地域ケアネットワークにどのような機能を持たせるのかは、各自治体で考えるべきこと。ただ概念、概論だけではイメージが難しいため、一例として、私たちが策定を検討している地域ケアネットワークシステム「KaIT」の機能について、サービスマッチングの機能を紹介
【特 集】 地域包括ケアの土台となる地域ケアネットワークを構築する 006 (全9回)
私は、地域ケアネットワークの基本的な機能・目的は、大きく分けて二つあると考えています。
一つは、地域ケアネットワーク 構築例 ① ~トップ・情報共有~ で述べた、「情報の見える化」による連帯の強化、サービス向上です。
介護サービスは、事業所単位で利用者やスタッフが限定されていることから、サービス上の課題や問題点が表面化しにくい閉鎖的な経営・サービス環境にあることを自覚しなければなりません。その結果、介護サービス事業者やそこで働く介護看護スタッフは内向きになりがちで、「私たちは頑張っている!」「これまでもこの方法でやってきたから!」と、サービスの改善が進みにくい傾向にあります。
それは、介護労働環境も同じです。介護サービスといっても、法人や事業所によって給与体系や働きやすさは全く違い、「離職率」は二極化しています。しかし、一つの劣悪な環境の介護サービスで半年働いただけで、「介護の仕事は大変だ」「介護はブラックだ」と辞めてしまう人が多く、それがSNSなどで発信され、マスコミでも取り上げられるため介護の仕事に人気がない一因にもなっています。
域内で様々な情報が共有されるようになると、他の事業所がどのような取り組みをしているのか、どのような工夫をしているのかが見えるため、事業所だけでなく、働く介護スタッフにもサービス向上の意欲が高まります。それは、業態団体、法人の枠を超えて地域連帯・連携の強化、一体感の醸成、さらには地域全体のサービスの向上につながります。
逆に、サービス向上や労働環境の改善など、経営努力・資質の向上ができない事業所や、向上心のない介護スタッフは淘汰されていくということになります。
そして、もう一つの重要な機能・目的は、マッチング機能の強化による効率的・効果的な地域包括ケアシステムの構築です。
繰り返し述べているように、これまでの全国一律ケアシステムから地域包括ケアシステム移行への最大の目的は、膨張する高齢者介護・医療費を抑制し、限られた財源・人材を効率的・効果的に運用することで、その地域に公平・公正で質の高い介護システムを構築することです。そのためには、自治体は地域全体の介護サービスの質を高めるとともに、「使いたい人」が上手く必要なサービスにアクセスできるよう、また各サービス事業者が「空き情報」「サービスの特性」を周知できるように、マッチング機能を高めていかなければなりません。
前回、概要を説明したように、トップページから「施設系」「住宅系」「訪問系」「通所系」「短期入所系」など、サービス種別・サービス内容ごとに域内サービスが検索できるようになっています。そこからケアマネジャーが入って、必要なサービスを素早く探すことができます。
引き続き、KaITの検討例をもとに、ここでは通所系サービスのマッチング機能を見ていきます。
介護サービスへのマッチング機能 (通所介護 例)
トップページの域内サービス 情報検索から通所サービスをクリックすると域内の利用できる通所サービス事業者の名称、所在地、対象リア、種別(通所介護、通所リハなど)、おおよその空き情報が一覧ででてきます。
そこから、対象エリア、種別、利用曜日などで空き情報を検索していきます。ここでは、それぞれの対応エリアを区別に示していますが、学区や町内などで細かく指定することもできます。それは、一度設定すればそのままというものではなく、利用者の増減や送迎ルートなどに合わせて、各サービス事業者が臨機応変に変更することも可能です。また、送迎者の都合で、「利用の空きはあるけど、車いす利用者は不可」といったケースもありますから、「車いす利用可・不可」も設定することができます。
検索した情報の中から事業所名をクリックすると、各事業者ページに移動します。
まず、事業所名称の右側に上がってくるのが「最終更新日時」です。
最終更新日時を見れば、各サービス事業者から発信された情報が「いつ時点の情報なのか・・・」がわかります。
この地域ケアネットワークの事業者ページは、ホームページではなく、リアルタイムの情報共有・マッチングを目的としたものです。そのため「一か月前、半年前」の情報は全く役に立たず、無意味というよりも邪魔なものです。そのため、できれば変更に応じて随時、変更がなくても、最低でも一週間に一度は見直しを情報ルールとして定めたいものです。
この最終更新日時は、上記の事業所検索で反映させることも可能です。
その下にあるのが、当該事業所の地図情報と事業所概要です。
所在地、電話・FAX番号の他、ホームページやFBなどへのリンク、定員、営業時間、定休日などの概要、各ケアマネジャーから利用依頼を行う相談員などの担当者名がわかるようになっています。ただ、ここは一般向けに開示されたホームページではありませんから、代表の連絡先ではなく、各担当者のメールアドレス、担当先の電話番号を記入することになります。
三段目はサービス空き情報です。
