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地域ケアネットワークがもたらす直接的効果とその広がり


地域ケアネットワークは、自治体・介護サービス事業者にとって業務改善、経費削減、収益性向上などの直接的な効果・メリットをもたらすだけでなく、効率的な財政運用、地域の関連サービス事業所の一体的・包括的な「チームケアの実践」といった、地域包括ケアシステムに向けた高い効果もたらす。

【特 集】 地域包括ケアの土台となる地域ケアネットワークを構築する 007 (全9回)


地域ケアネットワークの構築の目的は、事業者間の「連携・連絡網の整備」「情報共有体制の見直し」という漠然としたものではありません。「地域包括ケアシステム構築」の目的に沿ったより実務的なものであり、自治体だけでなく、地域内の各業界団体、各サービス事業者、更には高齢者・家族にも直接的なメリットのあるものでなければなりません。その目的が整理・理解できていなければ、「現状の連絡網だけで十分…」「わざわざ新しいもの必要ない…」という声が必ずでてきます。
まずは、地域ケアネットワークがもたらす直接的な4つの効果・メリットから見ていきます。

地域ケアネットワークがもたらす直接的な効果・メリット

一つは、業務連絡・連携の強化です。
地域ケアネットワークは、行政、各種業界団体、介護サービス事業所だけでなく、高齢者に関する様々なサービスを提供する全ての法人、事業者が参加する包括的なネットワークシステムです。訪問介護、通所介護、ショートステイ、訪問診療といった事業所間だけでなく、診療所の医師やMSW、ケアマネジャー、薬剤師、高齢者住宅などの多職種間、更には市町村や都道府県、医師会、看護協会、老人福祉協議会、薬剤師協会など業界団体間を含み、域内の高齢者・介護に関する多様、マルチな情報発信・情報共有が可能となります。


二つ目は、適切な情報の管理・集約です。
情報は適切なルールに基づいて管理・蓄積されなければ、混乱・錯綜の原因となります。
例えば、情報ルールがなくFAXやメール、ホームページなどでの一方的な告知の場合、全事業者に介護報酬改定の説明会の案内を伝達できたかどうかもわかりませんし、会場や時間が変更になった場合、その変更を周知することも容易ではありません。どの程度の人数が来るのか、事前に把握できなければ配布資料をたくさん準備しなければならず、手間や廃棄が増えます。事業者側も重要な説明会・研修会を見落としていたり、必要な届け出の期日が過ぎてしまいペナルティを受けるなどのリスクも発生します。

包括的なケアネットワークができると、研修会やイベントの参加・不参加の確認・管理が容易になり、正確に情報を発信・管理できます。参加後のアンケートも従来のようにその場で紙ベースでバタバタ書かせるのではなく、ネット上で行えるため、じっくり考えて回答するため、事業者の希望・評価・ニーズを的確につかむことができます。事業者にとっても、研修や勉強会、知っておくべきニュースなど、域内で必要な情報はすべてケアネットワークの中で一元的に集約されていますから、「知らなかった」「気が付かなかった」ということがなくなります。
情報ルールの策定は、「言った・言わない」「聞いていない」ではなく、その発信・共有・管理の責任を明確にすることだといって良いでしょう。


三つ目は、経費削減・業務の効率化です。
述べたように、これまで要介護高齢者・家族から「デイサービスの新規利用」の依頼があった場合、ケアマネシャーは、そのエリアのデイサービスに電話をかけて空き情報を確認し、空きがなければ他の事業者に依頼し、それを利用者・家族に確認して・・・という非常にアナログなマッチングの方法をとっていました。ショートステイも同様で、緊急ショート、特に低価格の四人部屋の特養ホーム併設のところはそう簡単に見つかりませんから、相当の手間と時間をかけて探さなければなりませんでした。一方の事業者サイドでも、「新規開設」「空き情報」「サービスの特徴」の周知は難しく、どれだけの効果があるのかもわからない一斉メールやFAX、その人員に費用をかけなければなりませんでした。

共通のルールに基づく「地域ケアネットワーク」が整備されていれば、サービス空き情報が一括してデータ化されていますから、時間をかけてショートステイやデイサービスを探すという必要はありません。また、各種研修だけでなく届け出の提出期限、新規事業者の内覧会などの情報の周知に関しても、情報発信、情報確認に必要なコストを大きく削減することができます。


