発生した場合、ケアマネジャーにも重いサービス提供責任がかかってきます。
ケアマネジメントの重要性と、介護事故発生時の法的責任について整理します。

ケアマネジメントの基礎は、「安全な生活」

多くの高齢者住宅で「安心・快適」が標榜されていますが、その基礎となるのは「安全な生活」です。
要介護高齢者といっても、身体状況、ADL、認知症の有無、疾病の有無、性格、生活への希望は一人一人違いますから、それぞれの要介護状態に合わせて、安全な生活、安全な介助のもととなる「指針・計画」を作成しなければなりません。
その個別ケアの実践を検討する作業全体をケアマネジメントと言い、その過程や成果を書類にまとめたものがケアプラン、その策定支援を中心となって行うのがケアマネジャーです。
ケアマネジャーの業務と、ケアマネジメントにかかる法的責任のポイントを4つ挙げます。

① アセスメント・モニタリング

一つは、入居者一人一人の要介護状態の把握と課題分析です。
健康状態(既往歴、症状)や、ADL、IADL、認知症の有無、コミュニケーション能力などから、その高齢者の生活課題を把握していきます。
ここで起き上がりや移乗、移乗、食事、入浴、排泄などの現状の生活行動の現状把握だけでなく、転倒や転落、誤嚥・窒息、溺水などの事故リスクや、他の入居者との関わりやトラブルの可能性について分析、判断します。
お分かりだと思いますが、このアセスメント・モニタリングは、安全配慮義務の「予見可能性」に直結するものです。ケアマネジャーは、介護保険制度に基づく公的資格の保持者であり、よほど特別なものでない限り、「リスクに気が付かなかった」ということにはなりません。アセスメント、モニタリングの基礎は、「事故リスクの予測・把握」です。

② 安全を前提としたケアプラン原案の作成

二つめは、安全な生活を基礎としたケアプラン(原案)の作成です。
ケアプランは、個人の生活リズム、一日の流れに合わせて、必要な介護、看護サービスを当て込んだものではありません。①で示した、アセスメント、モニタリングから想定される事故リスクを回避、軽減するために、生活環境の整備、必要となる介護サービス、それぞれの介助の項目・注意点について、詳細に検討しなければなりません。それが専門職種であるケアマネジャーの最大の役割です。
これは、安全配慮義務の「結果回避義務」に相当するものです。介護事故が発生した場合には、ケアプランの中でどこまで事故リスクについて詳細に検討されたか、その事故回避の方法が適切なものであったかが、重要なポイントとなります。

③ ケアカンファレンス・本人・家族への説明

三点目は、ケアカンファレンスです。
②で示したケアプランは、あくまでもケアマネジャーが作成した原案です。これを元に、実際にサービス提供を行う介護看護スタッフ、生活相談スタッフ、栄養士(食事サービス)などが集まって、入居者の状況把握とともに、事故予防の観点から介助の注意点、ポイントを議論し、共有しなければなりません。
また、「転倒のリスクがある」といっても、一人の入居者にスタッフが24時間365日付き添うことはできません。認知症高齢者は「予測不可能行動をすることは予見可能だった・・」といっても、どのような行動にも対応できるようにケアをすることは不可能です。そのため、本人や家族に、②で示した事故予防の方法やその限界、リスクについて、丁寧に説明しなければなりません。
ケアプランは契約であり、「絶対に事故を起こすな」「24時間付き添って転倒させるな」と言われると、ケアマネジメント、介護サービスの契約はできません。ケアプランの原案について承諾するか、その内容で介護サービスの契約を行うのか否かは、本人、家族が決めることです。
必然的に、これは安全配慮義務の「自己決定」と大きく関わってきます。

④ サービスの管理、確認、見直し

四点目は、適切なサービス提供の管理です。
ケアマネジャーの仕事は、ケアプランを作ることだけではありません。ケアマネジメントや介護サービスの契約締結後、③で契約したケアプランに基づいて安全に各種サービスが提供されているか、リスクが回避、軽減されているかを確認、管理することも含まれます。特に、要介護高齢者が新しく高齢者住宅に入居する場合は、周囲の生活環境が大きく変わり、事前のアセスメントとは違う課題がでてくるため、それに対するケアプランの修正も必要です。
実際にケアプランとは違う時間帯、内容で、不適切、危険な介護サービスが提供されているのを知りながら、それを放置し、事故が発生した場合、ケアマネジャーにも法的責任が及ぶことになります。

ケアマネジメントの不備が増大させる事故リスク

以上、4つのポイントを挙げました。
介護事故を予防し、法的な「安全配慮義務」を果たすためには、ケアマネジメントがその実務の中核になるということがわかるでしょう。
しかし、現在の高齢者住宅のケアマネジメントの中には、その役割や重要性、法的責任を理解しない杜撰なものが少なくありません。

その一つは、「ケアマネジメントを無視した入居契約」です。
本来、要介護高齢者の場合、ケアプランの契約合意ができなければ、入居契約をすることはできないはずです。介護サービスの契約をしないまま、入居させることになるからです。
しかし、現在の高齢者住宅の中には、入居者確保のために、「午前中に退院許可、午後には入居可能」というところもあります。それは、アセスメントやケアプランの作成もせず、またケアカンファレンスも行わないまま、要介護高齢者を受け入れるということです。

