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介護のキガカリ報告 記入例とポイント


介護事故予防、サービス向上に特効薬はなく、一歩一歩しかすすまない。「キガカリ報告」を行うスタッフは、それだけ介護の仕事に対する情熱がある。それは新人・ベテラン・国家資格の有無を問わない。その意欲を伸ばすも潰すも管理者・リーダーの力量にかかっている。

管理者・リーダー向け 連載  『介護事業の成否を決めるリスクマネジメント』 039


キガカリ報告の書き方、書式については、介護事故報告書同様に、それぞれの事業種別、事業規模、指揮命令系統などによって変わってきます。
ここでは、基本的な考え方と書式例、ポイントについて紹介します。

キガカリ報告書作成の流れ・書式

介護事故報告書と同じように、キガカリ報告においても、全スタッフが同じレベルの報告書を策定するというのは難しく、その知識・技術によってバラつきが出てくることになります。また、最近ではケース記録など事務作業が増えていますが、「報告書を書くのが得意」「事務作業が好き」という介護スタッフには、なかなかお目にかかりません。特に、このキガカリ報告は、事実として発生した介護事故報告書とは違うため、『事故やトラブルの種として気が付いたことは、報告書を出してください』というだけでは、まったく『報告・情報がでてこない』ということになります。

そのため、このキガカリ報告は、「口頭報告」「報告書策定はサービス責任者」というのが基本です。
介護付有料老人ホームを例に、全体の流れをイメージしたものが次の図です。

まず報告は、課題やリスクに気が付いたスタッフが、その日のサービスを統括する介護リーダー(サービス責任者)に口頭で報告します。報告を受けた介護リーダーは、その現場に出向き内容を検証します。このキガカリ報告は安全に関するものですから、迅速に対応するというのが鉄則ですが、その緊急度や内容に合わせて、時間を調整しても良いでしょう。
内容確認、検証によって、その場ですぐに対応できることは行います。放置しておけば大事故に発展するような課題については、事務所や管理者にも連絡し、緊急対応を行います。

報告書の記入・策定は、報告を受けた介護リーダーが行います。
ここで、対象や原因、リスクの概要などの他、行った緊急対応、その後の改善策の検討を行います。その過程で、必要な入居者や家族との相談、ケアマネジャーへの連絡などを行います。管理者への報告、対応策・改善策の決定を経て、改善が行われるまで、継続的に記入を行います。


キガカリ報告書は、あまり難しくせずに、必要なポイントだけを記入できるようにします。
ただし、A4といった手書きではなく、継続して記入できるように、パソコン作成にするのが基本です。

サービス改善とは何か  ~問われる管理者・事業者の力量~

この『キガカリ報告』で問われるのは、管理者・サービス責任者の力量です。
キガカリ報告書に記入するのは、リスクに気が付いたスタッフではなく、介護主任など当日の業務・サービスを統括する介護リーダーです。
口頭報告でも、その報告のレベルは、知識・技術・経験によってばらつきがありますから、言いたいことを上手く聞き出す技術が必要になります。何が危険だと考えているのか、どのようなリスクが想定されるのか上手く説明できなくても、しっかり聞き取り、内容を整理しなければなりません。適切に聞き取りや確認を行う中で、発議者(一般スタッフ)も、頭の中が整理されていきますし、次回からどのような視点で、どのような説明の仕方をすれば、上手く伝えられるのかがわかってきます。

なかには、発議者が勘違いしていることや、サービス手順やその目的が理解できていなこともあるでしょう。「前の事業所ではこうやっていた」など、方向性の違う意見もあるかもしれません。
それでも、「その提案には意味がない」「前の事業所とは違います」といった叱責や対応は好ましくありません。そうなれば、次からはそのスタッフは報告・連絡しなくなるからです。間違っていることや、誤解は訂正する必要がありますが、「なぜ、このように介助しているのか・・」「どのように対応してほしいか・・」を丁寧に説明しなければなりません。

また、挙げられた報告は、必ず回答をする必要があります。
自分の意見が取り上げられ、サービスの改善に役立つことは、仕事に対する喜び・意欲につながります。逆に、せっかく、「これは重大なリスクだ」と感じて意見を出しても、それがどうなったか、どのように処理されたかわからないようでは、上司・事業所に対する信頼がなくなっていきます。「キガカリ報告」を行うスタッフは、それだけ仕事に対する情熱があるということです。その意欲を伸ばすも、潰すも管理者・リーダーの力量にかかっているのです。
また、事業者として『キガカリ報告』をポイント制にして、ボーナスなどに反映するという方法もあるでしょう。そうすれば、必ず安全に対する認識は大きく変わっていくはずです。

業務改善とは何かに対する理解も重要です。
介護事故報告、セーフケア報告、どちらも、業務改善の方向性はある程度決まっています。
集約すると、個別利用者・入所者の事故予防対策は、「ケアプランの見直し」「個別備品の見直し」に、全利用者・入居者に関係する予防策は、「介護マニュアルの見直し」「設備備品の総点検」が、中心となってきます。

ただ、当然、課題が見つかったからと言って、すべての課題・リスクをゼロにする対策をとることは、実質的に不可能です。例えば、「開きドアで指を詰める可能性がある」という報告に対して、ドアをスライド式の引き戸に取り換えれば、そのリスクゼロにできるかもしれませんが、そのためには莫大な費用が必要になります。スタッフ配置や業務量、時間的、そして経営的にできないことは必ずあるのです。

しかし、「完全な対策が取れないと意味がないのか」と言えば、そうでありません。
介護事故予防の基礎となるのは、業務手順やハード見直し以前に、そこに事故の種、安全を阻害する要因があるということを、全スタッフが共有することです。
高住経ネットでは、介護付有料老人ホーム、介護保険施設で発生する介護事故の内容や原因を整理していますが、どの場所でどのような事故が発生しているのかが見えてきました。これに、それぞれの事業所でのリスク要因を加えれば、どこで、どのような事故が予想されるのかは、ほぼわかるのです。全てのスタッフが「この場面ではこのような事故に気を付けて介助しよう・・」という意識を共有すれば、それだけで介護事故の多くは回避できます。

リスクマネジメントの対策や介護事故予防、キガカリ報告をシステム化しようとすれば、「忙しい」「スタッフが足りない」という反発が出るという声を聞きます。しかし、「介護事故を知る」「予防を意識する」ということは、スタッフ数の多寡、業務量の多い少ないにかかわらずできるはずです。

事故の種が少なくなれば、確実にスタッフのストレスは低下しますし、業務もスムーズに動くのです。
すぐに導入が難しいという事業所は、まず、その必要性、重要性を説くことからスタートしましょう。




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