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資格を通じて、介護のプロとしての視野と世界を広げる


未経験の場合、始めから国家資格や介護支援専門員の資格が得られるわけではなく、また「国家資格を取れば上がり」というわけでもない。高齢者介護は「人間が人間を支援する」ものであり、資格は技術・知識を得るだけでなく「介護のプロ」として人間力・視野・世界を広げることができるツール。

介護スタッフ向け 連 載 『市場価値の高い介護のプロになりたい人へ』 021


このコラムを読んでいる中には、30代、40代で介護業界に転身を考えている人もいるだろう。
「社会福祉士」「介護福祉士」などの国家資格を取得することは容易ではなく、少なくとも3年~5年程度はかかるだろう。介護支援専門員になるには、少なくとも5年の実務経験が必要となる。

ただ、介護の現場で働くのであれば、特養ホームやデイサービスなど、介護資格の必要のない職種であっても、「介護職員初任者研修」は、できるだけ早く、必ず受講しなければならない。
それは「プロの介護」と「家族の介護」は基本的に違うものだからだ。 「介護は家族でもやっているから難しくはない」「介護は知識・技術よりもやる気だ」という人がいるが、これは間違っている。 レストランに食事にいって、普段、家で食べているのと同じ料理がでてくれば、それは「プロの仕事」とは言わないだろう。「介護のプロになる」ということは、それを生業にしてプロのサービスを提供するということであり、その基礎となるのは専門職種としての知識・技術だ。

また、介護は「安全配慮義務」「サービス提供責任」が求められる仕事 🔗 で述べたように、高齢者介護は一瞬のスキ、小さなミスが骨折や死亡などの重大事故に発展するリスクの高い仕事である。例えば、入居者をベッドから車いすに移動させようとして失敗、転倒させて頭部打撲で死亡となれば、業務上過失致死に問われることになる。この業務上というのは、仕事上という意味ではないが、「新人だから…無資格なんで…」というのは関係ない。
介護は無資格、未経験でも行うことはできるが、リスクの高い、責任の重い仕事だということがわかるだろう。「介護職員初任者研修」を受ければ、介護のプロとしての基礎・基本を学ぶことができる。それは介護労働者として身を守るために最低限必要な知識・技能だと言える。

高齢者介護の仕事をする上で、資格は「必要なもの」というよりも、自分の身を守るための「基礎・土台になるもの」だと言ってもよい。 その土台・基礎ができれば、そこからステップアップと広がりを考えることになる。


ステップアップ・広がりをイメージ・意識する

「介護職員初任者研修」を終了すれば、そこから「介護職員実務者研修」「介護福祉士」などにステップアップしていくことになる。
介護福祉士、社会福祉士などの国家資格を取れば上がりと言う訳ではなく、「認定介護福祉士」「認定社会福祉士」の研修・資格制度がある。また、ケアマネジャーの上位資格である主任ケアマネジャーは、地域包括支援センターでは配置が義務付けられており、居宅介護支援事業所の事業所加算にも必要となる「必置資格」でもある。

このステップアップは、上位資格の取得だけではない。
詳細については後述するが、市場価値の高い介護のプロを目指す3つの視点 🔗 で述べたように、これからの介護人材に求められているのは、排泄介助、入浴介助といった「個別の介護技術・知識」ではなく、それを基礎とした「介護マネジメント能力」である。この介護マネジメントは、個別の要介護高齢者の生活向上・サービス向上を基礎とした「ケアマネジメント」、事故やトラブル、クレームの発生予防・拡大予防にかんする「介護リスクマネジメント」、そして、人材管理・収益管理などを行う「介護経営マネジメント」に分かれる。介護のプロとしての市場価値を高めるためには、介護の知識・技術を土台にしたこの3つのマネジメント力を強化するための学びが必要となる。

例えば、ケアマネジメントは、アセスメントを通じて課題を抽出し、安全な生活環境を整えるのが仕事だ。
そこで福祉用具専門員の資格を持っていれば、福祉用具や介護機器に関する知識は大きく広がる。「Aさんにはこの車いすは合っていない」と気づくだけでなく、「どのような視点で選べば良いのか」「安全に利用するにはどうすればよいか…」といったより専門的なアプローチが可能となる。「住環境コーディネーター」の資格を取得すれば、「この段差は転倒のリスクが高い」「どこに、どのような形状の手すりをつければ転倒リスクが減るか」ということが見えてくる。