「家族から介護虐待を受けている要介護高齢者の緊急措置入所」のように、特養ホームでは事前のケアマネジメントが難しいケースもあります。
しかし、高齢者住宅で、ケアマネジメントを行わないまま入居契約をするということは、「予見可能性の検討」「結果回避義務の検討」「自己決定の検討」などの、リスクマネジメントの対策を全く行わないままに受け入れるということですす。状況把握さえ行っていないのですから、事故発生のリスクは格段に高くなりますし、法的責任を回避する手段を事業者自ら放棄しているのですから、重大事故が発生した場合、民事、刑事、行政ともに、その責任、罰則は大きなものとなります。

もう一つは、「ケアカンファレンスの不備」です。
現在の介護付有料老人ホームの中でも、忙しいからと、法的に定められたケアカンファレンスが行われておらず、「ご家族は印鑑を押して返送してください」と、家族に対する説明を行っていないところもあります。しかし、それは高齢者、家族の自己決定のプロセスを奪っている、言い換えればリスクマネジメントの重要な手段を放棄しているということです。

上記の③で述べたように、24時間365日、付き添うことができない以上、事故を100%回避することは不可能です。そのために、「どのような予防策をとっているのか」「予防策の限界」「残るリスク」などについて、丁寧に説明し、相互理解の上で契約しなければなりません。
「ケアプランは契約だから、それを読んでサインしている時点で家族も合意しているはずだ」などと嘯くケアマネジャーもいますが、必要なケアカンファレンスを開いていない、丁寧に事故リスクを説明していない時点で、そのような言い訳が認められるはずがありません。

ケアマネジャーが業務上過失致死に問われた事例

繰り返しになりますが、このケアマネジメントも重要なサービスの一つであり、事故リスクに対して重いサービス提供責任を負っています。言いかえれば、直接介助に携わっていなくても、要介護高齢者の事故に対して、ケアマネジャーは非常に重い責任を負うということです。
実際に、ケアマネジャーが業務上過失致死に問われた、入浴事故を例に挙げます。

ある2012年2月、ある介護付有料老人ホームで入浴死亡事故が発生。
要介護2の女性入居者が、ホーム内の浴室でうつぶせの心肺停止状態で見つかり、緊急搬送先の病院で死亡が確認されました。
この入居者は、パーキンソン病で入居以降、転倒を何度も繰り返しており、入浴時には「本人の様子を見ながら必要であれば、洗身、洗髪を行う」とされていたものの、実際には入浴中に一度も、確認・見守りが行われていませんでした。1時間20分にわたり一人で入浴させて放置した(忘れていた)結果、水死(溺水)に至ったと判断されたものです。

入浴事故の概要・ポイント
 ① 女性入居者(パーキンソン病 要介護2) 転倒多い(1年2ヶ月の間に46回)
 ② 2時15分頃に入浴、80分後に浴室でうつぶせ状態で発見。
 ③ 80分の間、見守りもケアも全く行っていなかった。
 ④ 当初、家族に「10分間目を話した隙に病死」と虚偽の説明
 ⑤ 事件発覚後、警察に対しては、「手が回らなかった」と説明

入浴は、ヒートショックによる急変や、浮き上がりなどによる溺水、滑りやすい浴槽内での転倒など事故が発生しやすく、かつ重大事故に至るケースが多いことが知られています。そのため、警察は「一人で入浴すれば溺れる危険があったことは、当時の職員には十分に予見が可能であった」と判断し、当時、入浴を担当した介護スタッフ2名だけでなく、適切なサービス管理を怠ったとして、ケアマネジャー、管理者、合わせて4人を業務上過失致死で書類送検しました。
特に、この死亡事故では、当初、遺族側に対し「目を離したのは10分間だけで、浴室のなかで心肺停止で発見された。病死の可能性が高い」などと説明するなど、施設全体で隠蔽工作を行ったこともあり、悪質性が高いとして、起訴を求める意見書を東京地検に付けています。

この事業者は、遺族に対して「ほかにも入浴者などがおり、とても手が回らなかった」と説明しており、他にも日常的にこのような危険なケア、杜撰なサービス管理が行われていたことがわかります。起訴されれば裁判となりますから、実刑にはならなくても、執行猶予付きの有罪になる可能性が高いでしょう。そうなると、行政上の責任として、ケアマネジャーや介護福祉士などの資格も、停止、はく奪となり、せっかく勉強して取った資格も失うことになります。

この安全配慮義務は、損害賠償請求の民事上の責任だけでなく、業務上過失致死などの刑事上の責任でも考え方は同じです。「介護事故は介助ミスだけ」「すべての事故をゼロにはできない」といういつまでも甘い認識では、実際に死亡事故が発生すれば、介護事故の責任は民事だけでなく、ケアマネジャーや管理者個人の刑事罰、行政罰にも及ぶことになるのです。

この事件が起訴、判決となれば、社会的なニュースになるでしょう。「ケアマネにそこまで責任を負わせるのか」「給与が安いのに・・大変な仕事なのに・・」と反発する人もいるかもしれません。
しかし、ケアマネジャーは一定の経験や知識を有する有資格者、介護のプロであり、同様に、入居者が安全に生活できるようにケアプランを策定するのがその役割です。このケースでは、十分に事故が予測されていたのにかかわらず、ケアカンファレンスだけでなく、基本的なアセスメントやモニタリングさえ、きちんと行われていなかったのではないかと推察されます。

最近は、AIにケアプランを作成させるという案もでていますが、それはあくまでも原案の元案でしかありません。それを修正して、また本人や家族にそのリスクの課題を説明するのは、専門職種であるケアマネジャーの責任です。「ケアマネにそこまで責任を負わせるのか」ではなく、「ケアマネジャーは重大な責務を負う仕事であるからこそ、その専門性を報酬単価で高く評価すべき」という議論をすべきなのです。




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