ここで曜日ごとのサービス空き情報を一覧でわかるようにしています。曜日ごとの空き情報を〇、×で示している他、備考として「火曜日はリフト車での送迎ができない」「月曜日は〇〇地域の方に限定」など空き情報に関する注意点を記入しています。
四段目は、「食事内容に自信あり」「レクレーションへの充実」「リハビリの個別対応」といった当該通所介護サービス事業所のセールスポイントや特長を、五段目には医療管理が必要な高齢者、認知症高齢者に対するサポート体制や受け入れの可否を記入しています。
上記の例は、通所介護ですが、訪問介護、訪問看護などの訪問系サービス、ショートステイや介護保険施設、高齢者住宅でも同じです。
例えば、訪問介護の場合、対象エリアや希望する曜日や時間帯、生活介護・身体介護などを選択して、対応できる訪問介護事業者を絞り込むことになりますし、訪問診療の場合、対象エリアや診療科目、希望する曜日・時間帯などをもとに対応可能な診療所を検索します。ショートステイでは、生活介護・療養介護の選択や、利用予定月や日程、個室・相部屋、緊急利用の可否などを絞り込んでいきます。緊急利用の場合の注意点、ターミナルケアへの取り組みについても、事業所ページで示していくことになります。
もちろん、最終的な確認や申し込みは、それぞれの事業者に電話などで直接連絡することになりますが、緊急利用や新規利用の場合でも、事前に検索して絞り込むことができますし、利用者宅への訪問時にタブレット端末を操作して、「ここなら空いていますよ…」「このような雰囲気のところですよ…」と高齢者・家族に示しながらサービス選択を行うことができます。このケアネットワーク内の情報量には限界がありますが、各サービス事業者の開設しているホームページにもリンクを貼って、実際の雰囲気などより多くの情報を提供することができます。
それ以外にも、この「地域ケアネットワーク」のアプリケーションの情報として「介護保険制度の仕組み」「介護保険で利用できるサービス」、更には「介護保険とは」「訪問介護とは」といった共有できる簡単な説明資料をつくっておけば、ケアマネジャーも口頭だけでなく、その画像や動画を見せながら説明できます。
高齢者・家族の介護サービスに対する理解が早まりますし、ケアマネジャーの説明時間を短縮することができるでしょう。この包括的・有機的なネットワークによってマッチング機能が強化されれば、ケアマネジャーや各サービスの担当者の業務は相当軽減されますし、「ミスマッチによるサービスロス」が格段に減りますので、各サービス事業者の利益・収益も向上します。
ウエイトリストから効果的なサービスの整備へ
もう一つ、重要なのが、「双方向のマッチング機能」と「マッチング不成立ケースの蓄積」です。
地域ケアネットワークによるマッチング機能は、「各サービス事業者の空き情報をケアマネジャーが探しやすくする」という一方通行の一面的ものではありません。通常のマッチング機能だけでは空き情報が見つからない場合、ケアマネジャーから【通所介護】【中区谷岡町】【車いす利用】【要介護1】などと、個人が特定されない範囲で、通所介護サービスを探している情報を発信することができます。この「サービス希望リスト」を見た通所介護の事業者側から、「中区は対象外にしているけれど、火曜日なら谷岡町の近くまでいくので送迎は可能だな」と判断し、ケアマネジャー宛に連絡し、より高いレベルでの個別のマッチングを進めることができます。
特に、入院・施設入所などで突然のキャンセルが多いショートステイではより効果を発揮します。このケアマネジャーから発信される「サービス希望リスト」を見れば、「5月12日から一週間だとマッチングできるな」「途中で部屋の変更が必要だけど、それがOKなら2週間でもとれるな」と判断できるからです。
更に重要なのは、域内で「必要なサービスが見つからない」という情報が蓄積されることです。
各種サービスを提供する介護サービス事業者、介護サービスを探しているケアマネジャー双方から、情報を提供してもマッチングができないということは、「その地域には、求めるサービスが不足している」ということを示しています。そうすれば、ビジネスにおいて最も重要な「どこに需要があるか」をキャッチできますから、「デイサービスで、もう一台車いす利用対応の送迎者を増やそう」「火曜日だけは中区も対象にしよう」「ヘルパーを増員して、北区での訪問活動を開始しよう」という経営判断ができます。
それでも、そのリストが消えないということは、「その域内には対応できるサービスがない」ということです。 そのリストからは、単なるサービスの供給不足だけでなく、低所得者対策の不備、老人福祉対策の遅れなど、様々な課題が見えてきます。
これまでのような、漠然とした「ケアマネが足りない」「ヘルパーが足りない」ではなく、「中区地域にヘルパーを使えない人が5人を超えた」「東区では認知症デイの待機が10人になった」と、地域や数字を明確にして、その課題を掴むことができるのです。それをもとに、「地域ケア会議」で検討を行い、「足りないから増やす」ではなく、「何が最も効果的・効率的な対策は何か」「この地域の地域包括ケアシステムをどうマネジメントしていくのか」が見えてくるのです。
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