介護リスクマネジメントも、これからの介護経営には不可欠なノウハウ・能力の一つだ。
消防庁が行う「救命講習」、日本赤十字社の「赤十字救急法基礎講習」「赤十字救急法救急員養成講習」などを受講すれば、応急処置について学ぶことができ、公的資格や認定証を受けることができる。また、衛生管理者は、労働者の健康管理や労働災害を防止するために50人以上の労働者がいる事業所には配置が義務付けられている国家資格だ。その他、火災や地震、津波などに対する知識・技能に対する防火管理者も国家資格であり、かつ必置資格である。

経営マネジメントの視点でも、資格に基づく知識・技術は大きな武器となる。高齢者住宅業界では、不動産取引の専門家である「宅地建物取引士」を持っていれば、今後、その未来は大きく広がる。「高齢者の生活を支援する」という視点に立てば、お金の専門家である「ファイナンシャルプランナー」、年金や社会保障制度の資格である「社会保険労務士」も、高齢者の生活支援、経営マネジメントの向上の双方に役立つ資格だと言えるだろう。

高齢者介護は、寝たきり高齢者、認知症高齢者への「排泄介助・入浴介助」といった仕事がイメージされるが、そのサービスは生活支援全般に渡る。それは、全く異業種からの転職であっても、介護とは直接関係のないように見える資格であっても、そこで培った知識や専門性、資格が十分に活かせる、役立つ業界だということだ。


資格を広げるということは、人間関係・社会を広げるということ

もう一つ、伝えたいことは、資格を通じて「介護のプロ」としての視野、世界を広げるということだ。
介護業界は、事業種別を問わず、利用者・スタッフが限定される閉鎖的な環境であるため「井の中の蛙」になってしまいがちだ。毎日、日勤・夜勤と同じ人と同じ仕事を繰り返していると、精神的に煮詰まってくるか、何も考えなくなるか、どちらにしても成長は止まる。
そこで必要になるのは、事業所の外に目を向けるということだ。

全ての資格には業界団体があり、勉強会やケース検討会、制度変更に関するセミナーなどが行われている。その刺激は視野を広げるだけでなく、同じ志を持つたくさんの先輩、友人に会うことができる。事業所の外にでて、別の企業・事業所で働く介護スタッフと話をすることで、また介護業界以外の人と話をすることで、初めて介護業界のことを知り、介護のプロのとしての社会的評価・市場価値を上げることができる。

私が、介護業界に足を踏み入れたのは27歳の時、もちろん、無資格・未経験からのスタートだった。
老人病院で、看護師の補助の仕事をしながら、休日に大学の通信教育に通って社会福祉士の資格を取った。スクーリングを受けて、年齢も職種も、経歴も全く違う人たちとたくさん話をして、たくさんの刺激を受けた。今でも、5年毎に行われる介護支援専門員の更新研修に行くと、チーム討議などで、現場の生の意見、悩みをたくさん聞くことができ、それは自分が演題に立つセミナーや講演とは全く違う、たくさんの刺激、勇気を与えてくれる。

高齢者介護は生活支援サービスであり、この世にあるほとんどすべての資格が役に立つ、関係してくると言っても過言ではない。資格は、自分の技術・知識を広げるというだけでなく、自分の世界や視野を広げるために、非常に有用なツールなのだ。



ここまで、三回に渡って、介護のプロに求められる資格とその基礎について述べてきた。
介護業界には、「勉強はあまり好きじゃない・・バタバタと動いている方が好き・・」と答える人が多い。それ自体を否定するつもりはない。
ただ、プロは一生勉強を続けなければならない。勉強を辞めた時にプロとしての成長は終わり、現状の忙しさに埋没されるトキメキのない退屈な毎日がスタートする。
そこから脱却するには、日々の介護現場だけでなく、そこから離れて視点を変えて、自分の知らないことに向かっていく「Off-JT」の勉強も不可欠なのだ。
介護のプロは、高齢者の苦しみ、家族の切なさ、混乱など、要介護を取り巻く課題に対して、精神的な支援、サポートが行える専門家である。高齢者介護の勉強を続けると、「排泄介助が大変だ」「夜勤が大変だ」といった素人的な意見ではなく、人間が人間を介助する、支援することの難しさ、厳しい、奥深さ、そしてそのやりがいや重要性が見えくるはずだ。





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