四つ目は、サービス・収益の向上です。
地域包括ケアシステム構築の目的の一つは、限りある地域の社会資源を効率的・効果的に活用することです。しかし、これまでのケアマネジャーや相談員などの個人的な人間関係に依存したアナログ的な方法では、効率的・効果的なマッチングができず、多くのサービスロスが生まれていました。それは地域全体のサービスロスであり、各介護サービス事業者からみれば、「収益機会の損失」です。利用状況・空き情報が迅速に周知できることで、サービスロスを最大限に減らすことができるため、各事業所の収益は間違いなく向上します。


以上、地域ケアネットワークがもたらす効果・メリットを四つ挙げました。
その効果・メリットを考えると、 「連携・連絡網の整備」「情報共有体制の見直し」といった漠然としたものではないということがわかるでしょう。
ただ、これはあくまでも、「情報共有システム」がもたらす直接的なメリット、各サービス事業所の収益性やコストカットなどの金銭的な効果でしかありません。
もう一つ重要になるのが、情報ルールを一本化したネットワークの構築がもたらす地域の一体感、「チームケア」を土台とした地域包括ケアシステムの構築です。

地域ケアネットワークによる地域包括ケアシステムの進化

その一つは、適切なケアマネジメント・リスクマネジメントを基礎とした地域の介護サービス事業者全体の業務改善、サービスの底上げです。
例えば、新規利用者の緊急ショートステイの場合、利用の空きがあっても、十分にアセスメントができないままの利用となるため、転倒事故や他の入居者とのトラブルリスクが高くなります。そのため、実際、空所があっても、新規利用者や認知症高齢者は断られることがあります。それは事業者にとっても、利用者にとっても大きな損失です。

事前に情報ルールとして、「利用検討のための情報提供の内容を定める」「ケアマネジャーが家族に対して十分にリスクを説明して理解を得る」といったルールを定めておけば、スムーズな緊急利用を促進することができます。転倒や転落などの介護事故によるトラブルは、ひとつの事業者だけの問題ではありません。ケアマネジャーや相談員を含め、「利用者・家族に事故リスクを丁寧に説明する」「事故リスクを基礎としたアセスメントを行う」ということを地域全体で取り組むことができれば、介護事故やそれを原因とするトラブルを大きく減らすことができます。

もちろん、「説明すれば事故責任は免責」というものではありません。しかし、事業者サイドに直接的なミスがなくても、認知症高齢者や要介護高齢者の生活上の転倒や転落などの事故は発生しますし、そのリスクを事前に家族に丁寧に説明しておけば、大きなトラブルになることはありません。
介護サービスは契約ですから「絶対に事故を起こすな…」「転倒させるな…」と言われると、サービスを提供することはできません。無理難題をいう高齢者や家族の問題は、個別事業者の問題ではなく地域課題としてとらえなければなりません。情報ルールに基づく取り組みは、地域の介護サービス全体のリスクマネジメント向上、サービス向上につながり、それは地域で働く介護スタッフ、介護サービス事業者の一体感につながり、利用する高齢者・家族の満足度の向上につながるのです。

もう一つは、実務的な地域介護計画、地域包括ケアシステム構築への活用です。
すべての地域で、要介護高齢者はどんどん増えていきますが、これまでのように「サービス需要が二割増えたので、全体のサービスを二割増やす」というようなことはできません。マッチング機能を高めることで既存サービスの効率的・効果的な利用を促進することが必要ですが、それでも、必ずどこかでサービスが不足し、利用できない状況になっていきます。

この「地域ケアネットワーク」が構築されれば、「A地区ではデイービスが足りない」「ショートステイの緊急利用に対応できていない」といった情報が蓄積されていきます。更には、「貧困の独居認知症」「介護虐待への対応」など、一人のケアマネジャー、ひとつの介護サービス事業所では対応できない問題が見えてきます。蓄積された情報によって全体の「地域包括ケアシステム」としての課題が可視化できることで、これまでのような「特養ホームが足りない」「在宅医療・ターミナルケア推進」という場当たり的な整備計画ではなく、効果的な対策・資源の投入が可能なるのです。
それ以外にも、課題の可視化は、同一法人内・事業所内でのケアマネジメントを無視した囲い込みや、サ高住や住宅型など高齢者住宅での不正請求など「不正競争の摘発・防止」にも役に立ちます。


逆の視点に立てば、その地域全体の情報を集約し、蓄積できなければ「場当たり的な介護計画」「各種団体からのみの要望」となり、限られた財源・人材を公平・公正に、効率的・効果的に活用することなどできないのです。地域の情報を一元的・包括的に集約・管理し、検討することで、業界団体、業種、法人、地域の高齢者・家族の視点に立った、一体的・包括的な「チームケア」が初めて実戦できるのです。
「地域ケアネットワークが地域包括ケアシステムの土台になる」といった意味がわかるでしょう。

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